『ワガママで困らせて。』

○第6話○ オレだけを困らせて【その3】










 ゼェ、ゼェ、

  ダダダダダダダダダダ


 ハァ、ハァ、

  ダダダダダダダダダダ



 オレは超速で一気に階段を駆け上がる。

 図書室は5階だから相当息が上がっているのだが、苦しいなんて思う余裕などオレにはなかった。


 流花を簡単に渡してたまるか。
 このまま黙って二人の行く末を見守るなんて出来ると思うな。

 その思いがオレを突き動かす全てだった。




 バターーーーーーンッッ・・・・・・




 オレは勢いよく図書室のドアを開け放った。
 一斉に視線がオレに注目する。


 その中に、流花の視線もあった。



「・・・・・・テッちゃん?」


 窓際に座って、流花がこっちを見て驚いてる。

 そして、流花の後ろに回り込んだままの密着に近い姿勢のオトコも・・・。


 オレは『ぐっ』と拳を握りしめて何とか息を整えると、早歩きで流花の座っている場所まで真っ直ぐ近づいた。


「帰ろう」

「え?」

「帰ろうッ!!!」

「え? 先帰ってって伝言は・・・」

「聞いた! でも、帰ろうッッ!!!」


 ガシッ、と流花の腕を掴んで引っ張る。


「・・・・・・なに? どうしたの?」


 戸惑う流花の様子を無視して、オレは流花を図書室から連れ出す。
 後ろからオトコの声が聞こえた気がしたけど、そんなのどうでも良かった。


「テッちゃん、テッちゃん、一体なんなの? 私、荷物置いたままだよ、帰れないってば」

「・・・・・・」

「テッちゃんったらっ! 何でこんなコトするの? 変だよ、テッちゃん」


 オレは流花を掴む手に力がこもるのを感じた。


「・・・イタ・・・ッ・・・」


 ハッとして直ぐに力は緩めたけど、血が上った頭の中は未だどうしようもなくて。
 オレは足を止めて、抑えようのない感情を持て余しながら流花に振り返った。


「・・・・・・流花が悪いんだ」

「え?」

「オレのだって言ったくせに、全部あげるって言ったのに、流花がウソついたんだろッ!」

「・・・・・・なんのこと?」


「周防さん」


 そこへタイミング良くあのオトコが追いかけてきて。


「あ、二ノ下くん、ごめんね」

「ゼンゼン、・・・なんかあったの?」

「ううん、だいじょうぶ」

「・・・でも」


 ソイツは女子共が騒いでるっていうのが納得出来るような爽やかさで流花に話しかける。
 流花も笑顔を向けてるから、そこは一気に二人の世界と化し、オレの居場所が消えて無くなってしまいそうになる。


「・・・・・・流花、ソイツが好きなの?」

「え?」

「だからオレと一緒にいるの避けてるの?」

「なに・・・」

「抱きしめるのもキスもオレじゃだめなのかよッ」

「ちょ・・・、テッちゃ・・・」

「ソイツの方がいいの? オレじゃなくて、ソイツがいいの?」

「・・・テッちゃん・・・、ちょっと」

「オレじゃ、エッチしても満足できないからッ!?」

「・・・ッ!」

「全部演技だったの!? イッたフリしてたの!? 気持ちいいのオレだけで、流花はゼンゼンだったのッ!?」



「・・・ッッ、テッちゃんッッッ!!!!!」



 バチーーーーンッ



 オレは突然平手をくらい、背中にあった壁に頭をゴチンとぶつけた。

 頭がぐらんぐらんして、お星さまがフワッフワッ飛んできらきら光る。




「ばかっ!!」


 バチーーーーンッ





「テッちゃんの、ばかーーーーッ!!!」


 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチーーーーンッッ






 史上稀に見る、すごい連打だった。


 お星さまは流星群となり、その全てが一斉にビュンビュン飛び散って・・・


 その衝撃のすごさに、オレはそのまま尻餅をついた。




「・・・・・・るか・・・いたい・・・」


 オレはボクシングで1ラウンドKO負けしたような疑似体験を味わいつつ、アホのような一言をつぶやいて、呆然と流花を見上げる。




「立つのよ、テッちゃん」

「・・・・・・ふぁい」


 流花は何やら恐ろしい巨大なオーラを放ち、オレに命令した。
 それにオレが逆らえるはずもなく、ぐらんぐらんする頭の中を叱咤激励しながらフラフラと立ち上がる。



「帰るわよ、テッちゃん」

「・・・・・・ぁい」


 流花はオレの返事を聞くなり腕を引っ張り、廊下を歩き出す。
 オレはそれに着いていくのが精一杯で、既にここがどこかも分からなくなりかけていた。



「あ、夏樹クン、リョウくん、私の荷物図書室なの。明日まで預かってもらっていいかな?」

「ゼ、ゼンゼン、流花ちゃんの頼みなら」

「モモモチロンッッ、明日まで大事に預かるぞッ!」

「ありがとう。・・・あ、二ノ下くん、今日は帰るね。“みんな”にも言っといてくれるかな。ばいばい」

「・・・あ、うん。ばいばい・・・」


 どうやらそんな会話があったらしいのだが、これらの記憶はオレの頭にインプットされることは無かった。

 ただ、流花に引っ張られ、とにかくぐいぐい引っ張られて。






 気づけばここは流花の部屋。

 オレ達、瞬間移動しちゃった! と思う間もなく、あろう事かオレはベッドに放り投げられていた。



 流花はオレの身体をまたぎ、恐怖のオーラを引き続き放出し続けながら、うっすらと笑う。



「・・・・・・・・・っ」


 どうせなら、この記憶もお星さまに掻き消されてしまった方が、シアワセだったかもしれない・・・










その4へつづく

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