冬が忍び寄る気配が一層濃くなり、街を行きかう人々にもコート姿が目立つように
なってきたある夜の出来事。
白いワゴン車に乗り込んだ5人の若い男達が、駅を真正面に見据えた、やや離れた位置の
路上に駐車して今夜の「獲物」を物色していた。

「こんなところで待ち伏せしてい本当に見つかるんですかね」

後部座席に座った住吉輝樹(18)が疑わしげな口調でつぶやくと、隣に座っている
天王寺剛毅(20)が対照的に自信たっぷりな様子で言った。

「大丈夫さ。この駅は結構人の乗り降りが多いからな。中にゃあ家が遠くて1人で帰る女も
いるだろうぜ」

確かに改札口から吐き出される人の群れの中には若い女性の姿も多く、中には女子高生か
女子中学生と思しきグループも何組か見かけたが、そのたびに運転席の都島透(18)が
舌打ちをした。

「もう少し人目が少なけりゃいいのになあ。それにどいつもこいつも何人かでつるんでやがる。
これじゃあ拉致のしようがないよな。天王寺さん、これなら盛り場で適当な女をひっかけた方が
よくないすか」

だがその提案を天王寺は一蹴した。

「ばか。そんなんじゃあ面白くねえだろ。だいたいこっちの誘いにホイホイ乗ってくるような
尻軽女とやったって面白くもなんともねえだろうが。普通じゃあやらせてくれねえような上玉を
狙って犯っちまうってのが最高なんだろうが。それに勘違いするなよ。俺達はここに女をナンパ
しにきたんじゃねえ、『狩り』にきたんだ」
「まあ、それはそうかもしれないですけど・・・・」

都島がやや不満げに口を濁し、

「まあもう少し待ってみましょうよ、先輩。『慌てる乞食は何とやら』てことわざもありますし、
自分もこれで最高の映像を撮りたいっすよ」

と、今年高校に入学したばかりの旭勝義(16)が、自慢のハイビジョンカメラのレンズを布で
丁寧に拭きながらとりなしたその時、

「天王寺さん、あれなんてどうですか?」

助手席に座っていた阿倍野正義(18)が声を上げて後ろを振り向き、前方を指差した。
天王寺が身を乗り出して思わず声を上げた。

「おっ・・・・ ありゃあ・・・・」

彼らが目を付けたのは改札口から出てきたばかりの若い女性。どうやら連れはなく
1人きりのようだ。
歳の頃は10代後半、私服なのではっきりとはしないが、おそらく女子高生もしくは
女子大生くらいだろう。遠目からでも目鼻立ちのすっきりと整った美人なのがわかった。
女は改札口を出るとややうつむきがちに早足で大通りを歩いていき、すぐに路地へと
入っていった。

「よしっ。透、行け」

天王寺の合図とともに都島は車をスタートさせ、その路地に進入すると徐行しながら、
その若い女性に近づき、追い越した。
追い抜きざまに女性の顔を確認した天王寺は拳を握りしめ小さくガッツポーズをした。
文句なしの美人。特にその清潔感のある清楚な容貌が雄としての征服欲を滾らせた。

「おおっ! こりゃあそそる。よしっ、決まりだ。あの女を犯る!」

天王寺の宣言に他の4人の顔に緊張の色が走った。

「よし、車を止めろ。ただしエンジンは付けたままにしておけ。おい、お前らいくぞ」

車が停まると同時に天王寺がドアを開けて車外に飛び出し、阿倍野・住吉・旭もそれに
続いた。

                 ※

彼女は同級生の恋人とのデートを楽しんだ後の帰路だった。
本来ならその恋人と一緒に戻ってくる予定だったのだが、デート後に彼に急な予定が
入ってだめになり、結局一人で帰ることになったのだ。
自宅の最寄り駅までついて腕時計を見ると時計の針は9時を少し回ったところだ。
改札口を出て帰路を急ぐ。住宅街にある自宅までは歩いて15分ほどだ。
大通りを曲がり、路地に入る。国道沿いで人通りの多い駅前の大通りに比べ、
わずか一本奥の路地に入っただけでとたんに人気が少なくなり、道を照らす街灯の
灯ですら少し頼りなげに見える。
彼女は一層足早になって帰路を急いだが、すぐに背後から近づく車のライトに照らされた。
振り返ると白いワゴン車が徐行しながらこちらに向かってきていた。運転しているのは
自分と同じくらいの若い男。助手席にも同じ年頃の男が座っていた。
路地の端によろけた彼女の横をワゴン車はゆっくりと通り過ぎ、10mほど先で止まると
突然ドアが開いて4つの人影が飛び出し、こちらへ駆けてきた。
その気配にただならぬものを感じた彼女は本能的に踵を返して逃げようとしたが、
男達にあっという間に追いつかれ、背後から襲われた。

「きゃっ! 何をするのっ! いやっ! は、放してっ!」

羽交い絞めにして抵抗を封じ、男達は4人がかりで彼女を抱え上げるようにしてワゴン車に
押し込めると、ワゴン車は急発進して瞬く間に暗い闇へと消えていった。

                 ※

4時間後、都心郊外のあるさびれた音楽スタジオの一室。
カメラのレンズに映っているのは男の尻だった。すぐにカメラは男の下半身を
舐めるようにして腹部へと回っていく。
やがて陰部の根元が大写しになり、そこから徐々にカメラが引かれていくと、
亀頭を咥え込んでいる唇が映り、さらに引いたカメラは全体像を映し出した。
一糸まとわぬ姿の若い女が四つん這いの格好で頭を男に押さえつけられ無理やり
奉仕させられている。
その表情は虚ろで精気はまるで感じられず、抵抗する気配すらなく男のなすがままだ。
カメラのレンズから目を離した旭が笑った。

「いいっ! いいっ! 最高のフェラチオ映像が撮れてるっすよ!」

すでにそのカメラには男達のどす黒い欲望の餌食とされ、その身を蹂躙しつくされた挙句、
無数の体位を取らされて相次いで犯されたその女の映像データが収められている。
突然己の肉刃を咥え込まさせていた男が呻いた。

「ううっ!」

住吉は腰を振るわせて今夜3度目の射精を女の口内に放って引き抜くと、女はそのまま
うつ伏せに倒れ込んだ。
だが、すぐに都島が女の髪を掴んで引っ張り上げた。

「ほらほら、今度は俺のをしゃぶってもらおうか」
「そんじゃあその次は俺な、俺っ!」
「俺はパイずりでお願いするぜ!」

歪んだ欲望の雄叫びを次々と上げる男達。女の絶望にまだまだ終わりは見えなかった。



さらに4時間後、まだ夜が明けきらぬ午前5時半少し過ぎ。先ほどと同じ路地にワゴン車が
姿を現し停止した。
アイドリングをしたままの状態で後部座席のドアが開かれ、そこから女が突き落とされて
道路へ転げ落ちた。
彼女を突き落とした阿倍野が身を乗り出し、その場に倒れ伏したまま動かない女を傲然と見下ろし、
彼女から奪った携帯電話を手にして低く冷たい声で脅した。

「警察(サツ)に訴えようなんて考えるんじゃねえぞ。もし俺達を売ったりしたらどうなるか・・・・
分かってるよな」

彼女から奪い取った携帯電話を操作し、そこに映し出された画像をかざす。

「この映像をプリントして学校、町中、至るところにばら撒いてやる。もちろんネットにも
アップして世界中の男どもに大公開だ」

女の肩がぴくりと動き、ゆっくりと首をもたげて男を振り向き見上げた。
その恨みがましげな視線に阿倍野はいらついたように声を荒げた。

「何だよその目は! まだ犯られ足りねえのか!」
「おいっ! 声がでかいぞ!」

車中の天王寺がどなった。

「ちっ!」

阿倍野は小さく舌打ちすると、吐き捨てた。

「今夜のことは忘れろ、全て忘れるんだ! 分かったな!」

それだけを言い放って乱暴にドアを閉めるとワゴン車は急発進し、瞬く間に女の視界から
消え去っていった。
女はよろよろと身を起こし、鉛のように重い足を引きずるようにして自宅へと向った。
息を切らせながらようやく自宅にたどりつき、震える手で鍵を回してドアを開けた。
本来ならいっこうに帰ってこない愛娘を心配した父親が飛び出てきたであろうが、
彼は遠方の親戚の急な法事で今夜は家を空けており、ぼろぼろになった娘を迎える者など
誰もいなかった。
リビングを抜け、自室に入るやばたんとベッドに倒れ伏し、ぎゅっと毛布を握り締めた。

「(終わった・・・・ 終わったんだ・・・・)」

そう、まさしく悪夢としか言いようのない一夜はようやく終わりを告げた。
昨夜自分の身に起こったことは・・・・ 今でもそれが信じられない、いや信じたくない。
デート帰りの帰路で遭遇した男達に拉致され、見知らぬ音楽スタジオに連れ込まれた。
そして彼女の身に降りかかった残酷な運命――相次ぐ蹂躪、そして輪姦――際限のない
陵辱のフルコース。

「(どうして・・・・ どうして・・・・ どうして・・・・?)」

答えのない自問を繰り返す。

「(私が何をしたっていうの・・・・ こんなの、こんなのひどい、ひどいすぎる・・・・)」

女は自らに科されたこの残酷な運命を呪った。
どのくらいそうして伏していただろうか。既に夜は明け始め、カーテンの隙間から初冬の
弱々しい陽光が射し込んできていた。
疲れ切った身体を無理やり引き起こし、浴室へと向かった。

「(洗わなくちゃ・・・・)」

脱衣場で衣服とは名ばかりのボロ切れを脱ぎ捨て、浴室へ入る。
姿見に自分の姿が映しだされた。赤く腫れ上がった顔は清楚な美人だと評判された面影は
まるでなく別人のようだ。全身黒ずんだ青痣だらけで、特に乳房周辺にはあのケダモノ達が
蹂躪の痕跡として刻み込んだ無数の赤い噛み傷と歯型が集中していた。
そして大腿部に走る幾筋もの紅い鮮血痕。それこそ彼女の純潔が非道な暴力によって無惨に
散らされ、奪われ、そして犯されたまぎれもない証。
シャワーを全開にし、勢いよく降り注ぐ飛沫(しぶき)に身体を晒す。かなり熱めのお湯が
傷口に沁み込み突き刺したがそんなことは気にならなかった。
普段使っている柔らかいスポンジではなく、合成化繊のタオルを手に取ってごしごしと
皮膚が赤くなるほど強く擦って身体中にこびりついたザーメンや唾液を全て洗い流す。
そう、身体中に残された陵辱の痕跡の全てを一刻も早く洗い流しこそぎ落としたかった。
だが・・・・ どんなに洗っても洗っても、決して洗い流せないものがある。
自身の身体のあらゆる部分をまさぐり、いたぶり、しゃぶりつき、散々弄んで蹂躪しつくした
あのケダモノ達の荒々しい手、指、口、舌、歯などのおぞましい感触。そして穢れなき彼女の
『女』を刺し貫いて処女を散らせ、さらに繰り返し陵辱の限りを尽くしたあの禍々しい凶器の
衝撃と激痛。
――レイプによるロストバージン、そして輪姦。
心と身体の隅々までに深く刻み込まれたこの忌まわしい陵辱の記憶だけは絶対に洗い流すことは
できはしないのだ。

浴室から自分の部屋へ戻る途中のキッチンで、テーブルの上に無造作に置かれていた
果物ナイフが目に入った。
それはまるで何かを語りかけてくるかのように不気味な光を放ち、女として、いや人間としての
誇りと尊厳を踏みにじられて壊された彼女の心に危険な誘惑を忍び込ませた。
──もう私なんか・・・・
彼女は発作的にナイフを握ると浴室へと戻った。
水が張られたバスタブ横にしゃがみ込み、自らの手首にナイフの刃先を当てた。
だが、力を込めて刃を滑らそうとするたびに娘の自死を知って嘆き悲しむであろう父親の顔が
脳裏に浮かんでためらい、傷を残した。
だが・・・・ そのためらいも結局は彼女の絶望ゆえの決断をとどまらせることはできなかった。
彼女が目をつぶって強く刃を手首に食い込ませると、ついにその冷たい刃は彼女の動脈を断ち、
そこから流れ出した鮮血がバスタブの中で不気味に赤く揺れた。
そして次第に遠のく意識の中で今日最後にあった恋人──きれいな身体を本当に捧げたかった
相手──の優しい笑顔を思い出した。

「(く・・・・ 黒木君・・・・ ごめんなさい)」

東応大学文学部1年の西尾佐知子の生命の炎は、バスタブが赤く染まると同時に徐々に
消えかかろうとしていた。




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