『ワガママで困らせて。』
○第6話○ オレだけを困らせて【その4】 「テッちゃんは、私をなんだと思ってるの?」 流花はオレの上にのしかかって、頬をギュウゥッとつねった。 「・・・イッ、・・・〜〜〜っ、っ、」 「悪いお口にはお仕置きよ! ・・・ヒトを淫乱か欲求不満みたいに、・・・まるでテッちゃんとスルのが飽きちゃったから乗り換えました、みたいな? 満足出来なかったので別のヒトにしました、みたいな? 何でそんな言い回しされなきゃいけないのよ!」 もう一度ギュウゥッとつねられて、オレは首をブンブン横に振った。 「しかも他のヒトの前であんなコト言ってっ、明日からどんな顔すればいいのよっ、テッちゃんのバカーーっ!!」 「イィ〜〜ッッ!!」 「自分が何を言ったかわかってるの!? ウソつき呼ばわりしてッッ!!!」 「イッ、・・・〜〜ッ」 「私のどこがウソつきだって言うのッ!!! 抱きしめるのもキスも、その先も全部全部、テッちゃんじゃなきゃイヤに決まってるでしょーーーーーッッ!!!!!」 流花は・・・ ぎゅうううう・・・っと、ひとしきりつねって。 「・・・・・・ばか」 小さくつぶやいて泣いた。 「・・・・・・流花・・・」 「・・・・・・・・・目の前のぜんぶ・・・、・・・テッちゃんのでしょ」 「・・・ッ!! ・・・・・・流花・・・・・・、オレ・・・・・・ッ、・・・・・・ごめんっ」 オレ・・・・・、 ホントにばかだ。 どうして流花を泣かせるんだ。 どうして流花を信じないんだ。 ちょっとの事で動揺して、キリキリして、ちっとも余裕なんて無くて。 「・・・他には?」 「・・・・・・え?」 「テッちゃんが隠してる気持ち、全部言って。他にはどこがイヤだったの? えっちのこと?」 「・・・・・・う、・・・・・・うん・・・」 「しばらくしないって言ったから?」 「・・・そ・・・それも・・・ある・・・・・・」 「じゃあ、他になにがあるの?」 「・・・ぅ」 オレは言葉に詰まって目を泳がせた。 いっぱい考えてたことがあった・・・それが恥ずかしくて。 ごちゃごちゃ余計な事ばかり考えて、そのくせ流花には聞こうとしないで。 かっこつけて、結局こんな風に泣かせて。 強がらずに最初から全部聞けば良かったんだ。 「・・・・・・ひ・・・、昼も・・・帰りも・・・・・・、一緒じゃない時・・・、・・・流花は何してるの?」 「え?」 「今日も・・・何してたの? あのオトコが流花にくっついて、流花に触るから・・・それでオレ・・・」 「・・・走ってきたの?」 「・・・・・・そう」 流花はオレが頷くと小さく首を傾げて笑った。 そんで、赤く腫れた頬をゆっくり撫でて。 「私、高3だよ? 次にどう進むのか決めなきゃいけないのよ」 「う・・・ん」 「あのね、私、希望大学があって、そこの推薦がとれそうなの。・・・でも、ちょっと不安な教科があって・・・」 「・・・・・・うん」 「塾行ってるヒトも多いし、毎回メンバーが変わるだろうけど、“みんな”で苦手分野克服しようって話になって」 「・・・う、・・・うん」 「勉強・・・してただけなんだけど。さっきも、ウチのクラスの子たち他にも何人かいたんだけど」 「・・・・・・えっ」 「二ノ下くん頭イイから、教え方もうまいんだよ?」 「だっ、だけど、あんな風にくっつくのって変だと思うッ!」 オレはちょっとだけ反論した。 はっきり言って流花のクラスメイトが他にもいたってのは、これっぽっちも目に入らなかったオレが100%悪いと思う。 だけど、教えるからって後ろから抱きつくみたいなのって、オレにはゆるせなかった。 「・・・・・・くっついてた? そんな事ないと思うけど」 「くっついてたっ!! べったり後ろから!!! 抱きついてるみたいにッッ!!!!」 「どーやって?」 「だからこうやって!!!」 オレは上にのし掛かる流花の身体を降ろして起き上がり、あの様子を再現する。 流花の背中にさり気なく後ろからくっついて、耳元に息がかかるくらい密着して。 「・・・・・・こんなかんじ」 「・・・・・・っひゃ」 息が耳にかかり、流花は小さく声をあげた。 後ろにいるオレにも分かるくらい肌を真っ赤に染めて。 「うそぉ〜〜っ」 「・・・・・・ホントだよ?」 「・・・・・えぇ〜・・・」 流花は息がかかる度にビクビクふるえている。 その姿がオレを刺激して、堪らない気持ちがどんどん募る。 こんなに近づいてるのに分からないなんて、どれだけ警戒心がないんだ。 頼むからオレ以外に油断しないでよ。 側に近づけさせないでくれよ。 「・・・・・・じゃ、さ。・・・エッチは? なんでしばらくだめなの? ・・・オレ・・・流花としたいよ、ホントは毎日でも何回でも流花としたいよ。・・・流花が好きだから、ひいちゃうくらい・・・欲しいって思ってるよ」 「・・・・・・テッちゃん・・・・・・」 流花の肌は益々赤くなって。 今どれだけ動揺させてるか手に取るように分かる。 流花は何度か口ごもって、その度に考えるように押し黙って。 そうやりながら最終的に観念したように小さく溜め息を吐いて、恥ずかしそうに口を開いた。 「・・・・・・だって・・・私、・・・テッちゃんとする度にどんどんえっちになってくみたいなんだもん・・・、他の事を考えられなくなっちゃうの、テッちゃんで満タンになっちゃうの。・・・・・・なのに、テッちゃん・・・・・・毎日するんだもん、いっぱいするんだもん・・・っ、・・・・・・・・・勉強も、他の事も・・・何も手につかないよ・・・。・・・・・・・・・こんなじゃダメなのに、やらなきゃいけない事があるって思うのに・・・」 「・・・・・・うん」 「でも、ホントはもっとたくさんテッちゃんに触って欲しくて・・・・・、だから推薦とるまではって・・・、次のテストが良ければ大丈夫だろうって先生も言ってくれてるし・・・・、でもダメだった場合は・・・・・・・、・・・だからやっぱりもっと勉強しないといけなくて・・・」 「・・・・・・・・・流花・・・」 「それなのに、テッちゃんとキスしたり抱きしめられると止まらなくなるの・・・。もっと触ってって、・・・何度も口から出そうになった」 「じゃあ・・・キスも抱きしめるのも、おあずけにすれば良かったんじゃ・・・」 「それはいやっ!」 流花はそれにはキッパリ否定をする。 オレがちょっとびっくりしてると、流花はこっちに向き直って首を横に振った。 「・・・なんで?」 「だって、だって・・・っ、それが無かったらがんばれないっ」 流花はそんな矛盾する事を言って、オレの首に抱きつく。 ・・・・・・な、何だよそれ。 だからキスと抱きしめるのは、だめって言わなかったっていうのか? これじゃ、オレがどんなにひとりでぐるぐる考えたって、分かるわけないじゃんか・・・ 「・・・・・・は・・・、・・・ははっ」 何だかおかしくて仕方なかった。 どうして流花はオレを困らせるのがこんなにうまいんだろう。 可愛くて可愛くて、・・・いつも少しだけ自分勝手で、 オレにだけワガママを通してるの、流花は絶対気づいてないんだ。 それって、何も言わなくてもオレなら大丈夫って、そう思ってるってことなんだよな? 「・・・・・流花・・・、・・・わかったから。・・・暫くおあずけでいい、・・・いいから・・・。・・・だから・・・、今日だけ・・・、・・・・・・満タンにさせてよ」 「・・・テッちゃん・・・」 「好きだよ、オレでいっぱいになってよ」 「・・・・・・ッ、・・・・・・テッちゃん、・・・テッちゃん・・・っ」 いいよ、わかってる。 流花は、オレ達は、このままでいい。 だからおねがい、他の誰にもそんな顔は見せないで。 そうやって、ずっと、オレだけを困らせてよ。 その5へつづく Copyright 2010 桜井さくや. All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission. |