淫魔が来たりて精を吸う・1

 ※この作品に登場するヒロインたちは成人であり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。

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「……今日も徹夜か」
 島崎(しまざき)雄一ゆういちは、暗いオフィスの一角でそうつぶやいた。
 間仕切りされたデスクの中で、彼の場所だけがパソコンディスプレイの明かりで鈍い光を放っている。
「ったく、夜中の二時でここまでしか作業進んでないとかマジ終わってんだろ」
 彼が見つめている画面には、見慣れない数値や名称がずらりと並ぶ。
 それらはすべて、業務用のシステムプログラムである。
 大学の工学科を卒業し、彼がこのオメガプログラム株式会社に入ったのは十年前だ。
 ずっと疲れきった顔でディスプレイと睨めっこを続けてきて、三十三歳になった今、それなりの役職にいてはいる。
(納期が迫ってるけど、明らかに人が足りないな)
 明日にでも無理だと言って上司に頭を下げるか――椅子の背もたれに寄りかかり、雄一はそんなことを考えた。
 毎度のことだが、自分がなぜ上司に謝らないといけないのかがわからない。無茶な納期で仕事を取ってくる営業のせいだろうにと内心で愚痴った。
(いかん。寝不足のせいでテンション下がってきてる)
 彼は貧乏ゆすりをしつつ、足元にあった鞄から自前のノートパソコンを取り出した。
 それは自宅で使っている私物である。
 ノートパソコンを開き、美少女の絵が描かれているアイコンをクリックした。
 するとスロットマシーンゲームが起動する。
 画面内のスロットマシーンの左には黒ボンデージ衣装で黒髪ロングヘアーの美少女、右には同じくボンデージ衣装の銀髪ツインテールの美少女が描かれていた。彼女たちは悪魔のコスプレらしく、側頭部には角、背中には小さな蝙蝠の羽根が生えている。
 パッケージ裏のゲーム紹介では大当たりすると、その二人の少女が服を脱ぐらしい。
(こないだ同人即売会で買ったこのゲーム、当たらないんだよなぁ)
 彼は世間で言うところのオタクであり、アニメやゲームに登場する美少女を偏愛へんあいしていた。
 そのため同人誌即売会などのイベントに頻繁におもむき、このような同人ゲームを買い漁ったりする。
 仕事の息抜きをするため、彼はスロットゲームを始めた。
 軽快な音楽とともにスロットマシーンのドラムが高速回転する。
 画面を三回クリックすると左から順に三つのドラムが停止して、リールに描かれた絵柄が並んだ。
「あーあ、またハズレかよ」
 既に五百回はプレイしているのに、三つのうち二つさえ絵柄が揃ったことがない。
 彼はまた画面をクリックしてスロットマシーンのレバーを引いた。
(なんとしても、この胸の大きなロリキャラの脱衣シーンが見たい……)
 ツインテールの銀髪褐色キャラの美少女は幼い容姿のくせに胸と尻がやたらと大きい。いわゆるロリ巨乳というタイプ。二重のツリ目のせいで性格はキツそうな印象を受けるが、幼い姿とはアンバランスな巨乳をご褒美CGで見たくてたまらなくなる。
(こっちの美人なロリキャラもいいな。体型が幼くて犯罪的な匂いがする)
 それに対して、ロングヘアーの黒髪白肌キャラの美少女は見た目相応の幼児体型をしている。どこか、やんごとなき生まれの雰囲気があり、二重のタレ目が温厚そうな性格を感じさせた。服を脱がせてはずかしめたいと思わせるような、どこかマゾめいた部分が彼女には漂う。
 二人のキャラがまるで正反対であるのは説明書の設定に書かれていた。
 ついでにいえば二人は淫魔であり、銀髪ツインテールの美少女は名前をリリスといい、黒髪ロングのほうはナイトメア。年齢は十万十一歳。外見は人間の十一歳で、彼女たちはスロットゲームで大当たりした男性の精を奪っている……というのがストーリーらしい。
 雄一が二人の美少女を眺めて興奮していると、スロットマシーンから派手な音楽が流れた。
 ドラムには『777』という数字が並んでいる。
 大当たりだ。
「よしっ、当たった!」
 彼は目をぎらつかせ、”おめでとうございます”と書かれた画面に食い入る。
「………………………………………………おかしい」
 脱衣グラフィックを待っているが、まったく表示されない。
 彼が訝しげにディスプレイを注視していると、チャットツールのインスタントメッセージが表示された。

 リリス:とうとう当たりを出しおったな、このドスケベ男め
 メア:リリスちゃん、そんなこと言ったらダメです。せっかく私たちを召喚してくれたのに

 インスタントメッセージには、フレンド登録していない名前の二人が会話に参加している。
(いや、待てよ。このリリスとメアってスロットゲームに出てくるキャラクターの名前と同じだな)
 スロットゲームで当たりを出すと、あらかじめ用意されたプログラムが起動してとか、そういうことだろうかと彼は考えた。

 島崎雄一:君たちは?

 簡単な返答がプログラムされた人工知能かもしれないと思い、インスタントメッセージで二人に話かけてみる。

 リリス:貴様の好きな見た目がロリロリした淫魔じゃ
 メア:やだ、すごいエッチなデータフォルダ見つけちゃいました。小さい女の子の水着画像ばっかり保存されてます
 リリス:これからそっちに行ってやる。おとなしく待ってるのじゃぞ、ロリコン変態男wwwww

 おかしい。
 これは同人ソフトに用意されたプログラムのレベルを超えている。
 二人の会話は雄一のパソコンデータを閲覧しなければ成立しないものだ。
 単純に外部からの接触も考慮したが、有線無線両方ともインターネット接続されていない。
 つまりこのノートパソコンは、完全なスタンドアローン状態にある。
「な、なんだよ、これ……」
 彼はパニックに陥った。
 自分のパソコンのデータを、まったく知らない他人に見られているということに気が動転したのだ。
 彼は慌ててノートパソコンのディスプレイを閉じ、仕事で使用していたデスクトップパソコンの電源も落とす。
(ネットに繋がってないのに、他人が俺のパソコンにコンタクトするなんてありえんぞ。疲れが溜まって幻覚を見るとは。くそっ、こんな状態で仕事なんて無理だ。このまま一度家に帰ろう)
 彼はオメガプログラム開発室から、自分の車が置いてある駐車場に向かった。
 深夜のため渋滞に巻きこまれることもなく、会社から十五分の都内の自宅マンションに到着する。
 このマンションはセキュリティシステムと部屋の大きさに定評があったが、長引く不況と高額の家賃のため、住民の多くが引っ越してしまった。
 ――ポンと電子音が鳴り、彼の乗ったエレベーターは十三階で止まって扉が開く。
(昨日から四月に入ったとはいえ、夜はやっぱり冷えるな)
 通路を歩いていると、強い風が吹いた。
 高層階のため、遠くに東京タワーが見えたが彼には”大きな鉄塔”くらいの感想しかない。
「すっげー寒ぃ。こりゃすぐにシャワーだわ」
 雄一がカードキーで玄関を開けると、美少女アニメキャラクターのポスターが下駄箱の上に貼られていた。
 彼は、そのまま二十じょうのリビングに抜ける。
 リビングの壁沿いの棚は、いくつものアニメDVDやブルーレイディスクが収納されており、重度のアニメオタクぶりが見て取れた。
 室内西側の窓外には高層ビル群が建ち並ぶ。
 彼は瀟洒しょうしゃな夜景を好んで、ここに住んでいるわけではない。
 不動産屋に防音で近所にあまり人が居ない場所という条件を出したら、このマンションの一室を紹介されたのである。
 ここを見学したその日、彼は即決で入居を決めたのだった。
(体も冷えてるしシャワーを浴びて落ち着こう。うん、それがいい)
 浴室でシャワーの蛇口をひねる。
 真上から降り注ぐ湯が、日常の疲れを根こそぎ落としていくように感じた。
(ストレスでちょっとおかしくなってたんだな。ここ一ヶ月、ほとんど休んでないし)
 シャワーを浴び終えた雄一が、室内着のジャージに着替えリビングに歩き出したとき。
 ――誰かの声がした。
「あれ、テレビ点けたままだっけ?」
 彼は首をかしげ、リビングのドアを開ける。
「…………え?」
 ドアノブを掴んで硬直した彼が見たもの。
 それは二人の少女だ。
 しかもただの少女じゃない。
 ボンデージミニスカートのコスプレをしている。
 アニメDVDの棚を漁っている銀髪ツインテールの褐色少女はやたらと発育のよい胸をしており、室内を歩くだけでぶるんぶるんとボンデージ衣装の中の双乳が弾みまくった。
 もう一人の黒髪ロングの白肌少女はカーペットの上で正座したまま、にこにこと朗らかな笑みを浮かべている。
 二人の頭には角、背中には蝙蝠の羽根が生えており、リビングがまるで同人誌即売会のコスプレ広場のような様相ようそうていしていた。
 ――この子たち、どっかで見たぞ。しかもそんな昔ではない、というか……。
「勝手に人の家に入ってなにしてんだ!」
 二人の少女はようやく、怒鳴り声をあげた彼の存在に気付いた。
 そしてじっと観察するような目で、怒鳴った男を見ている。
「メア、もしかしてこの男……」
 メアと呼ばれた黒髪ロングの少女の顔がみるみる赤くなっていく。
「うん、リリスちゃん。多分、わたしもそんな感じがする」
 リリスというのが、銀髪ツインテールの生意気そうな少女の名前らしい。
「おい、貴様」とリリスがニヤニヤしつつ言った。
「な、なんだよ」
 雄一は、この少女たちに何かを見透かされたような気がしてたじろいだ。
「……さては童貞どうていじゃな?」
 彼は三十三年の人生の中で今、最高に頭の中が空白になった。
 シャワーを浴びてリビングに戻ったら知らない少女が二人。
 怒鳴った。
 そしていきなり、少女の一人に「童貞」と言われた。
 これらの出来事を、現実として処理することができなかったのである。
「メアよ、こやつ動かなくなったぞ。確かに妾たちだけが嗅げる童貞臭がしたのだがのぅ……」
「んもう、いきなり変なこと言うからです!」
 絶句した雄一はどうにかして、この異常な状況を把握はあくしようとつとめた。
「オ、オーケー……ゆっくりと一つ一つ整理していこう。お前ら……いや、おじょうちゃんたちはなんだ?」
 雄一はテーブル近くのクッションに座り、頭を抱えながらたずねた。
わらわはリリス。淫魔じゃ。しかも聞いて驚くな。魔族界の四王国、ジュデッカの王女であるぞ。貴様のような下賤げせんの身の前に来てやったのを光栄に思え!」
 リリスは仁王立ちに腕組みという、やたらと尊大な態度で言った。
「わたしはナイトメアです。リリスちゃんの治める上の階層のアンティノラの王女です」
 ナイトメアは頭を下げ、丁寧に挨拶をした。
「このように二つの国の姫が揃って貴様の前に顕現けんげんしたのじゃ。ありがたく妾たちの姿を見て拝むがいい」
 自分の言葉に酔っているらしく、リリスはご満悦まんえつの様子である。
(魔族の王女とか……しかも二人…)
 雄一はさらに混乱し、深いため息をつく。
 しかしこの展開にまったく心当たりがないわけではない。
「まさかとは思うが、よく漫画やライトノベルで、どっかの女神や悪魔がモテない男の家にやってくるなんてベタな話がある……それか?」
 オタクである彼は過去に様々なジャンルの作品を見たり、読んだりしてきた。
 この手のネタは腐るほど見てきたので、試しにきいてみたのだ。
「おお、その通りじゃ! 貴様、間抜け面のくせに察しは良いな!」
 リリスは我が意を得たりといった感じでテーブルを左手でバンと叩きながら、右手で雄一の顔を指さして激しく顔を縦に振った。
「ねーよ! ありえねーからそんなの! 俺がシャワー浴びてる間にどっから入ってきた!? こんな時間に親は心配してるぞ!」
 彼は、リビングにある電話の受話器をとった。
「警察に電話する。それが嫌ならすぐに出ていけ!」
 所詮は子供だ。こうして脅せば、この娘たちもきっと帰るだろう……雄一はそう考えていていた。
「ふふん、こんな夜中にロリロリした娘が二人、こんなあられもない格好で独身男のマンションにいるのだぞ。こちらの世界の警察とかいう組織が、素直に貴様の言うことを信じると思うのか?」
 リリスは近くにいるナイトメアに抱きつく。
 そしてナイトメアのミニスカートをめくって、白い内腿をさすりはじめる。
「そんなことよりも、ロリ美少女のスカートの中を見せてやっても良いのだぞ? ほれほれ!」
 そういって彼女はナイトメアのミニスカートの裾をつかみ、持ち上げていこうとする。
「やだっ! リリスちゃんダメだったらぁ!」
 あられもない少女の太ももが露出して、さらに上へとミニスカートがめくられる。
「……もうっ!!」
 ナイトメアは顔を真っ赤にして、両手でがばっとミニスカートを押さえつける。
 一瞬だけ彼女の股間に白布らしきものが見えたが、あまりにも早くて雄一は目で追えなかった。
「貴様、メアのパンチラを見て勃起しておるな。すぐにでもシコりたいと思ってることなど、妾はすでにお見通しじゃ」
「うっせーな! お前らみたいな子供に欲情なんてしねぇよ!」
「ほほぅ。それではこれはなにかのぅ?」
 リリスは不適な笑みを浮かべ、パチンと指を鳴らす。
 すると、どさどさとなにかが空中から大量に落ちてくる。
「ふむふむ。この水着写真集は十二歳か。あっちは十四歳の制服写真集。そこにある”もぎたて青果実”というタイトルのDVDの女子は十三歳とな。……知っておるぞ。こやつらは人間界でジュニア・アイドルと呼ばれているそうじゃな。子供に欲情しない貴様が、このような物をベッドの下や引き出しに隠しているとはのう」
 勝ち誇ったようにリリスは、絨毯の上のジュニア・アイドルグッズを眺めている。
 そこに出てきたものは、雄一が今まで密かに集めたものだった。
「これでも妾たちに興味がないと申すか。話くらいは聞いてもよいのではないかの?」
 リリスはブルマ姿の美少女が表紙の写真集を持ち、降伏勧告のように言った。
「……話を聞こう。というか俺になんの用がある? 個人の性癖を暴くなんてテレビの素人参加企画にしては生々しすぎるだろ」
 観念した彼は近くに隠しカメラがあるのではないかと、自分の座っているソファの下やテーブルの裏をチェックしている。
「まだわからんようじゃのぅ。これはテレビ番組の企画ではない」
「とても混乱してるようです。わたしたちの存在なんて、人間界の常識では考えられませんから」
 リリスとナイトメアの二人も腰をおろし、テーブルを挟んだ雄一の正面でヒソヒソ話をしている。
「それでは説明してやる。貴様、夢精したことは?」
「なに聞いてんだ……」
「いいから答えろ」
「……ある」
 この不躾ぶしつけな来訪者に、会話の主導権を奪われているのが心底情けないと雄一は思った。
 年端としはもいかない少女から夢精の有無を質問されるなど、大人としての威厳もなにもあったものではない。
「その夢精のとき見た女こそが妾たちサキュバスじゃ。簡単に言えば男の精をエネルギーに変換して生きておる」
 サキュバスという単語で雄一は、最近クリアしたロールプレイングゲームに登場する敵キャラクターを連想した。
 そんなものが実在するなど信じがたい――幼女二人は自分たちが作った妄想設定を、ただ誰かに聞かせたいがため、ここに来たのではないかと雄一は疑った。
「それおかしいだろ。俺はいま起きてるんだから、これは夢じゃないってことだ。お前らがここにいることと話があわない」
 彼は設定の矛盾を指摘した。やはり子供の嘘だ。すぐにボロが出ると彼は早々にたかくくる。
左様さよう、貴様は眠っておらぬ。妾たちサキュバスは魔族。平たく言えば悪魔じゃ。そんな美しいロリ悪魔が二人、このような柔肌を露出し、冴えない男の家に上がりこむなど一つの目的しかないであろう」
 リリスとかいう少女の発言……いや設定の言い訳によどみがないことが、彼を不安にさせた。
 そもそも嘘をくにしてはメリットがないし、幼女二人のみで深夜に行動しているなど滅多に遭遇しない。
 こいつら本当になんなんだ――この少女たちの異常性を彼はようやく認識する。
 まず、マンション内へどうやって入ってきたのか。
 一階のエントランスロビーに入るには二つの方法しかない。
 一つは備え付けのインターフォンで居住者の許可を得て自動ドアを開けてもらう。もう一つは居住者が持つ、カードキーによる暗証番号入力である。
 それを越えても、各部屋の扉で専用カードキーが必要になるのだ。
 エレベーターや廊下には監視カメラが設置され、二十四時間体制でマンションの守衛が見張っている。午前二時半という時間から考えて、子供二人のみの訪問は彼等の保護対象であった。
 しかも場所は十三階。
 セキュリティを売り文句にしているこのマンションで、誰にも発見されず、ここまで二人が来るなどありえない 
 ――彼は思考を切り替える。
 彼女たちが何者かより、なにをしにきたかのほうが今の彼にとって興味を引いたからだ。
「……おまえらが来た目的ってなんだ?」
 雄一はそう問いながら、嫌な予感しかしない。
「その顔、予想がついておるな。人間が欲望を満たすため、悪魔に魂を捧げる。いわゆる悪魔契約……王道じゃのう」
 リリスとナイトメアは感慨深げにうなずいている。
 十六世紀、かの錬金術師ファウストは召喚した悪魔のメフィストフェレスに魂を売り渡す契約を交わし、己の欲望を満たしたのだという。
 文豪ゲーテの戯曲としても有名で、<悪魔契約>は現代でも数々の作品に用いられる題材なのは雄一も知っている。
「その悪魔契約とやらになんで俺が選ばれた? 人間なんて他にもたくさんいるじゃねーか」
 雄一からしてみれば至極しごく真っ当な意見である。
 いきなりやってきてロリ悪魔と契約をしろなど、当事者からするとたまったものではない。
「妾たちからすると貴様に呼ばれたのじゃがの。まぁよい。貴様、オタクというものらしいが、イベントとかいう即売会でゲームを買ったであろう」
「ああ、五日前の日曜に会場で買った。スロットマシーンのやつ」
「そうじゃ。ところでそのゲームを売っていた者を覚えておるか?」
 覚えてる……と言おうとした雄一だが、サークルブースにいた者の記憶が綺麗さっぱり消えている。
 それどろかイベント当日の記憶が断片しか残っていない。
「え? …………ちょ…おい、嘘だろ……」
 彼は、リビングの壁にフックで吊るされているオレンジ色のデイバッグを開け、中身にあるはずの物を探す。
「会場に入場するときカタログを買って、このバッグに入れたままのはずだ!」
 だが、バッグの中には何も入っていなかった。
 雄一の背中に冷たい汗が流れる。
「……その日曜日に貴様が行ったのは魔界と人間界の狭間はざまに存在する辺獄へんごくの即売会じゃ。たまに貴様のような(やから)がまぎれこむことがある」
「ヘンゴク? なんだそりゃ。どう見ても普通だったぞ。ちゃんと道路や駅もあって、人だっていたんだ」
 彼は数少ない記憶をたぐりよせ、五日前に見た光景を思い出していた。
「あそこは人間界によく似ておる。そこに入った貴様は妾たちを召喚するゲームを買った」
「そんな場所にどうやって行くんだ? 俺はラノベの主人公みたいに厨二ちゅうにくさい特殊能力なんてない」
「はて、チューニとはなんじゃ? そんなことはどうでもいい。はっきり言う。貴様の性欲は人間のそれを越えている。そのため人間界の境界を破り、辺獄に迷い込んだわけじゃ」
 文化の違いにより、人間と魔族の双方で理解できていない単語がある。
 しかし混迷ぶりは雄一のほうが圧倒的に上だった。
 行ったと思った同人即売会はこの世ではなく、ヘンゴクなんて聞いたことないような場所だったなど、信じようにもあまりに突飛すぎて話についていけない。
「一言で言うと雄一さんはエッチなので辺獄に入れたんです。そのエッチさがちょっとだけ、ほんのちょっとだけ普通の人よりも凄かっただけなんです」
 会話の成り行きを見守っていたナイトメアが控え目に言った。
 自己紹介もしていないのに名前を呼ばれたことが気になったが、彼女たちが同人スロットゲームに登場する淫魔だとそこではっきりわかった。
 会社でインスタントメッセージが立ち上がったときのようにノートパソコン内のデータを読み取ることができるなら、自分の名前を知るなど朝飯前だろうと彼なりに納得する。
 だが、彼はかたくなに、二人が淫魔であるというのを否定していた。
 常識――それが世界の根本となっている。
 そこから外れたことなど、現実で起こるはずがないのだ。
「貴様はスケベではない、ドスケベなのじゃ。辺獄の即売会でロリ淫魔が登場するゲームを買い、さらにそのドスケベさでスロットの大当たりを引き起こし、妾たちをここに召喚するほどの絶大な性欲をその身に持て余しておる!」
 リリスの言葉にナイトメアは顔を赤くして彼を見つめていた。
「……俺がエロいからお前らを呼んだ……だと?」
 淫魔の二人は無言で首肯しゅこうした。
「そんで俺はどうすればいい?」
 これは雄一の心の底から出たものであった。ここまで彼は不可思議な状況に巻き込まれ、それは現在進行形で続いている。訳のわからない幼女たちの、この遊びを終わらせるには、黙って従うしかなさそうだ。
「……妾たちと契約しろ」
「いいぞ。ほら、魂だろうがなんだろうが持ってけよ」
 彼はもともと面倒くさがりな性分なため、あとは好き勝手にしろと投げている。
 現実離れした設定の自称淫魔たちに、うんざりしているというのもあった。
 ところどころ話の流れが合致がっちする点もあるが、雄一にはどうやっても二人が淫魔であることなど信用できない。
「ただ魂を持っていけと言われても妾たちが困る。悪魔契約には規則が設けられているのじゃ。それ破ることは魔族の王女たる妾にも許されぬ」
「規則とかうるせーな!」
 我慢の限界に達していた彼はマジ切れした。
 いままでのような演技での怒りではなく、本気で二人を怒鳴りつける。
「そ、そんなに怒らなくても……」
 ナイトメアは雄一の怒号にえぐえぐと涙目になり、か細い声でつぶやく。
「いたいけなメアを怯えさせおって。手加減せぬか馬鹿者。彼女も一国の姫なのだぞ!!」
 ナイトメアはいまにもこぼれそうな涙を目にためている。
「……あぁ、悪かった……そんなに怒ってねーから」
 自分が謝っていることが、彼にはどうしてもに落ちない。
 全面的にそっちが悪いはずだろ……と彼は思う。
(それにしても泣きそうになってたナイトメアかわいかったな)
 いかにも乙女の涙といった感じで、男を無条件に降参させる魅力を彼女は発揮している。
 あの純情可憐な少女の髪はどんな匂いがするんだろう。
 彼女が濃紺のスクール水着を着たときは、さぞ美しいはず。
 そんな煩悩ぼんのうが頭の中を駆け巡ったとき、雄一に男性の生理現象が起こる。
 リリスはテーブルの下を覗き込み、彼の股間が膨らんでいるのを確認した。
「少女を泣かせて勃起するとは。こやつ、やはりドスケベじゃ」
 これには泣きそうだったナイトメアも赤面する。
 雄一は下半身が鎮まるのを、ただ待つしかなかった。
「……け、契約するにしてもどうすればいいんだ。書類に印鑑でも押すのか」
「勃起から話題を反らすことに必死じゃな」とリリスに言われたが、彼としては格好がつかないので強引に話題を捻じ曲げるしかない。
「――貴様の望みを言え。それが魂の契約条件となっている。妾たちにできることなら、なんでも叶えてやろう……とマニュアルには書いてあったなメアよ?」
「はい、そう書いてありました。わたしたち魂をくれるならなんだってします!」
 二人は目を輝かせながら、押し付けがましい保険契約員のごとく彼に迫る。
 淫魔たちの勧誘に何処どこかぎこちなさを感じた彼であるが、美少女たちに言い寄られるのはまんざらでもない気分だった。
「なんだってする……か」
「あの、なにかしたいことはありますか?」
 ナイトメアは無垢むくな顔で雄一にそうたずねた。 
「そうだな……じゃあ試しに二人のスカートの中身見せてよって……やっぱ駄目だろうな」
 雄一は冗談めかして言ってみた。
(これは悪魔契約ごっこみたいな子供たちの間で流行ってる、ごっこ遊びなんだろう)
 彼の認識はそのくらいのものだったが、意外な返答がもたらされた。
「それでよいのじゃな、ロリコンめ。メアよ、やっと契約の初仕事じゃ!」
「は、はい。がんばります!!」 
 リリスとナイトメアは頬を赤く染めて立ち上がり、ミニスカートの裾を持って上にめくっていく。
「お前ら初めてなのか? てっきり何度もやってる遊びかと思ったのに」
 雄一がそう言ってる間に二人のミニスカートはショーツが丸見えになるほど、めくり上げられていた。
「そうじゃ。妾たち魔族は十万十一歳になると人間界で悪魔契約することを許される」
 頬を染めたリリスは雄一から顔を逸らした。
 サイドが紐状で股間部分が鋭角に切れ込んだV字漆黒ショーツを見られながら、彼女は悪魔契約について説明する。
 隣のナイトメアはリリスと色違いのV字純白ショーツを履いていた。彼女は雄一から目を背け、スカートを掴んでいる手がぷるぷると恥ずかしさで震えてしまう。
「……もう、よろしいですか?」
 ナイトメアはすぐにでもスカートを下げたかったが、二人のショーツを凝視している命令主は「だめだ」と短くこたえた。
「これが淫魔幼女の股か」
 雄一は淫魔たちの股間に顔を近づけ、じっくりと観察した。
「こら! そんなに顔を近づけるな! このド変態!!」
「匂いも嗅いでやる」
 雄一は鼻をきかせ、リリスの股ぐらの匂いを嗅ぎまわる。
 幼女特有の甘ったるい良い匂いがした。
「こっちもいい匂いする」
「や、やだぁ……」
 続いてナイトメアの股間も視姦しかんし、嗅ぎまわった。
 彼女から、ほのかに石鹸の匂いがして、清純なイメージどおりなことを堪能した。
 二人の薄布の中の股間は、むっちりとした弾力のせいで一本の綺麗な縦筋を作っている。
 それは幼女に興味がない者でも、触ってみたい衝動に駆られるほど柔らかそうなものだ。
「太股を触らせろよ」
 ここまできたら雄一も自棄やけである。
 彼女たちが淫魔で十万十一歳という設定の遊びなら、なにも怖いものなどない。
 こんな美少女たちにスカートをめくらせ、ショーツを眺めているのだ。
 このまま触れずにいるのは勿体ない。
 というよりも、これは――
(きっと夢なんだ。本当の俺は会社のディスプレイの前で寝落ちしてるはずで、車に乗ってマンションに帰ってきたところも夢だ。これで全部の辻褄つじつまがあう)
 この思い込みが後々、彼を大きく後悔させることになるのだが、当人がそれを知る由はなかった。
「調子に乗りおって! このロリコン!」
「もう許してください。恥ずかしくて死んじゃいそうです!」
 リリスは怒りで、ナイトメアは羞恥で顔を真っ赤にして言った。
「魂が欲しくないのか? 契約ってことは俺が満足してこそ成立するはずだろ」
「……え、えっと、それはですねぇ」
「悪知恵だけは働くようじゃの」
 二人はギクリと図星を突かれた表情になった。
 契約という以上、人間側も強く要望を求める権利があるのではないかと雄一は読んだが、どうやら当たっていたらしい。
「太股だけじゃぞ……それより上に触ったら死を覚悟しろ!」
「変なところ触るのは無しでお願いします」
 雄一は二人の右膝に指を添え、真上にじっくりと動かしていく。
「くすぐったい!」とナイトメアは思わず、しゃがみこみそうになった。
 どうしていいか困り果てた彼女は白磁のような太股をわななかせ、雄一の指の行方を眺めている。
 かたやリリスは憮然とした様子でそっぽを向き、この辱めに耐えているようだった。
 しかしからだの反応は止められないようで、ナイトメアのように断続してぴくぴくと肉付きのよい褐色の太股を震わせていた。
 指は幼い姿の淫魔たちのショーツの淵に達したが、その進みは止まらない。
 ショーツラインに沿い、指の動きが大きく斜め下にカーブした。
 先にあるのは縦皺が刻まれた股間である。
「そ、その先に触れたらどうなるかわかっておるだろうなっ!?」
 これには流石のリリスも怒りを露にした。
 隣でスカートの裾を強く握っているナイトメアの濡れた瞳は、『それ以上はやめてください』と切なげに訴えている。
「うぅっ……!?」
 雄一の目の前が突然、ぐらりと揺れた。
 ――どくん。
 ――どくん。
(心臓がおかしい……やっべーなこれ…)
 得体の知れないパワーが内側から溢れてきた。
 それとともに意識が朦朧とし、別の何かが彼の中で目覚めようとしている。
(抑えきれない力で…体中が弾けちまいそうだ……!!)
 少女たちの股間の直前で指を離すと、その身に異常をきたしている彼は静かに立ち上がった。
 二人の淫魔と並んでみると、成人男性と少女たちの身長差がより際立つ。
 彼女たちの頭の天辺てっぺんは彼の胸部までの高さしかなく、背丈は平均的な小学校高学年のそれであった。
「なにをす……うわっ!? こら!!」
「にゃぁあああああああああああああああああああああああっ!?」
 雄一は左手でリリス、右手でナイトメアの細い腰をつかんで抱き寄せる。
「いいだろ? これくらいは許せよ」
 そう言って二人の淫魔の耳に、ふっと吐息を吹きかけた。
(なんじゃこの感覚……全身が骨抜きにされそうじゃ…)
 リリスは強張こわばっていた躰が脱力していくのを感じる。
 横を見ればナイトメアも表情を緩ませ、彼にもたれかかっていた。
(これではまるで、妾たちとこやつの立場が逆ではないか。人間に淫魔がまれるなど有り得ぬわ!)
 なにが原因かは知らないが、不測の事態であるのは確かなようだ。
 悪魔契約のイニシアティブを人間が取る例など、連綿と続く魔族の歴史の中でも極わずかである。
 まさかこの悪魔契約候補者は――そう考えるのとリリスが叫ぶのは、ほぼ同時だった。
「ナイトメア、この男は危険じゃ! 今すぐこやつを殺すぞ!」
 声をかけられたナイトメアの目は、既に夢遊病患者のようにとろんとしている。彼女は抱きすくめられたまま、小さな臀部を撫でまわされ、恍惚こうこつとした表情で雄一から離れようとしなかった。 
「はなせ、このドスケベ! 聞こえぬのか!?」
 リリスは懸命に雄一の腕の中でもがくが、無駄に体力を消耗しただけだった。
 淫魔は人間に容易たやすく捕まるほど、非力な存在ではない。
 リリスが雄一をねのけようとした力は、人間界でいうなら衝撃で十トントラックを横転させるほどのものだ。
 それだけの力を込めても彼女は脱出できなかった。
(どうなっておるのじゃ!?)
 リリスが気になっているのはそのことだけでなく、呼吸が荒いナイトメアが何をされているかだった。
「あぁ……恥ずかしいですぅ…そんなこと言わないで…あっ」
 彼女は熱い吐息まじりに譫言うわごとのようにそう呟いている。
 どうやらこのロリコンに何かをそそのかされているらしい――そんなとき彼の(ささや)きがリリスに聞こえた。
「可愛いからお尻の穴を穿ほじっちゃおうね」
 ナイトメアのきゅっとまった尻穴を、雄一の人差し指がほぐしはじめた。
 彼女は「ぎひぃッ!?」と鋭い鳴き声をあげたかと思うと、光の失せた瞳で口の端から唾液の糸を垂らす。
「お、おじりのぉ…あなぁ……らめでずぅ…ほじっだら…だめ……だめぇ…くひッ」
 指は肛門のしわを伸ばすように激しくうごめき、その振動のため、ナイトメアの声には卑猥なビブラートがかかっていた。
「メアに変なことするな!」
 リリスは、雄一の横面にビンタを喰らわす。
「せっかく彼女が気持ちよくなっているのに……」
 自分に向けられた彼の目が、異様な赤光しゃっこうを放っているのをリリスは見た。 
(ただの人間が魅了魔法チャームを使うじゃと……!?)
 淫魔としての本能が、コンマ数秒のうちに危機を察知した。
 彼女は雄一から咄嗟とっさに視線をはずす。
 あと0.1秒でも遅れていたら、抵抗できない魅了状態に追い込まれていたであろう。
 リリスが察するに、ナイトメアは彼の魅了に呑まれてしまったのだ。
 淫魔は魅了魔法を無効化、または弱体化させる抗体魔法アンチマジックがその血に刻まれている。
 それがまったく機能してないことにリリスは愕然がくぜんとした。
「リリスの頬はぷにぷにだな」
「……いたッ!」
 雄一の無精髭の浮いた頬でリリスは頬擦りされる。
 ザラザラとした髭の不快な感触がおぞましい。
 見ず知らずの男に抱かれて逃げられず、されるがままなのだから無理もなかった。
「誰かおらぬか! 妾たちはこのロリコンに悪戯いたずらされている! 誰でもよい、警察とやらを呼べっ!!」
 彼女は大きく息を吸い込み、ありったけの大声で叫んだ。
 深夜にこれだけ騒げば、近隣の住人が駆けつけるだろう。
 単純ではあるが効果を期待できる。
 ――もっともそれは普通の住宅であればの話だ。
 雄一が住んでいるこの部屋は防音されており、どんな音も外に通さない。加えて両隣の部屋は空室。二人を淫行するにはこれほど完璧な場所はなかった。
「うるせぇガキだな。まぁ座って落ち着こうや」
 彼は二人を両腕に抱えたまま、ソファにもたれかかる。
 勢いよく背後に倒れこんだせいで、リリスとナイトメアは雄一の胸板に顔を押し付けてしまった。
「王女たる妾にこんな事が許されるとでも思って……かはぁッ!?」
 自分の言葉を遮るように、リリスは熱い息を吐いた。
 目を見開き、下半身の排泄口に異物が侵入してくるのを感じる。
 彼女は水面で呼吸している魚のごとく何度かぱくぱくと口を動かし、経験したことのない感覚に「お゛ぉ゛っ!」と品性の欠片もない声を発する。
 雄一の中指第一関節が、褐色淫魔の桜色の尻穴を穿ほじったのだ。
(力が抜けていく……こやつ、また穿りおって! おほォ!?)
 ナイトメアも雄一に抱きついて淫らな嬌声きょうせいを上げていた。
「ダメでずぅ、ぞんなどごッ! やめでぐだ……あぅ…ざい…おぁッ!! あッ……くひ…ひっ……ぃやぁ!」
 彼女は長い黒髪を振り乱し、雄一に肛門いじりをやめるように無我夢中で頼み込んでいた。
「やめてほしいか? こんなにキツくケツ穴をめ付けてんのにやめたらがっかりするだろ」
 ナイトメアの肛門を陵辱りょうじょくしていた指は円運動からゆっくりとした上下運動に変わった。
「あっ……あぅ…ッ……あああああ…はひっ……はひぃ…はっ……はふっ…おしりぃいいいいい……いいのぉおおおお!!」
 劇的な反応だった。
 清楚で性交についてまったく知らない美少女に見えたナイトメアだが、完全に性のよろこびを知り尽くしている成熟した雌である。
 淫魔である以上、全身すべての性感帯が生まれたときから開発済み――リリスは快楽で悶絶もんぜつしているナイトメアを眺め、魔界で教わった性知識を再認識していた。
 いつも笑顔を絶やさず、控え目なナイトメアが男の前で痴態ちたいを繰り広げていることに彼女は見てはいけないものを見ている気分になる。
(妾もナイトメアのように、このロリコンにはずかしめを……)
 リリスはこれでもかというほど雄一にアナルを指でなぞられ、かろうじて残っている理性で考えた。
「貴様ぁ……いますぐにでも首をへし折り、その腸を引きずりだし、地獄にいるケルベロスの餌に使ってやる!!」
 肛門を責められて脱力しそうになりながらも、リリスは自分たちをけがす男を睨みつけた。
 その殺気は魔族の王女たる貫禄と風格を兼ね備えており、並の人間であれば一瞥いちべつされただけで白骨化するほどの瘴気しょうきを含んでいる。
 しかし赤色に瞳を染めた雄一は平然と受け止めた。
「そんなに嫌がることもないだろう。ナイトメアは大層嬉しいようだ。お前も同じ目に遭わせてやる」
 リリスの肛門のさらに奥へと、彼の指が差し込まれた。
「ぐひっ!? ぎ、ぎざまぁ……おっ!? おほっ!! おッふ! おっ、おおおおおお゛……ひっ! ……や、やめるのじゃ…そのような…うご…うごぎっ!? あぁっ…おしりぃ……ひ、ひぃいい!!」
 憤怒ふんぬと肉欲という、まるで違う感情を含んだ淫声が広い室内に響く。
 リリスとナイトメアは子猫のように抱きかかえられ、二人同時にすぼまった肛門を指で犯され続けるしかなかった。
「お姫様同士で仲良く糞穴を指でズボズボされんのはどんな気持ちだ?」
 雄一は二人の幼女淫魔に卑猥な質問をする。
 リリスとナイトメアはそれどころではなく、初めてのアナルの刺激に翻弄ほんろうされるしかなかった。
 男をたのしませるただの肉人形でもある淫魔……その一面をリリスは呪う。
(身体がまるでいうことをきかぬ。これも、こやつの力だというのか?)
 おもむろに雄一の顔がナイトメアの唇に近づいていく。 
「きしゅううう……きしゅしてくだひゃい…メアの初めての口付け……もらってくらひゃい!」
 はぁはぁと荒い息で、自分から可愛らしい舌を差し出したナイトメアの目はみっともなく発情した女のそれだった。 
 雄一は赤蛭のような舌をナイトメアの口内にねじこむ。
 二人の口から粘ついたディープキスの音をリリスは聞いた。
 会ったばかりのロリコンにナイトメアのファーストキスが奪われてしまった――そのことにリリスは身の毛がよだつ。
(さきほどまで妾たちの方が有利に立っていたのに何故こんなことになってしまったのじゃ……)
 今の彼女は尻穴をもてあそばれ、さらに同族の少女が口内を蹂躙じゅうりんされているのを見ていることしかできない。
 二人の口の中では、性交する軟体動物のように互いの舌が蠢動しゅんどうしていた。
 数秒ごとにナイトメアの頬が膨れ、そのたびに雄一のは下卑げひた笑みを浮かべる。
 幼い少女の頬を内側から舌でねぶりまわしていることに、このうえない至福を感じているのだろう。
「ロリ唾めちゃくちゃうめぇ。もっとロリ唾を出してみろ」
「ふぁ……ふぁい…もっとぉ……飲んでくらひゃい……んっ」
 雄一はナイトメアの上顎や口腔こうこうの奥を味わい、幼い淫魔の豊潤ほうじゅんなエキスを勢いよく飲み干す。
 滾々こんこんと湧き出る清水のごとく黒髪美少女の口には唾が分泌され、それを貪るように彼は吸収する。
 ナイトメアは一瞬だけせたが、それもやがてほうけた表情になった。
 まるで何年も付き合っている恋人のような二人のキスを、横で眺めていたリリスは下腹部がむずむずしてくるのを感じた。
(ナイトメアがあのようにとろけた顔になるとは)
 雄一はナイトメアに唇を押し付け、もう一人の顔を真っ赤にした淫魔幼女をちらと見る。
 次はお前のファーストキスを奪ってやる……彼が目でそう言ってるのがリリスに伝わった。
「あっ……あぎいいいいッ…ひっ! わ、妾の唇は……ぁはあ…ぜ、ぜっだいにぃっ!? にゅぐ! にゅぐううっ!? ……絶対にぃ…わ、わたしゃぬぅ……にゅふうううう!!」
 肛門に突っ込まれている指のピストン運動が速くなったのと連動して、リリスの下半身に快感の痺れが走り抜ける。
 そしてそれに耐え切れずうつむき、アナル攻めによって淫らに歪んだ顔を隠していた。
 両拳は手が赤くなるほど握り締められ、彼女の発した声は嗚咽おえつにも似たものだった。快感で半開きになった口から垂れ流している唾液が、雄一の上半身の衣服に落ちて小さな黒い染みを作る。
「ケツ……ケツマンコ…りゃめ! りゃめにゃのおお!」
 全身をわななかせ、顔を伏せているリリスの口からそんな言葉がれてきた。
 それを耳にした彼はナイトメアとねっとりとした接吻せっぷんをしつつ、リリスの肛門に人差し指に加え、中指もずぶりと入れる。
「うぎッ!? ゆびぃ…ふえでるううううううッ……おっほ、おおおおおおおおッ…ケツ……ケツアクメぎぢゃう! ぎぢゃううううううううううッ!!」
 リリスは淫魔としての教育により、卑猥な淫語を習得している。全身の性感帯が生まれながらにして開発済みの彼女ではあるが、男にアナルを指でほじられるなど経験したことなどない。肉体の性についての早熟さと、実体験の剥離がアンバランスな状態を引き起こしている。彼女は男と交際した事もないのに、否応なく肛門で感じてしまうという淫らな食い違いが、その身に生じているのだった。
「お前の気の強いところがとても好みだ。俺のモノになれ」
 リリスの耳元で雄一はそう囁いた。
 それに続いて彼女は耳穴に生温かい何かが入ってくるのを感じて、背筋を仰け反らせてしまう。
「ひぃっ……じだぁ…耳にぃ……じだがぁ…くしゅぐっりゃい……へひっ!」
 耳に舌を入れられあまりに恥ずかしかったせいで、彼女は快楽で涙と唾液まみれになった顔を雄一に向けた。
「このスケベなアヘ顔はなんだ? 答えてみろよ、ほら」
「おっ……おほおおおおおおおおおお♥ こんな顔……みひゃらメええええええええええええええええええええええええ♥♥」
 雄一はリリスの肛門に素早く指を出し入れする。
 粘ついた腸液がクチュクチュと鳴り、それが自分の排泄口から聞こえていることを知って彼女の心は恥辱ちじょくにまみれた。
「こいつだけじゃ可愛そうだな。メアも付き合ってやれよ」
 彼はナイトメアにも人差し指と中指を差し込んで、リリスと同じように肛門をえぐりまくる。
「きゃひいいいいいい!! うぁ……そ、それ…キちゃいます……! ギぢゃいまずううううううううううううッ♥」
 二人の淫魔は愛くるしい喘ぎ声をあげ、肛門指戯で緩んだ顔で雄一を見る。
 リリスは目の端に涙を溜め、「ぎざまぁ、殺ずぅッ!! 殺ずぅ!!」と殺意を剥き出しにしているが、アナルから全身に広がる甘美な痺れに抗えず、自分から素早く尻を振っていた。
 そのすぐ隣では全身を大きく上下に揺すり、「指ぃ、増やしてくだひゃいッ!」とナイトメアが涙目で哀願していた。
「増やしてほしいか。よしよし、いいだなナイトメアは」
 ナイトメアの願いが通じ、肛門いじりに薬指が追加された。
 だが、その淫らな要求はナイトメアだけではなく、リリスにも平等に与えられる。
 合計三本の指の太さはすでに成人男性の勃起した陰茎に近いものだったが、淫魔たちの肛門はそれを易々やすやすと受けいれた。
「おごっ……おおおおおおおおッ…や、やめるのじゃ…おっほ、おほぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……グる! グる、グるッ!ひゃああああああああン♥♥♥」
「いきゃああああああああッ! ありがとうございましゅうううう!! ございまぁ……ああああああああああああああああああああ!! いぎまずっ! いぎまずッ! あああああああ♥♥♥」
 ヨガり泣きした淫魔たちは、狂ったように腰を振りたくり二人同時に果てた。
 雄一の腕の中で柔らかい肉感の美少女たちが、余韻ではぁはぁと呼吸を乱している。
(このような下衆げすに肛門でイかされてしまうとは……!!)
 リリスは身を起こして雄一をバラバラに切り刻もうとしたが、体から全部の力が消失していた。
 そのせいで、立つことさえできない。
 こやつは妾たちの力を取り込んだのじゃ――彼女は歯軋りしながら、魔界の悪魔大百科に載っていた特殊な人間の存在についての記述を思い返していた。
 それは<変異種へんいしゅ>と呼ばれるもので、人間でありながら魔族と肩を並べるほどの魔力を持つのだという。
 魔族の敵である天使たちも、この変異種の動向を気にしている。
 人間界で<奇跡>と名づけられたそれは、変異種が能力を使っているからに他ならない。
 その極めて稀な者が、まさか召喚者とはリリスも予想だにしなかった。
(こやつが辺獄に行ったときから警戒しておくべきだった……)
 自分たちはとんでもない男に捕らわれてしまった――リリスは絶頂に達して汗まみれになった躰が恐怖で震えてしまうのだった。

 


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