『運命の双子』
○第1話○ それは愛か恋か(後編) 「ぅわあっ!!!??」 “それ”は王宮の地下に存在し、見た目だけは本当に自分達とは何一つ違いがない生き物だった。 二人が地下室に足を踏み入れるなり怯えた顔で悲鳴をあげているのも、別段いつもと変わらない光景だ。 「ビオラ、食事だ」 「・・・・・・いやっ」 「彼らは死ぬわけじゃない。終われば元の世界へ帰れる。今僕たちに出逢ったことも記憶に残さないから大丈夫だよ」 「・・・・・・でも、だってっ、見てるもの、怯えてるわっ!!」 「僕たちが食事をしなければ、彼はずっと家族に会えないんだよ? それでもいいの?」 「それは・・・よくない、けど・・・でも」 「そう、・・・わかった。ビオラが食事を摂らない間は僕も摂らない」 「えっ」 レイドックは少し怒った風に目を逸らし、黙り込む。 ビオラがどうでるのか見ていようと言う腹らしい。 「だっ、だめ。レイドックはだめ。・・・っ、そんなつもりじゃ、だって・・・・・・・・・っ」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・わか・・・った、・・・・・・・・・・・・」 項垂れたビオラの様子が幼子のようだと思った。 レイドックは微笑み、ビオラに顔を寄せると安心させるように囁いた。 「大丈夫。彼の首筋に触れるだけで終わるよ。少し貧血になるくらいだし。・・・まぁ、痣は数日消えないかも知れないけど、殆ど痛みはない筈だから」 「・・・・・・ほんとう?」 「僕はビオラに嘘は言わない」 彼の言葉に、ビオラが大きく頷く。 レイドックはそれを合図に、目の前で怯える"それ"の意識を奪った。 暴れられるのも面倒だし、意識がない方がやりやすい。 確かに彼らは喋るし、笑う。 泣きもすれば怒りもする。 外見すら我々と何ら変わりはないように見える。 違うとすれば我らが気の遠くなるほどの寿命を持つ種族であることと、一定の年齢を過ぎると老いが止まるという事。 老衰まで程近い者でも、見た目は20代〜30代、勿論もっと年老いて見える者もいるが、中には10代の外見で成長が止まる者もいる。 後は、彼らには無い“力”を持っていることくらいだろうか。 そして、我々が生きていくために必要なのが彼らの血液。 他には何も必要としない。 少量あれば一月は過ごせる。 殺す気などはない。 いただいたら記憶を消して元の世界に戻すだけ・・・ レイドックは、気を失い、床に倒れ込んだ"それ"を無感動に見つめる。 まだ若い。 ───まぁ、 ビオラの気持ちも、分からなくはないか・・・・・・・・・ ▽ ▽ ▽ ▽ 食事が終わり部屋に戻る間、ビオラは複雑な面もちでいた。 それを横目で見やり、レイドックは諭すように話しかける。 「ビオラ、あのままだったら自分がどうなっていたか、考えたことはある?」 「・・・・・・え?」 「この世から消えてしまうんだよ」 哀しそうな目を見て、ビオラはグッと詰まった。 やはりというべきか・・・そこまで考えていなかったようだ・・・。 「・・・・・・」 「僕はビオラが消えて死んでしまうなんて考えられない。とても堪えられないよ」 「・・・レイドック・・・」 「ビオラがいない世界なんて生きる意味がない。死んだ方がよっぽど」 「やめて。・・・・・・そんなこと言わないで。もうしないから、ごめんなさい・・・・・・」 自分のしたことで、彼を傷つけたと知ったビオラは苦しそうに眉を寄せた。 死ぬとか生きるとかそんなことを考えていたわけではない。 ただ、彼らを食することに抵抗を感じただけ。 レイドックにそんな顔をさせると分かっていたら、最初からこんな事はしなかった。 「レイドック」 「・・・うん?」 「わたくしのこと、キライにならないで?」 「・・・ならないよ・・・好きだよ」 「ほんとう?」 「・・・誰よりも愛してる」 この言葉の中に、あってはならない感情が入り混じっていることなど、もうとっくに気付いてる。 ビオラは無邪気な分、精神的にはまだ幼い。 きっと僕のこの感情には気付かないだろう。 他の誰かは思いつかない程に・・・ ビオラだけ、後はいらない・・・ そこまで思い、レイドックは少し瞳を翳らせる。 「でも、僕たち皇族には呪わしい過去があってね」 「うん?」 「その所為で、僕たちは危険視されてる。だから、皆の前では僕に好意を抱いているような言葉は言っちゃいけない」 「こうい?」 「好き、とかね、そういう言葉」 「・・・・・・ふぅん」 「だから、誰にも言ったらいけない」 どんな些細な感情からだとしても、言ったら最期、もう二度と君には逢えないだろう。 忌まわしい過去は、“ツケ”となって僕たちにまわってきたんだよ・・・ レイドックは自分たちを引き裂く結末を何よりも恐れ、ビオラにも自分にも言い聞かせるように囁く。 「わかった、ひみつ。でも、かわりに一つだけおねがいしていい?」 「おねがい?」 あまり理解したとは思えない顔だが、彼女はお遊び気分で納得したようだ。 今はそれでもいい。 彼女の言うおねがいを聞いて事足りるのなら─── 「大きくなったら、レイドックのお嫁さんにしてね」 「・・・・・・っ」 「レイドックが、世界で一番だぁいすき♪」 目の前が霞んでしまいそうだ。 ・・・だが、これはそこまでの感情で言われた言葉ではない。 夢物語と分かりつつ遠い幻想を抱き、レイドックは妹を喜ばせるためだけに小さく頷くのだった。 「・・・いいよ」 嘘はつかないなんて・・・ 僕は、誰よりも嘘つきだ。 淡い想いなら、戻れるうちに消してしまえば済んだかもしれない。 だけど、産まれた瞬間から特別なのは君だけだった。 わかってるのはただ一つ、 天も地も、全てのものがお赦しにならない感情だと言うこと。 だが、それが分かっていて、ここまで惹かれてしまうのは一体どうしてだろう? 背徳心から? 禁忌ゆえに? きっと違う。 産まれた場所を間違えたんだ。 だってこんなにも確かじゃないか。 君がいるから、笑うことが出来るんだ─── 天も地も、全てのものが赦さないとしても。 君を、誰よりも欲しているのは僕なんだよ・・・ 第2話へつづく Copyright 2005 桜井さくや. All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission. |