『ワガママで困らせて。』

○第6話○ オレだけを困らせて【その2】










 仕方なく諦めて帰ろうと、オレは昇降口に靴を履き替えに向かった。

 そこで、ちょうど帰る所だったらしいナッちんと亮に出くわす。
 ふたりとはさっきまで教室で喋ってたし、また会う事になるとは思わなかったからちょっと驚いた。



「流花ちゃん迎えに行ったんじゃなかったの?」

「・・・先に帰ってくれってさ」

「ふ〜ん、カレシでも出来たんじゃないの?」

「そんなわけないだろ」

「どうして?」


 オレがそのカレシだからだよ。
 心の中でオレはつぶやく。


「・・・べつに・・・流花を見てれば、それくらいわかるからだよ」


 ふたりには流花とのことを言ってないこともあって、それを口に出すことは何となく出来なかった。



「そう? じゃあ、まだ僕にもチャンスはあるかな」

「えっ!?」

「あっ、ナッちんずりぃ! おれの方がチャンスあるんだからな。流花ちゃん、いつもおれに笑いかけるんだぞ」

「そんなの僕にだって笑いかけてくれるよ。亮のは単なるカンチガイ」

「カンチガイじゃない! ナッちんこそ、チャンスなんてぜーったい無いよ!」

「絶対ってことはないでしょ」

「ちょちょちょちょ、ちょっと待てよ、ふたりとも!!! 何でふたりが流花のコトそんな風に言うんだよッ、今までそんな素振りはゼンゼン・・・」


 オレはあまりのことにアワアワしながら盛り上がる二人の話の腰を折る。

 一体どういうことだ?
 じょ・・・冗談だよな・・・・・・?


 しかし、ナッちんは呆れたように溜め息を吐いて・・・


「僕たちのどこをどー見たら素振りがゼンゼンなわけ? これでもね、隙あらば話しかけたり側に近づこうって努力はちゃんとしてきたよ? 高校まで追いかけて、ねぇ、亮?」

「そーそー!! テツだって流花ちゃんがいるからココ受験したんだろぉ?」

「えっ? えぇッ? だだだって・・・ナッちんなんて、カノジョ・・・いたことあったよな? 知ってるだけで3人は・・・」

「そりゃ、経験は積んどくに越したこと無いでしょ? 女の子は大好きだしね」

「おれは流花ちゃん一筋だぞ!」

「亮はモテないだけ。がさつすぎるんだよ」

「なにー!!」

「・・・・・・・・・・・・」

「まぁ、流石にテツがカノジョ作った時は僕たちも肩組み合ってカンパイしたけどね」

「・・・・・・は?」

「流花ちゃんにいっつもくっついてガードするからさ、これでやっと近づける〜って喜んでたわけ。それがあっという間に別れちゃって元通りでしょ? もーガッカリしたのなんのって」

「今じゃ、前よりガードがキツイし、友達甲斐がないよな〜」


「・・・・・・・・・・・・」



 な・・・


 なんだよ、ソレ。
 じゃあ・・・オレ達3人とも、この高校に入った理由が同じだったっていうのか・・・?

 もしかして、オレってにぶいのか?
 こんな近くにライバルの存在があったなんて、これっぽっちも気づかなかったぞ。

 しかも、これだけ流花としょっちゅう一緒にいるオレの存在が、何となくスルーされているような気がするのは・・・


「・・・オレって・・・どんな風に見られてんの?」

「「は?」」

「オレって・・・、流花の何だと・・・」


「「・・・・・・何って・・・」」


 ふたりは考え、同時に言う。


「「・・・・・・・・・オトウト・・・?」」



 がくっ。


 ・・・お前達もあのクラスメイトと同じか。
 弟でも何でもないオレを安全パイと見なすのか。

 召し使いの少年じゃないだけマシっちゃマシだけど、そこにオトコとしての危機感はないわけか。


「・・・・・・・そーかよ」


 切なさが募り、ひとり寂しく微笑みを浮かべる。
 そして、コイツらに流花とのコトは当分言っちゃならない、ということを、この時オレは痛烈に理解したのだった。

 ホントのコトを知ったら何をされるか分かったもんじゃない。
 少なくとも『コブラツイストすぺしゃる』では終わらないというのは、断言してもいい・・・





「あっ、流花ちゃん、見〜っけ!」


 校舎の前を歩いていると、亮が上を見上げて指をさす。
 その声でナッちんもオレも上を見上げ、流花の姿を探した。


「・・・・───あ?」


「って、何だよ、あのオトコ〜〜〜ッ!! やけに流花ちゃんにくっついてない?」

「テツ、流花ちゃんってカレシいないんじゃなかったの?」

「・・・・・・え、・・・・・・・・だってそれは・・・」


 ナッちんにそんなコトを言われて反論しようとしたけど、見上げた先にある光景に、オレはそれ以上の言葉が見つからず、無言でもう一度それをジッと見つめる事しかできない。



 あの場所って・・・多分・・・図書室だ。


 窓際に流花が座って・・・・

 オトコが流花の後ろに回り込んで、流花の背中にピッタリと密着しながら何か話してる。


 亮が言うとおりだ。
 客観的に見ても、やけにくっついてるように思える。

 見ようによっては後ろから軽く抱きついてるようにも・・・


「・・・おれ、あの人知ってるよ。バスケ部のエースだった人だろ? カッコイイって、ウチのクラスの女子が騒いでた」

「結構有名な先輩だよね、テストも大概総合で5番以内に入ってるって・・・噂で聞いたことある」

「ウワサ・・・それって実は、ダレ情報?」

「・・・・・・仲の良いオンナの先輩情報」

「ナッちんの女たらし」

「あくまで仲の良い先輩だから」

「うそくさいなぁ」


 ふたりの話をぼんやり聞きながら、オレはそのオトコをジッと見上げた。


 そう言えば・・・流花のクラスにあんなオトコがいたかもしれないと、うっすらした記憶の中を探りだす。
 オレがクラスまで流花を迎えに行くと、必ず睨んでくるヤロー共の中のひとりに・・・あんなヤツがいたような気がする。



 ・・・でも・・・だから何だって言うんだ?


 どうして流花がアイツと一緒にいるんだよ。

 しかもあんなに密着してるのにイヤな顔ひとつしないで。
 オレがいるのに、・・・・・・どうしてそんなコト、・・・流花は許してるんだよ。



 流花を抱きしめるのは、オレだけだろ?

 流花がそれを望むのは、オレだけのはずだろ?



 昨日だって言ったじゃん。


『テッちゃん、もういっかい、ぎゅってして』




 それとも・・・、それを望むのは、


 ───もうオレじゃなくていいって、本当は思ってるのか?








「・・・・・・・・・」


「テツ・・・? どした?」


 ・・・だめだ・・・、

 腹の底から何かが沸きあがって、口から噴き出しそうだ。




「・・・・・・・・・・・・、吐きそ・・・・・・」



 このままじゃ、オレ・・・今日中におかしくなる。

 直ぐにでも、おかしくなりそうだ。



 流花のことだと、オレは簡単に崩れてしまう。





「・・・・テツ、だいじょうぶ?」

「・・・ぅ」

「う?」



 ・・・どんなことでも笑って受け止められるような大人になりたいだって?


 笑える。

 笑いすぎて腹がよじれるっつーの。




 そんなもん、



 なれるわけねーだろ!!!!!






「うわあああああああああああああああ」





 オレは叫び声を上げながら、再び校舎に向けて走り出した。
 頭の中がどうなったのか、もうゼンゼンわからない。


 だけど、流花がこのまま離れていくことだけは黙ってられなかった。



「ナッちん、大変だ! テツがおかしくなった!!」

「・・・だね」

「止めないと、暴れるよアレはッ!! おれたちも行こうッッ!!!」


「・・・・・・うん。・・・・・・見なきゃソンだよね」

「その通りだッ!!!」




 亮とナッちんがそんな会話をしていることも知らず・・・


 オレは図書室まで全速力で走ったのだった。










その3へつづく

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