『手の中の幸せ』

○第5話○ 血の呪縛が解かれるとき(後編)










「・・・・・・・・・あ・・・あ、・・・・・・」


「・・・・・・ビオラ・・・?」





 あぁ・・・赤ちゃん・・・・・・


 私が強く望む事に背中を押してくれるのは・・・いつもあなたなんだわ・・・・・・





 ビオラは自分の中で起こった変化に大粒の涙を零し、心配そうに見つめるクラークの首に腕を回した。



「・・・・・・クラーク・・・・・・、私・・・・・・あなたを・・・好きになる・・・から・・・・・・」

「・・・・・・・・・っ」


 消え入りそうな声で懸命に吐き出したその言葉にクラークは瞳を揺らし、ビオラを強く掻き抱いた。

 激しく唇を重ね、彼女をベッドに運び、クラークはもどかしそうに己の上衣を脱ぎ捨て、彼女のドレスに震えながら手をかける。


「・・・はは・・・っ、・・・こんなに震える事があるなんて・・・・・。本当に君の全部を欲しがってもいいの・・・・・?」


 苦しそうに息を吐き出して問いかけるクラークに対し、ビオラは小さく頷いた。

 あまりに突然降ってきた幸福に、クラークは息をするのも忘れそうになってしまう。
 彼はこれまで、自分の中の何かが誰かで支配されてしまう経験など味わったことがない。
 触れるだけで震えるなど、欲しがる事を赦されて苦しくなるなど、こんな想いはビオラと出会って初めて知ったものだ。

 止まらない、止めようがない・・・
 彼女の存在が、一秒ごとに私の中を埋め尽くしていく・・・。


 クラークはそんな事を考えながら、彼女の身に纏うものを全て取り去って、目の前に現れた美体に思わず息を漏らした。


「・・・・・・・・っ・・・・、・・・とても・・・綺麗だ・・・・・・」

「・・・・・・そんなに見ないで・・・」

「・・・隠さないで。・・・君の身体の隅々まで・・・全てを知りたい・・・・」


 恥ずかしそうに身を隠すビオラの手を掴み取り、クラークはうっとりと目を細めた。
 そのまま誘われるように滑らかな肌に唇を寄せて、胸の膨らみをゆっくりと辿る。

 胸の蕾を口に含み、味わうように丹念に舌で転がしていくと、切ない吐息が彼女から漏れるのを感じ、それだけの行為が彼をどこまでも夢中にさせていく。


 ビオラの反応も先程までとは明らかに違っていた。

 レイドック以外に此処まで触れられているというのに、今の彼女は何の嫌悪感も拒絶感も抱いていない。
 それどころか、クラークが触れただけで甘い疼きが全身にじわじわと広がって、その予想外の感覚は己の自制心すら危ういものにしてしまいそうになる。
 まるで、彼を受け入れる為に身体が作り替えられてしまったかのような、とても言葉にし難い不思議な感覚だった。


「・・・はっ、・・・あ・・・いや・・・」

「・・・・・・ビオラ・・・・・・君は全てが甘いね・・・・・・」


 惜しむように胸の頂から唇を離し、彼女の肌の上を滑るように舌を突き出して脇腹も腹の中心も余すところ無く味わい尽くす。
 そうして徐々に下腹部まで唇が辿り着くと、その先の行為を想像して我に返ったビオラは首を振り、慌てて身を捩った。


「・・・いやっ、いやっ、そんなことしないで・・・っ」


 顔を真っ赤にしながら涙を溜めて。
 そんな姿がこれまで以上にクラークの胸を熱くする。


「ビオラ・・・・君のここがどんなに甘いか・・・私に教えて・・・。ね?」


 そう言って上体を起こして彼女と唇を重ねる。
 ビオラの意識がキスに集中するよう甘く深く舌を絡ませ、彼はその間に下腹部に指を滑り込ませ、中心にそっと触れた。


「・・・ぁっ、・・・っ、・・・クラーク・・・・・・、いや、いや・・・っ」


 しがみつき小さく喘ぐ様が堪らない。
 彼は堪えきれずに中心に触れた指を彼女の内部に少しだけ沈み込ませて反応を窺った。


「あっ、・・・・んっ・・・」


 目の端から涙がこぼれ落ち、ビオラは吐息を漏らした。
 ほんの少しだけ緩急をつけて優しく中を刺激すると、目をトロンと潤ませて抵抗を忘れてしまったかのように力が抜けていく。


「・・・嬉しい・・・・・・、感じてくれているんだね」

「・・・クラーク・・・っ、・・・ん、ん」


 既に濡れ始めている内部をゆっくりと浅く深く刺激しながら、クラークはビオラと何度も唇を重ねた。
 徐々に強ばった身体から余計な力が抜けて、与えられる刺激に対して素直な反応だけが取り残されていく。

 彼はビオラの反応ひとつひとつに注意を祓って、触れるだけでも心地良いと思わせるような甘やかさで、ゆっくりと時間をかけて彼女の快感をひとつひとつ見つけ出していった。
 性急ではない甘い愛撫は羞恥すらも溶かしてしまうほど優しく、恥ずかしいと思う事も、いつのまにか違うものへと塗り替えられていくようだった・・・。

 身も心も余すところ無く愛撫されて、何もかもを預けてしまったらどれだけ心地良いだろう・・・そんな感覚に全身が支配されていく。


「あっ、あっ、・・・あぁっ」


 気づけば彼はいつの間にかビオラの身体の中心に顔を埋め、股の内側に何度も吸い付き、紅い痕を無数につけていた。
 それすらも声をあげるビオラの姿にクラークの胸は更に熱くなる。


「あぁっ、・・・はぁっ、あ、あ・・・っ」


 そうして辿り着いた彼女の中心には彼の指が間断なく刺激し続けて濡れそぼった姿があり、クラークは目を細めてそれを引き抜くと、今度は唇と舌を使って更なる快楽を引き出そうとした。
 どこまでも甘い彼女の身体は他の何にも例えようが無く、いつまででも味わっていたいと強く思わせる。

 クラークは快感に濡れる其処から溢れる蜜を舐め尽くそうと夢中で舌を突き出し、身悶える身体が愛しくて全てを食べ尽くしてしまいたいと思った。



「・・・あっ、あっ、・・・だめっ、だめ・・・ッ、・・・あ、あぁっん・・・っ」


 頬を紅潮させて首を振り、彼女はガクガクと身体を奮わせた。
 息が上がって強請るような表情が可愛くて、少しだけ苛めたくなってしまう。


「・・・・・・大丈夫だよ、・・・このまま果てるまでしてあげる」

「やっ、ちがう、のっ、・・・あっ、あっ、あっ、そんな・・・・・・っ、いやっいやっ、クラーク・・・っ、いやなの、おねがい、・・・っ、クラーク、クラーク・・・っ」



 あぁ、こんなに愛しい事はない。

 ビオラが愛しくて、可愛くて・・・・、どこまでも甘く溺れさせて、心ゆくまま可愛がりたい・・・


 クラークはあと一押しで達してしまうほど追いつめられた下肢への刺激を止め、彼女を抱きしめた。
 目の縁を紅く染め上げ、涙を溜めたビオラと視線がぶつかる。



「・・・・離さない・・・君は私のものだ・・・」

「・・・・・・んっ、っ・・・あ・・・・っ」


 唇を重ね、彼女の身体に熱く猛った己を宛がい・・・



「・・・んん・・・っ、っふ、んぅ・・・っは、・・あぁーーっ」


 ビオラはクラークにしがみつき、自分を貫く熱さと質量に声をあげた。
 びくびくと身体中が快感にふるえ、ゆっくりと奥まで開かされていくのを身を以て感じる。


「・・・っ・・・、・・・ビオラ・・・・・・・っ、・・・すごく熱い・・・・・・・・」


 ぶる・・・とクラークの背筋が粟立つ。
 少し動くだけで絡みつく彼女の中はこれまで感じたこともない快感を生み、油断した途端全てを一瞬で持っていかれそうで、クラークはどうやって気を逸らせばいいものかと身悶えた。

 それでも何とか己を取り戻すことが出来たのは、僅かに動くだけで彼女が声をあげるのを耳に感じて、更なる欲望が頭を擡げたからだった。


 もっと乱れさせて、激しく喘ぐ彼女を見てみたい・・・
 腕の中で果てる彼女はどんなに淫らな瞳で私を誘うだろう。


 自身が快楽に呑み込まれることよりも、彼女のそういう姿を目に焼き付けたい。
 クラークは彼女の中を探るように掻き回し、先程の愛撫で時間をかけて見つけた彼女の弱い部分にあたるよう、意地悪なほど其処ばかりを執拗に責め続けた。



「あっ、あっ、ああっ、んんっ、クラーク、クラークっ」


 ビオラは押し上げられる快感に身悶えながら首を振り、ポロポロと涙を零す。


「・・・・・・ビオラ、・・・ここでいい? 私は君を気持ちよくさせてあげてる・・・?」

「っ、あ、・・・あぁあっ、・・・や、・・・ッそこ・・・、やぁ、・・・っ、・・・私、・・・あっ、んぅ・・・ふぁっ、あぁあっ、・・・あっ、あっ、・・・クラーク、クラーク」


 無意識に腰を揺らし、クラークにしがみついて切なく喘ぐ姿が堪らない。
 甘えるように声をあげる彼女がどうしようもなく可愛くて、そんな顔を見ただけで、より高みに導いてやりたくなってしまう。


「・・・・・もっと君が欲しいよ、一番奥まで受け入れて・・・」

「あっ、あっ、・・・そんな・・・っ、・・・あぁあっ、・・・もう、もうっ・・・クラーク、・・・やあっっ!」

「ビオラ・・・もっと? もっと強い方が好き?」

「やっ、やぁっ、あっぁあっ」

「言ってくれたらご褒美をあげる。・・・欲しいだけあげるよ?」


 コクコクと首を振り、彼女は泣きながらクラークの首に抱きついた。
 童女のような仕草と快楽に溺れた瞳で、熱い吐息が彼の首筋を撫でる。
 これ以上無い程の雄を刺激され、クラークは一度だけ彼女の最奥まで己を突き立てた。


「・・・ねぇ、ビオラ?」

「あっああっ、・・・おねがい、クラーククラーク、もっともっと、ああ、ああ、あ、あ、あっ」


 普段だったらそんな事は絶対に口が裂けたって言わないだろう。
 彼女はもう、自分が何を言っているのかすら理解していないのかもしれなかった。

 クラークは陶酔しきったように甘い息を吐き出し、ビオラの両足首を掴んで左右に大きく開くと、激しく腰を打ち付け始める。


「あっ、んん、クラーク、クラーク・・・っ、もっと、ああぁ・・・っ、あぁっ、ああっ、あーーっ!」

「ビオラ・・・、いい子だね、好きなだけ私を欲しがっていいんだよ」


「あっ、あっ、ああっ、あーーっ、あぁーーーっ」


 クラークは彼女が直ぐにも上り詰めてしまいそうな限界に立っていることを肌で感じ、一層強く深く彼女の中に自身をたたき込んだ。



「・・・あッ、ッ、あっ、・・・ッッ、ああぁああーーーーーっ、い、・・・あーーーーっっ」


 あまりの衝撃にビオラは弓なりに身体を反らし、足の指先までもクラークに与えられたもので満たされ、悲鳴にも似たような声をあげた。
 その直後、ビオラの中がきゅうぅと絞まり、全身がびくんびくんと奮え出す。

 信じられないほどの絶頂に身体中を支配され、何もかもがはじけ飛んでいく錯覚に意識が飛びそうになる。

 その間も自分の中に激しく打ち付けられる熱を強く感じたビオラは、頭の中が真っ白になるほどの深い快感に呑み込まれ、次第に意識が曖昧になっていく。



「・・・・・・・・・あ・・・あ、・・・は、・・・・・・あぁ・・・・・・・・・、・・・・・・ぁっ・・・」


 クラークは、その一部始終を熱の籠もったアイスブルーの瞳で見つめ続け、溜め息が出るほど美しく淫らに果てる彼女に、これ以上無いほどの狂おしさを感じていた。


 ・・・堪らない。
 このまま際限なく自分のものにしてしまいたい・・・


 未だかつて経験した事がない感覚で胸の中が埋めつくされてしまうのを感じながら、汗の粒が浮かぶ彼女の額に唇を寄せ、クラークはビオラの身体をきつく抱きしめる。



「・・・ビオラ、・・・・・・君が可愛くて堪らないよ・・・・・・」


 彼女の顔中にキスの雨を降らせ、甘い唇に舌を差し込み食べ尽くすように咥内を貪っていく。
 達したばかりで苦しいのか小さく喘いで抵抗する姿が弱々しくて愛おしい。

 こんなにも誰かを愛しいと思うものなのか・・・
 こんな想いが存在するのか。


「・・・ん、んぅ・・・はぁ・・・う・・・クラーク・・・」


 彼は未だ吐き出すことなく収まらない欲望をそのままに、今度はビオラを抱き上げ自分の上に彼女を跨らせた。


「・・・あっ・・、やぁ・・・奥・・・・・・熱・・・ぃ・・・・・」

「ビオラ・・・可愛い・・・」

「・・・・あっ、・・・私・・・まだ・・・・・、んん・・・っ」


 ビオラは一層深くなった繋がりに身を捩ったが、逃がさないとでも言うように塞がれる唇と、彼の中にある果てしない情熱を前に為す術無く飲み込まれていく。


 求められ、身体を揺さぶられ、

 ビオラはその夜、クラークの熱を彼の望むままに一晩中受け入れ続けた。


 ───甘い声を吐き出す自分を、どこか遠くに感じながら・・・










 レイドック・・・・・・



 この決断が間違ってると、酷い事をしていると、赦せないと・・・、あなたは私を軽蔑する・・・?




 だけど私は、生きたいと叫んでいるこの子が愛しくて堪らないの。


 誰より生きたいと思っているのはこの子よ。
 なのに不安で大きくなることすら出来ずに、放っておいたらあの日の私たちのように、このまま消えて無くなってしまうかもしれないんだわ・・・




 私は・・・・いつか絶対に、この子をこの手で抱きしめてみせる。



 その為だったら何だって出来るわ。
 クラークの側にいることが与えられた選択肢の全てなら、彼の側で全てを叶えてみせる。

 誰に憎まれようと、あなたに軽蔑されても構わない。





 だから私は、全てを秘密にするかわりに、クラークを愛する事を決めたの。


 いつかレイドックよりも彼を愛せたら・・・・・・それがきっと一番幸せな道なんだと思う・・・・・・。









第6話へつづく


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