()水星すいせい()触辱しょくじょく・1

 

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水星触辱・2を読む




 ――少女は街外れの寂れた工場跡に来ていた。
 日中でもほとんど陽光が差し込まない工場跡の内部を、少女は周囲の気配を探るように歩いていく。
 その少女の姿は場違いにも、ほどがあった。
 少女の制服は、涼しげなセーラーカラーで構成された区立十番中学校の長袖セーラー服。
 胸元には花のような真っ赤なスカーフがリボン状に結ばれ、青スカートは校則の膝丈を律儀に守り、少女の真面目さを窺い知ることができた。
 そして、一番際立っていたのは少女の可憐さだ。
 知性を感じさせる水のように澄んだ瞳と、慎ましやかな()鼻梁びりょう
 ナチュラルリップをひいた小さな唇が、艶を放っている。
 髪は清潔感あふれるショートカットで前髪左側を若干アップにし、全体を流すように整えられていた。
 しとやかな知的美少女――彼女、水野みずの亜美あみを目にした男性が誰しもいだく印象である。
「……おかしいわ。この工場跡まで確かに来たはずだけど」
 亜美は眉をひそめて呟いた。
 辺りは工業用機械油の臭いが立ちこめ、天井の高い製造区画の名残が闇の奥へと続いている。
(セーラーチームのみんなに、携帯電話で状況を知らせるべきかしら)
 亜美は判断に迷う。
 街中で妖魔ようまの気配を察知してここまで追ってきたが、相手の数や力量を把握しないまま、敵地に乗り込んでしまったからだ。
 彼女の明晰な頭脳が、めまぐるしく状況を数値化していく。
 携帯電話で仲間に連絡する七十八パーセント。この場で妖魔の出方を探る二十パーセント。さらに追跡を続ける二パーセント。
 現在、亜美が不利であるのは否めない。
 敵には好都合な暗がり。視界のほとんど利かない工場跡は、妖魔の隠れ家としては最適だ。
 彼女が来た道を戻ろうとしたとき、記憶の片隅である事が引っかかった。
『またもや少女が謎の失踪』
 そんなニュースを亜美は昨夜に見た。
 ニュース映像で流れたのはこの工場跡付近で、一ヶ月前から少女の失踪事件が多発しているそうだ。
 事件現場と妖魔の逃げ込んだ先が、こんなに近いのは偶然だろうか。
 警察の捜査人員が増やされたらしいが、妖魔が犯人ならば見つかるはずもない。
(いたいけな女の子たちを……赦せない!)
 工場跡を撤退する亜美の判断は、正義感によって覆された。彼女は危険を承知で探索を続けるのを決意する。
 ――しばらく進むと、錆びた鉄扉があった。
 ドアノブを回すと軋んだ音とともに扉が開く。
 そこから先も、薄闇が広がっていた。
 重機のある製造区画とは違って、細長い通路が一直線に伸び、まるで別世界に繋がっているかのようだ。
 何かが潜んでいてもおかしくないような薄闇の中を、彼女は一人で進んでいく。
 亜美には一つの計算があった。
(わたしがおとりになれば妖魔は現われるはず)
 そこまでさせる彼女の信念はなにか――それは水野亜美という美少女の秘密と関係がある。
 彼女の秘密とは、セーラーマーキュリーとして人間界に蔓延はびこる妖魔を殲滅すること。
 そのためなら多少の危険もいとわない。
 亜美はそういった精神の強さを、セーラー戦士として身に付けた。
 歩くうちに彼女の目は、だんだん闇に慣れてくる。
 通路の右横には薄汚い長椅子があり、その脇には電源の入っていない自動販売機が粗大ゴミのように置かれていた。
 換気されていないため、空気が埃っぽい。
 亜美はスカートのポケットからハンカチを取り出し、口元にあててマスク代わりにした。
 通路の左側にはドアがいくつかある。
 ここはかつて工場の事務施設だったのかもしれない。
 人が賑わっていた場所ほど、無人になるとその寂寥感が増す。
 それは空間として完全に”死んでいる”からだ。
 喫煙者向けの灰皿も、事務員が使っていたと思われるロッカーも、そこにあるだけで何も役目を果たしていなかった。
 妖魔はここを拠点にしているわね――亜美の鋭敏な感覚が邪悪な気配を捉える。
 不意打ちにも対応できるよう、まわりを警戒しながら歩いていたときだ。
 ――こつん。
 亜美の革靴の先に何かが当たる。
 その音で、ガラスや金属などの類ではないのがわかった。
「…………」
 亜美はしゃがんで足元を調べてみる。
 靴が床に転がっていた。
 亜美が履いているのと同じような革靴だ。
 靴のサイズから、女性の物である可能性が高い。
 さらに目をこらせば、その数メートル先にもう片方の革靴が不自然にひっくり返しになっている。
 他に手掛かりになるような物はないかと、通路の床を亜美は慎重に探った。
 そして、ある物を発見する。
 それは幾何学模様が表紙の本だった。
 中学一年生向けの数学教科書で、裏には名前が書き込まれている。
(まさか!?)
 亜美の嫌な予感は、いよいよ現実味を帯びてきた。
 予感の根拠。
 それは亜美が最初に見つけた革靴が、まだ人肌の温もりをとどめていたことなのだ。
 彼女の表情に焦りの色が浮かんでいた。
 通路をさらに進んでいくと、ドアに『会議室』とプレートが貼られた一室の前に着いた。
 そこには手さげ鞄が捨てられ、学校で使うシャ−ペンやノートが全て床に放り出されていた。この逼迫ひっぱくした状況から、只ならぬ事件が此処で起こっているのは明らかだった。
 仲間を呼んでいる猶予はない。事は一刻を争うのだ。
(この奥にいる……)
 亜美はドアの向こうに妖魔がいるのを確信した。
 妖魔の気配は、全身にまとわりついてくるような強烈さだ。
「きゃッ!?」
 ばん、というけたたましい音と同時に会議室のドアが開いた。
 凄まじい嵐のような突風が、亜美の髪やスカートをなびかせる。
 間髪いれず、次にそれとは正反対の現象が起きた。
 亜美を吹き飛ばそうとする生温かい突風は、その向きを会議室の内部へと急激に変える。
 会議室の外から中へと、巨大な生物に吸引されて飲み込まれるような感覚だ。
 風という見えない奔流の中で、かろうじて亜美はバランスを保った。
 めくれ上がるスカートからは純白のペチコートが見えてしまい、亜美は慌てて裾を両手で押さえる。
 亜美が会議室の中へと不本意な招待を受けて、まず目に飛び込んできたのは、何一つないがらんとした広い室内だ。
 そして華奢きゃしゃな少女の背中。
 少女は紺色のブレザーの制服姿で、長い黒髪を頭の後ろでポニーテールに結っている。全体的なシルエットラインが、かなり小柄なため、小学生のようにさえ見えた。
 亜美は、彼女に近づくのを躊躇ちゅうちょした。
(彼女から妖魔の気が溢れている!)
 薄闇という視覚的な遮蔽物を隔て、亜美と少女は対峙たいじした。
麻川あさかわ加奈かなさんね」
 亜美は拾った数学教科書に、書いてあった名前を呼ぶ。
 この問いかけに答えられなければ、彼女は妖魔に精神を乗っ取られているとみたからだ。
「はい。あなたは何故ここへ?」
 加奈は、背中越しにかけられた亜美の声に振り返って答える。
 二重まぶたの大きな瞳と、透き通るような白い肌が特徴的な少女だった。
 亜美とは別種の美少女と呼んで、差し支えない容姿だ。
 彼女は質問にこたえたが、亜美は警戒を解かない。
 目の前の少女から、妖魔の気配は薄れるどころか増幅してきていた。
 ここまで妖魔のオーラを纏いながら、正気でいられる人間などいない。これは亜美にとって、イレギュラーな事態である。
 亜美が逡巡しゅんじゅんしていると加奈は右手を正面へ、ゆっくりとした動作でかざした。
「……ッ!!」
 その手から、何かが亜美に向かって高速で伸びてくる。
(速くて見えない!)
 勘を頼りに、亜美は軽やかなサイドステップで加奈の攻撃らしきものを避けた。
 しかし、ひゅっと頬の近くを横切った物の正体は見当もつかない。
「一緒に気持ちよくなりましょう」
 加奈は生気の欠片もない声で言うと、再び手をかざした。
 そして、亜美は攻撃の一部始終を瞬きもせず見た。
 加奈の攻撃は手からではなく、どうやらブレザー制服の袖口から、縄のような物が飛び出だしてきてる仕掛けのようだ。
 亜美は十分な距離を取って攻撃をかわしたつもりだったが、のたうつ蛇のように縄は大きく軌道を変えた。
 彼女の右足に加奈が放った物体が、つたのように絡みつく。
「……くっ!?」
 重心をずらされて正面に転倒しそうになるが、亜美は左足で踏ん張って耐える。
 右太股に巻付いた縄が制服のスカートの中を、ぞわぞわと這い登ってきた。
 よく見ればそれは縄ではなく、粘液がまとわりついた蛸の足のような触手だ。スカートの裾からのぞく赤紫色の卑猥ひわいな触手は、五百円硬貨の直径よりも一回り大きい。
 おぞましいそれが、亜美の太股を締め付けた。
 あまりの汚辱感に亜美は、悲鳴を上げそうになる。
 しかし、セーラーマーキュリーである使命感がそれを制した。
(ここで弱みを見せたら妖魔の思うツボだわ)
 亜美が自分を奮い立たせていると、加奈の袖口から二本目の触手が高速で放たれる。
 ひるがえるセーラー服の裾を気にもせず、亜美は床の上へ小さく丸まるように前転した。
「随分と威勢のいい女だ。面白い。どこまでやるのか見せてもらうとしよう」
 それは既に加奈の声ではなく、地獄の底から聞こえるような低い男のものだった。
 やはり加奈は妖魔に肉体を乗っ取られていたのだ。
 二本目の触手は、亜美の背後の壁にぶち当たって大きな穴を空けた。
 そのまま触手はぼとりと落ちて、床を蛇蝎だかつのごとく這う。
 触手が目指す先は一つ。
 片膝をつき、呼吸を整えている亜美に他ならない。
 ピンク色の淫猥いんわいな表皮を鈍く輝かせ、触手は宙に踊った。
 亜美の左手首に長い触手が、撥条ぜんまいのように巻きつく。
「……ぐぅッ!」
 右太股、左手首の自由を奪われた亜美は、もがくようにして触手をほどこうとする。
 しかし抗おうとするほど触手は太い血管を浮き立たせ、緊縛を強めていった。
 グロテスクな触手に捕らわれたセーラー服美少女――その姿は異様な猥褻わいせつさがあった。
「この触手が何かわかるか? 女を犯したい男どもの思念が作った男根だ。純情そうなお嬢ちゃんには、刺激が強すぎたかもしれんな」
 加奈の顔をした妖魔は、からかうように言う。
 亜美は表情を強張らせ、動揺を隠し切れなかった。
(こ、これが男の人の……)
 触手の先端の包皮がずるりと剥け、男性器の尿道を思わせるような小さな穴が息をするようにぱくぱくと動いた。
 触手全体から雄の濃い臭気が靄のように立ち上り、亜美は妖しげな高揚感をおぼえる。
(落ち着くのよ。いつもの冷静さを取りもどさないと!)
 亜美は頭を振り、雑念を払う。
「まだ諦めていないようだな。俺たちが犯してきた女どもは、触手を見ただけで気絶したというのに」
 妖魔の声が闇を震わせ、室内に響いた。
 亜美は『俺たち』という妖魔の言葉に、微妙な齟齬そごを感じた。
 それではまるで――
「女の子を辱めたのは、あなただけじゃないような言い方ね」
 軽蔑するような鋭い眼差しで加奈を見つめ、彼女は言った。
「そうだ。俺だけじゃない。なあ、闇に潜みし者どもよ」
 妖魔の問いかけに応える声はなかった。
 そう、応える声は。
 反応は、別の形でもたらされたのだ。
「なに…これは……!?」
 亜美が見たもの。
 それは壁一面に生えた手で、影絵のように次々とシルエットを変えていく。
 何かを掴むように手の平がうごめき、ゆっくりと迫ってくる。
 妖魔は余興でも眺めるように口元を吊り上げて、セーラー服美少女が慌てふためく様子を愉しんでいた。
(あの、いくつもの手に捕らわれた時の敗北率……九十九パーセント!)
 だが、亜美の右太股と左手首には触手が巻きついており、左右のどちらにも身動きが取れない。さらに追い討ちをかけるように、加奈の制服の袖口から新たな触手が射出される。
 それらは荒縄のように、彼女の左太股と右手首をきつく絡め取っていく。
 はりつけにされたような状態の亜美は、四肢にありったけの力を込めて逃れようとするが、まるで効果が無かった。
(なんとかしなきゃ…………ッ!?)
 亜美の両腕が後ろにぐいっ、と引っ張られる。
「……やだ……そんな!」
 触手に捕らわれた亜美の背後にあるのは、壁から生えた無数の手だ。その淫手いんしゅたちが、亜美を捕らえた触手を握っている。
 彼女は壁の淫手に綱引きの要領で、触手を手繰たぐり寄せられていたのだ。
「こんなの……いやああああああ!!」
 亜美は悲鳴に近い声を上げて、強引に前へ前へと歩き出そうとする。しかし、それは徒労に終わった。彼女の足は床の表面を虚しく滑るだけで、背後の淫手にずるずると引き寄せられていく。
 腰裏に付いているリボンに、淫手がかすった。リボンはスカートの装飾品で結び目をほどかれても、普段ならどうということはない。
 しかし今は、亜美の恐怖心を煽るには十分すぎた。
「……くぅっ!!」
 亜美はじりじりと近づいてくる背後の淫手から、一ミリでも遠ざかろうと前のめりになる。
(あの手は、一本一本がいやらしい邪気で溢れてるわ)
 セーラー服美少女の表情には、身をくような焦燥と、妄想による羞恥しゅうちが複雑な色合いとなってあらわれていた。
 あの無数の手にからだを隅々までまさぐられたら……そう思うだけで、亜美の頬は赤みを増していく。
「男どもの怨念の餌食となれ。安心しろ。魂が抜けるような快楽を与えるだろう」
 加奈の顔をした妖魔はニヤリと微笑みながら、制服の袖口を埃でも払うように軽く振った。 
「……あッ!?」
 一瞬、亜美の肉体から重力が消える。
 その刹那せつな、彼女が振り返って見たものは、闇の中で蠢く数え切れない手だった。
 平衡感覚が狂い、まるで壁に向かって落下していくような錯覚。
 ――壁に激突する寸前で亜美の身体が止まった。
 我に返った亜美は、その瑞々みずみずしい肢体を無数の淫手に真正面からキャッチされていたのだ。
 巻き付いた触手が加奈の袖口の動きに合わせ、自分をふわりと浮かせたのだと知ったとき――すでに亜美は淫手のにえとなっていた。
 亜美のセーラー服の胸元を、淫手がぎゅっと握った。
「……あゥッ!? いやあ!」
 亜美はセーラー服の上から、餅でもこねるように形の良い膨らみを弄ばれた。
 さらに他の淫手が、セーラー服の隙間へと雪崩なだれ込んでくる。
 セーラー服の上着の裾をめくった淫手が、目に眩しい純白ブラジャーの感触をてのひらで確かめる。
 淫手が亜美の健康的な膝をいやらしくまさぐるように経由して、スカート内の太股へと潜り込んでいく。
 それらの淫手たちによる痴漢ちかん行為が、か弱いセーラー服美少女に対して一斉におこなわれた。
「やめて! ああぁ……いひぃっ!? そ、そんなところ……触らないで!!」
 亜美は両手で、この卑猥な淫手どもを払い落としたかった。しかし加奈の触手に腕の自由を奪われており、今は若い美肌を淫手たちに堪能されることしかできない。
「すげえ。こんな可愛い女の子、ちょっと他ではお目にかかれねえぜ」
 しわがれた男性の声がした。亜美が向かいあっている壁が腫瘍のように膨らんで、徐々に人の頭を形作っていく。
「頭良さそうなツラしたガキだ。こういう奴に限って、毎晩オナニーしまくりなんだよな」
 亜美を辱めるような声に合わせ、いくつもの顔が壁に浮かび上がっていく。どうやら淫手の怨念の姿のようだ。
 レリーフのように壁から突き出した顔面の口元が、真一文字に裂けた。
 そこから赤蛭あかひるを思わせるような長い舌が出てきて、亜美の身体に近づきはじめる。
「ひッ!? やだぁ!」
 亜美の頬を、ぞろりと壁顔の舌が一舐めした。あまりの気色悪さに流石の亜美も思わず音を上げてしまう。
「かなり敏感だな。ここをこういうふうにすると、どんなスケベ顔になるんだ? ん?」
「こいつが着てるの十番中学の制服だぜ。女子中学生なんて滅多に弄れないからなぁ。可愛がってやるぜ」
「この勉強好きそうなガキ、いい躰してるぞ。触って調べてやる。バスト八十三、ウエスト五十六、ヒップ八十四てとこか……うひひ」
 壁顔の羞恥を煽る言葉と同時に、何本もの淫手が亜美のブラジャーの上に集まる。そして彼等は控えめで小ぶりな突起を、両胸からすぐに探し出した。
 そこをブラジャー越しに、指で責めていく。
 乳肉に埋めるように中指で押し込もうとする淫手。三本の指でブラジャーのカップごと先端をつまむようにし、引っ張り上げる淫手。その突起を、親指の爪先で引っ掻くように動かす淫手。あらゆる指技が、布一枚隔てた乳房の頂点で繰り広げられる。
 ブラジャーごと乳房を淫手どもに蹂躙じゅうりんされる様子を見つめ、亜美は自分の息が次第に熱を帯びてくるのを感じた。
(やだ……ブラジャーの上からでも、先のほうが硬くなってるのがわかっちゃう)
 亜美の美しい顔が、羞恥の色に染まる。
 それをあざけるかのように壁顔たちの淫手が、ブラジャーのカップに浮き出た突起を、くりくりと指で弄り回した。
「このエロガキ、乳首ビンビンにして感じてやがる。ほれほれ……こういうのが好きなんだろ?」
 ショートカットの美しい髪をかきわけ、壁顔の舌先が亜美の耳朶みみたぶ愛撫あいぶした。それに触発されたのか、他の壁顔たちも亜美の細い首筋や、形良く整った顎下を舐めまわす。
 壁顔の中には、彼女の小さな鼻腔びこうにまで舌をねじ込む者までいた。
 容赦の無い顔面陵辱と同時進行して、乳房の頂をブラジャー越しに摘み上げられてしまう。
 亜美の表情が快楽に歪んだ。
「つ、摘まないで! 摘んじゃ……いやぁ」
 自分の発した言葉の卑猥さと、耳元をネチネチとくすぐる壁顔の汚らわしい舌技――亜美は四肢に、甘美な痺れがはしるのを感じた。
(こんな恥ずかしいことされてるのに…なんで……)
 亜美は美顔を唾液まみれにされてしまいながら、霞んだ脳裏でそんな事を考える。その表情は瞳が潤み、半開きになった唇からは快感を押し殺そうとする息遣いが聞こえた。
 このみだらな状況の中で彼女の躰は、明らかに肉欲を萌芽ほうがしつつあった。
「そろそろ中学生の生オッパイ丸出しといこうじゃねえか」
 壁顔が亜美の横顔をのぞきこみながら言った。
 淫手たちは、ブラジャーのカップを真正面からブチブチと引き千切る。
「きゃあああああああああああああああッ!!」
 セーラー服美少女の甲高い悲鳴が、室内にこだました。
 役目を終えたブラジャーのカップから、亜美の白い二つの膨らみが、ぷるんと勢いよく飛びだす。
 左右に分かれたブラジャーのカップは、壁顔たちによって染み付いた匂いを嗅ぎまわされる。
「……甘くて、美味そうな匂いしてやがる」
 フロントホックの中央を破かれた純白ブラジャーは、亜美の見ている前で、乳房を収めていた内側を何人もの壁顔に舐め尽くされた。
 自分の恥ずかしいブラジャーの匂いや味を知られ、さらには異性に一度も見せた事のない胸まで晒されてしまうなんて……亜美は身を焦がすような恥ずかしさにさいなまれる。
「乳首見てみろよ。今時、こんな薄ピンク色の乳首にお目にかかれるとはな!」
「おい、ガキ。マンコしたことないんだろ? 俺たちがこってり教えてやる」
「たまんねえオッパイだ。盛り上がった乳輪ごと、エロ乳首がおっ立ってやがるぜ」
 興奮によって、痛いほど胸の先端が尖っているのを亜美は感じた。
(やだやだ! みんな見てる……わ、わたしの胸、いやらしくジロジロ見てるッ!!)
 淫手たちに乳房を揉まれるたび、亜美の全身が火照ほてってくる。
 彼女は自慰じいの経験こそあるものの、他人に胸を触れられた事など無い。
「自分の乳首見てみろ。……ひひひ、こんなに硬くなっちまってよぉ」
 壁顔は淫手で、亜美の頭を強制的に下へと向けさせる。
 そこには言い逃れできないほど、ぷっくりと膨らんだ二つの突起があった。その恥ずかしい突起を淫手達が、親指と人差し指で卑猥に摘み上げていく。
 さらに淫手は摘んだそれを、軽く捻るように動かした。
「ンぁああっ……!? あううぅ♥」
 押し殺していた喘ぎが亜美の口から洩れる。
「真面目そうな顔して、乳首を苛められるのが好きなんだろ?」
 壁顔は低い声で彼女にささやく。
 亜美の首筋には舌がいくつも這い回り、美しい太股は何本もの淫手にまさぐられていた。
「くッ……ンひ!?」
 壁顔に柔らかな耳朶を甘噛みされた。
 必死に抵抗していた亜美の肉体が、びくんと反応してしまう。
(こんな妖魔たちなんて、セーラーチームのみんながいればすぐ倒せるのに!)
 亜美の胸中は、悔しさで一杯になった。
 淫手は白い美乳をたぷたぷと上下左右に揺すり、その様子を涙目になりながら亜美は黙って見ることしかできない。
 十四歳の少女には、耐え難い羞恥地獄である。
「おい、ファーストキスはまだなんだろ?」
「…………」
 亜美はうつむき、口をつぐんで返事をしない。
 それは無言の肯定であった。
 壁顔たちは、亜美のスカートポケットから生徒手帳を抜き取り、名前ページを下卑げひた笑みで眺めている。そして、ペンらしき物と水色の携帯電話を彼等は見つけたが、二つとも投げ捨ててしまった。
「くひひ、水野亜美ちゃんか。亜美ちゃん良かったな。俺がファーストキスしてやる」
 自分の名前を呼ばれただけなのに、亜美はひどく辱められた気分だった。
 正面の壁顔が「こっち向けよ」と言うと、淫手が亜美の顎を強引に上へと向けさせる。
「近くで見ると本当に美人だぜ」
 亜美は表情を観察されながら、左右の乳首を思い切り淫手に引っ張られた。
「きひぃッ!!」
 未開発の乳首のため、亜美には快楽と同時に微かな痛みがともなう。
 それを察したのか、淫手の指が乳首を転がし始めた。
 亜美の表情から、険しさがなくなる。代わりに瞼を半開きにし、焦点の定まらないものになった。
 ぴったりと閉じた口唇は何かを我慢するかのように震え、時折ときおり、興奮のせいか深く息を吸い込んでいる。
(いつも一人でするのより気持ちいい……)
 亜美は頬を赤らめ、淫手の指使いに翻弄されていた。
 彼女はテストが近付いてくると、毎日のように自慰をする。
 自慰に使うのは官能小説である。カモフラージュで参考書の間に官能小説を挟み、同性が居るレジで買う。亜美はこのため一ヶ月も書店のレジを見張り、男性が居ない時間帯や曜日を調べた。
「亜美ちゃんは、乳首くりくりされんの好きみたいだぜ」
「ち、違うの…これは……違うのッ!!」
 壁顔の言葉に狼狽うろたえながらも、必死に否定する亜美。
 それとは裏腹に、乳首と乳輪は満開桜のようにぷっくりと浮き上がっている。
 彼女の濡れた瞳とスタイルの良い未成熟なボディに、壁顔たちはさらにいきり立つ。
「これから腰抜けるほど気持ちよくしてやる」
 壁顔の長い舌が中学生美少女に伸びる。
 先ほど頬や鼻腔を舐められたときと、舌の動きがまるで違う。
 舌は、亜美の顔の一部を正確に狙っていた。
(キスされる!?)
 亜美は舌先から逃れるように顔を振ろうとしたが、淫手に固定されて微動だにしない。
 こんな化け物たちにファーストキスを奪われるなんて絶対に嫌――ここまで気丈きじょうに振る舞ってきた彼女だが、流石に顔が青ざめた。
「その嫌そうな顔いいねぇ。いかにも純情そうで最高じゃねぇか」
 亜美は壁顔を睨みつけ、「あなたたちにけがされるくらいなら死んだ方がマシよ!」と言い放った。
「亜美ちゃんのツンツンした態度たまんねぇ。乳首もツンツンしてるってか」
 壁顔は高笑いしながら、思い切り亜美の乳首を指で弾いた。
「ンひぃいいいいいいいっ!?」
 美少女の凛々りりしい表情は乳首責めをされただけで、すぐに失せてしまった。
 四肢が痺れ、全身が性感帯と化したように淫らな欲求が湧き上がってくる。
「キスさせろよ」
 壁顔の舌が亜美の唇を舐める。
 その寸前、彼女は快楽で半開きになっていた口を閉じた。
 中学二年生の無垢むくな唇を、無粋な舌がこれでもかというほど何度もねぶる。
 小さな唇の皺の一本一本を味わいつくすように、舌は偏執的に彼女の上下の口唇を辱めた。
「口開けろ、おら」
「……んぶッ……ンんんんんん〜ッ!?」
 壁顔の口が亜美の唇を塞いだ。
(わたしの…初めてのキス……)
 亜美は妖魔にファーストキスを奪われ、このまま消えてしまいたい衝動に駆られる。
 唇を閉じたままにして舌を口内に進入させないことが、彼女のできる精一杯の抵抗であった。
「いいのか? そんな態度だとすぐに犯すぞ」
 壁顔は口を開かない亜美を脅迫した。
 犯す……その言葉を聞いて、彼女は改めて自分の立場を思い知らされる。
(こ、こんな脅しにセーラーマーキュリーのわたしは屈しない!)
 亜美は震えながら、それでも唇を開こうとはしなかった。
「おい、こいつに思い知らせてやれ」
 壁顔がそう命じると、亜美の胸の近くに別の壁顔たちが集まってきた。
 自分の胸元を見ろと言わんばかりに、淫手は亜美の頭部を放す。
「ひっ!? やめて! やめてぇええええええ!!」
 亜美が見たのは、両乳房に群がる壁顔たちである。
「あぅっ!? …あああああああ……あァッ……そ、それ、だ…だめッ♥ 」 
 亜美の乳首に、甘美な電流が奔る。
 壁顔の一つが亜美の右乳首を、ちゅうちゅうと吸い出したのだ。
 さらに左乳首も、別の壁顔に吸いたくられた。
 示し合わせたかのように、壁顔たちは左右の乳首を同時に甘噛みする。
「く、くひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ♥」
 快楽の細波さざなみが亜美の背筋に二回、通り抜ける。下腹部がじんわりと熱くなり、十秒ほど頭の中に桃色の霧が立ちこめた。
(乳首を噛まれただけで、軽くイかされちゃうなんて……)
 亜美の口元はだらしなく緩み、唾液の細い筋が顎から垂れて床に落ちていく。
 その隙を壁顔は逃さなかった。
「おぶっ……ぁぐっ…や、やだ! やはぁ! ……んぶぅ」
 亜美の口内に、今まで拒んできた太い舌が入り込んでしまう。
 舌は歯茎や歯裏を舐めまわし、亜美の甘くかぐわしい唾液をすすり飲む。
「女子中学生の生唾、超うめぇ。エナジーで溢れてやがる」
 壁顔は喉を鳴らしながら亜美の唾を飲み干し、舌で口内を穿ほじくりまわす。ディープキスに息が続かなくなった彼女は、げほげほと大きくせかえった。
「ベロチュー気持ちいいだろ」
 唾液の銀糸を引きながら、壁顔は唇をはなした。
 亜美は肩で息をつき、壁顔に流し込まれた臭気にまみれた唾液を嚥下えんかする。
 彼女の舌の先端は痲酔でも打たれたように、ぴくぴくと痙攣を繰り返す。
 壁顔の唾液には強力な睡淫効果があった。それを人間が摂取せっしゅすると、普段の十倍の快楽を得てしまうのだ。
「き、きもひ……よふなんへ…へ、へひっ! へぎいいいいいいいいいいいいいいい♥」
 だらしなく飛び出している舌表面を、淫手が軽く撫でた。
 それだけで亜美の瞳は快感で半眼になり、呂律ろれつが怪しくなる。その表情は色情に狂う雌でしかない。
 かろうじて残っている理性で、亜美は打開策を考えようとした。
 しかし睡淫唾液の効果のため、意識が性欲に塗りつぶされそうになる。
 妖魔の陵辱りょうじょくに心が折れかかったとき、亜美の視線の先に棒状の何かが光った。
 変身ペン――壁顔たちが生徒手帳を取ったとき用途がわからず、床に捨てた物だ。
 亜美はあのアイテムを使い、水星の加護でセーラーマーキュリーに変身する。
(変身さえできれば……)
 亜美の虚ろだった瞳に、生気が蘇ってきた。
 睡淫効果も時間が経つにつれ、少しずつ薄らいでいる。
 妖魔の体液を浄化する力があるのは、セーラー戦士としてしての思わぬ僥倖ぎょうこうだ。
 常人ならば、あれだけの睡淫唾液を飲まされたら、すぐ廃人となっていた。
「そろそろ頃合いだな」
 亜美の背後にいた加奈は、壁顔たちを制して言った。
 そして淫手と触手に捕らわれている亜美のスカート内に両手を入れる。
「生下着を見せてもらうついでに、加奈とかいうこの女と会わせてやる」
 壁顔たちはショーツを掴んだ加奈の手が下りていくのを、固唾を呑んで見守る。
 亜美を精神的に追い込もうとしているのか、わざと時間をかけて加奈はショーツを脱がしていく。
 彼女の手元はスカートで隠れているため、亜美の下着がどのような形状と色なのかはまだ見えてこない。
「ごめんなさい……亜美さん、私のせいで!」
 それは妖魔の憑依を解かれた加奈の声だった。
 妖魔が言った『会わせてやる』とは、こういう意味らしい。
「加奈さん!? 加奈さんなのね! お願い、こんなことやめて!」
 亜美は、自分のショーツを下ろそうとする彼女に全力で懇願した。
「手が……勝手に下がっていくの。私じゃない誰かが、動かしてるみたいで止まらないんです!」
 加奈は目の端に涙を溜め、自分の手が徐々に下がっていくのを罪悪感とともに見ている。
 ゆっくりと、そして確実に加奈の手は亜美の膝上まで到達し――ついにスカートの膝下までショーツが下ろされてしまった。
 ずり下ろしてしまったそれを見ないよう、加奈は両目を閉じている。
「亜美さん…ごめんなさい、ごめんなさい……」
 後悔の念に押し潰されそうになり、加奈は何度も亜美に謝った。
 スカートから出てきたのは、数秒前まで乙女の聖域を隠していた純白の小さな布きれである。
 それが亜美の両足首から、床に音もなく落ちた。
「感動の対面はどうだ? この加奈とかいう女、お前に赦しをうていたな。人など無力なものだ」
 妖魔に戻った加奈は床に落ちた亜美の生下着を拾い、ショーツの底部を丹念に舐め始める。
 亜美は、そんな変態めいた彼女の様子から目を逸らしたかった。
「中学生の愛液……これはエナジーの源としては最高だな」
 さきほどまで優しい少女だった加奈。
 そんな彼女が、ショーツにびっしょりと付着した自分の愛液を美味そうに舐めている。いくら妖魔の支配下とはいえ、その姿を亜美は直視することなどできない。
「なにが望みなの? わたしはどうなってもいいから、加奈さんだけは無事に帰してあげて」
 観念したように亜美は言った。
「若い女性の性的エナジーは純度が高い。つまりお前を犯し、エナジーを吸収したいだけだ」
「わたしと……そういうことをしたら、加奈さんをここから出してくれるのね?」
「ああ、そうだ。約束してやる」
 亜美は妖魔の約束など、最初から信じてなどいなかった。
 だが今は彼等の要求を満たさなければ、自分だけでなく加奈の命もあやうい。
「わかったわ。あなたたちの言うことを聞いてあげる」
「聞いてあげる? 聞きますの間違いだよなぁ。いくらでも、この女を玩具オモチャにしてやるぞ」
 妖魔は乗っ取った加奈の胸を、制服の上から激しく揉んだ。
 亜美のような高潔な者は当人よりも他人の危害に対してもろく、そこを突けば簡単に服従させることが出来る……妖魔はそれを経験で知っていた。
「ま、間違えました。あなたたちの言うことを聞きます」
「そうか。では、俺たちの前でオナニーしろ」
 彼女は自分の顔が、耳朶まで真っ赤になるのを感じた。
「…………」
「できないのか? 拒むなら加奈とかいう少女が行方不明扱いになるだけだ」
「や、やります……やらせてください」
 加奈は、淫手と触手に亜美を解放するよう指示した。
 亜美はブラジャーを千切られて丸出しになった胸を制服の下に隠し、会議室の床にぺたんと座る。
 左手で控え目に胸を揉み、スカートの中に右手を入れて弄りはじめた。
(こんな状態だと集中できないわ)
 乳首を摘んだり、太股を撫でたりするが、いつもの激しい自慰行為とは違う。
 亜美は萎縮し、ショーツを脱がされた股間に軽く触れたりするのが限界だった。
「俺たちが気になるか? それでは記憶から直接、引き出してやろう」
 加奈が腕を振ると、先端が針状になった触手が亜美の首筋をチクリと刺した。
「わたしに、なにをしたの!?」
「亜美ちゃんが本気オナニーできるように手伝っただけだ……ひひ」
 加奈の言葉を聞き終わらないうち、亜美の脳内では猛烈な勢いで時間が巻き戻されている。
(これは、どういうこと!?)
 戸惑う亜美の心を、見透かしたように加奈は言う。
「触手の体液で脳の海馬かいばを操作し、記憶と行動を過去に戻した。これから記憶再現が始まる。いつに戻したかは、すぐわかるはずだぜ。身動きできないまま、せいぜい見ておくんだな」
 意識は今だが肉体は過去という、一種の乖離かいり状態にあるらしいと亜美は認識した。
 それよりも気になるのは、加奈の言う『いつに戻したか』だ。
 いまのところ、肉体の自由を奪われた以外に変化はない。
(なにが起こるというの)
 ――おもむろに亜美は立ち上がった。
 そのまま彼女は前に数歩進んで左を向き、そして上の方を眺める。
 傍目からだと、何もない空間で亜美が舞台劇をしているように見えた。
 しかし、これは記憶に裏付けされた再現である。
(これ……わたしの部屋の中だわ)
 亜美は、ようやく場所が何処かを特定した。
 記憶を巻き戻されている彼女は頭の高さの部分に手を伸ばし、何かを床に置いていく。
 自室の本棚の参考書を何冊か下ろしている――亜美はそれに気付いた。
 これから起こる行動が自分の中では極秘レベルのものだと理解して、彼女は記憶再現を止めようと試みた。
(よりによって、こんなところに時間を戻すなんて!)
 だが無情にも、亜美の動きは止まらない。
「なにをしてるんだ?」
 加奈は軽薄な笑みで彼女に質問した。
(駄目! 答えては駄目!!)
 そんな亜美の願いは、通じなかった。
「……参考書の裏に隠した官能小説を取り出しています」
 記憶再現している亜美は、自白剤を打たれたようになにもかもしゃべってしまう。
 本棚の中の参考書と辞書の裏はすべて官能小説らしく、頬を赤らめた亜美は背表紙を見てどれを読もうか迷っている。
(こんな恥ずかしいところ見せないで!!)
 亜美の意識は、羞恥で死にそうになっていた。
「よく読む官能小説のタイトルを言ってみろよ」
 調子に乗った壁顔が、興奮で鼻息を荒くしながら訊ねる。
「調教少女・涼子に淫欲の輪姦陵辱、あとセーラー服監禁レイプが気に入っています」
 亜美は無機質な声で言った。
(なに言ってるの!? この恥ずかしい女の子を黙らせて!)
 亜美は意識の中で、そう叫ぶ。
 挙げられたタイトルの本を持っているのは事実だった。
「亜美ちゃんがレイプって言ったぞ」
「ああ、輪姦とも言ったぜ」
「こいつはとんでもない淫乱娘のようだな」
 清楚せいそな美少女の発言とは思えないほど、不釣りあいで淫猥いんわいな言葉に壁顔たちはいやらしく頬を緩ませた。
 亜美は本棚の中から一冊を取り、ベッドがある位置に座る。
「読もうとしている小説のタイトルを言え」
「ロリータ美少女・中出し強姦日記です。迷いましたがこの小説が一番好きです」
 加奈の問いに、官能小説の下品なタイトルを亜美はあっさりと答える。
 恥ずかしさのため、彼女はこの正常な意識もろとも誰かに自分を殺して欲しいとまで思った。
「読みながらオナニーしろ」
「わかりました」
 亜美は左手に透明の官能小説を持ち、右手でセーラー服の上から胸をまさぐりはじめた。
 先ほど、加奈に命じられて自慰をしいたときとはまるで違う、上気した表情で本の文字を追っている。
「……放課後、舞が廊下を歩いているとき、後ろから三人の男子生徒たちに羽交い締めにされた」
 官能小説を朗読している亜美の手が、胸元をこねまわす。
 形の良い乳房が、制服の中で楕円に押し潰される。
「やめて、と舞は抗うが男子生徒たちに口を塞がれた。彼女はそのまま、暗い教室の中に連れ込まれ押し倒される。男の中の一人に舞は制服のブラウスを乱暴に破られ、ブラジャーを捲られた」
 作品内の”舞”という少女に自分を重ねているのか、亜美は制服をめくりあげた。
 十四歳にしては豊満な二つの生乳が、外に露わになる。
「男たちは舞の柔らかな乳房を揉みしだき、その感触に卑猥な笑みをうかべた」
 亜美は右胸を思い切り鷲掴みにしたかと思うと、次は丁寧に揉んで力加減に緩急をつけた。そうすることによって、さらに深い快感が爪先から頭頂まで痺れとなって突き抜ける。壁顔たちに飲まされた睡淫液が完全に浄化できていないのも、性的感度の良さに拍車をかけた。
 ――淫靡いんびな表情で、躰をくねらせる亜美。
 深夜、自室で秘め事に没頭する美少女の生々しい姿が、その場で再現されていた。
「舞の口に、今まで見たことがない勃起した男性器が押しつけられた。いやっ! そんな物を顔に付けないでと叫んだが、無理矢理に陰茎をくわえさせらてしまう」
 人差し指と中指の二本を、亜美は口に頬張った。
 それは彼女が作品内の舞と妄想の中で同化し、快楽を貪ろうとしている光景だ。
(お願いだからもうやめてッ!!)
 激しい自慰行為を客観的に見せられるのは、亜美にとって拷問に等しい。
 指をしゃぶったりして、作品内で起きている強姦の臨場感を愉しむのが、他言できない彼女の性癖であった。
「……お、おとこ…のぉ……ちゅっちゅぱ♥ ちゅちゅ……ん…ア、熱い…ンふ……ちゅ…欲望がぁ……舞の…チュッ…口にぃ……チュパッ…チュ♥」
 いつもの亜美のりんとした声ではなく、甘ったるい声が発せられる。
 彼女は横たわり、舐めていた右手を内股に移して焦らすようにまさぐった。
(なんでこんな…いやらしい気分になるの……)
 記憶再現はその状況を寸分たがわず、忠実に再現する。当然、そこには心理的なものも含まれており、亜美の正常な意識は快楽に浸食されつつあった。
「お、おとこ……たちのォ……んふッ♥ 太い……指が…舞の太股……ッ…ン……を…さすりぃ…はじめ……んン…はぁはぁ…」
 亜美の目は潤み、右手は淡い恥毛ちもうの生えた股間のスリットを擦り始めていた。
 スカートをはだけながら脚を不格好に上げ、縦筋の上部にある秘芯ひしんを人差し指で弄くりまわす。
「卑劣なァ……ンッ…オスたちはぁ……ま、舞のォ…あン♥ け、穢れ…ンふぁ……なき…ま、股ぐ…らの花びらを…指で……はふッ♥ ゆ、指…ゆびぃ……いいのぉおお…あああああああぁ〜ッ♥」
 亜美は軽い絶頂を迎えた。
 淫裂いんれつから、美少女のとろりとした蜜液が滴ってくる。
 自慰の余韻のせいで顔を伏せていたが、すぐに官能小説の続きを読み始めた。
「一人目……のぉ…男が……はぁ…ん……正常位でぇ…ペ、ペニスを…ン………んぁ…入れる♥ あっあっ……ああ、きもちいいッ♥」
 亜美はまるで正常位で犯されているように仰向けで腰を振り、白桃はくとうのような尻が見えるほど大胆な恰好で自慰にふけっている。
 その姿は知的美少女とは程遠い。
 そこに居たのは、妄想内で強姦されることによろこびを見出す、ただの性欲旺盛な中学二年生である。
 白磁はくじのような滑らかな彼女の肌には玉の汗が浮き、男を誘うように薄暗い室内で輝く。
 口唇に唾液の糸を引きながらの呼吸は、卑猥で熱っぽく、一息ごとに快楽の度合いを深めていった。
「……たちのォ…んあああ…く、クリ…トリス…はぁ…はふあぁあ…ゆ…びさきでぇ…む……むいたぁ…ンんん……きゃ、きゃひッ♥」
 自慰のたかぶりで朗読が飛び飛びの亜美は、秘所のいやらしい肉芽にくめを指でいた。
「あぁ…ああんッ…あ、あひッ…クリ剥きいいっ!」
 亜美は股間の割れ目から蜜を数滴垂らし、悶える。そして淫蜜いんみつまみれの股間を指で刺激して、なにかにまたがるような体勢になった。
「ああっ…し、下からの…ッ……突き上げに…ン……お、おっぱい…んふっ…あっ……あッ…♥」
 どうやら官能小説内では、騎乗位で犯されているらしい。
 亜美は膝立ちで胸の膨らみをたぷたぷと揺らし、濡れそぼった陰唇いんしんのまわりを掌でこすった。
「……いっ…いいっ! ……もっと……下からッ…あひっ♥ あああ…し、尻……尻を…ん……ンひ…抱き…あっ……あんっ…いやっ…お、おもいきり…ひううううううぅ♥」
 亜美の右手がせわしなく乳首を摘んだり、スカートからまくれがった生尻を揉んでいる。
 ほとんど意味を成さないほど朗読が細切れなのは、彼女の快楽に歯止めが効かない状態からであった。
「あああああ…やだッ……そんなに…激しくしちゃ…あっあっあっあ…ら、らめぇ……わ、わた………し…はぁ……はふッ…あ、頭…おかしくなっちゃうよぉ♥」
 全身をひくつかせ官能小説の強姦魔にペニスで貫かれ、美少女の雌汁がしとどに太股をつたって落ちていく。
 亜美は緩慢な動きで尻を高々と上げ、親指をしゃぶりだした。
「……ん…バック……恥ずかしいよぉ…ちゅぴ…ちゅううう…わたしのこと……みんなで…犯して…あああっ……あっ…ン♥」
 彼女はもう官能小説を読んではいない。
 妄想内の中で、複数の男に後背位で輪姦されている胸中の声を、記憶再現で吐露とろしているだけだ。
 舐めている左手の指は陰茎を模しており、右手は股の淫裂の浅い部分の肉襞にくひだをしきりにめくっている。
 亜美は前後から二人の男に、陵辱されるシチュエーションが好みだった。
 自慰の絶頂が近付くと、バックで自分を貫く男のオナペットを彼女は毎回登場させる。
「あ、いいいっ……いいのぉ…もっと、腰を…あっあっ…いひっ! いひっ! お尻叩いちゃ…ダメぇ♥」
 彼女は大きな尻房を、右手でぱちんぱちんと叩き始める。
 そのたびに背中が仰け反り、唇の端から涎が滲み出てきた。
 それが床の上に小さな水溜まりを作る。
「ンああああッ…イ……イキそッ…ン……ああああッ……く、くるッ…きちゃうッ………ああああああああああああああああああああああああああっ♥」
 絶頂を迎えた亜美の躰が、大きく痙攣した。
「あっ……! あ、ああああああ……イぐッ…♥ イ、イぐうううッ…んほおおおおおおおおっ♥♥♥」 
 自慰で果てた彼女は四肢の力が抜けきり、快楽の痺れに酔いしれていた。
 薄桃色の股間の縦筋からじんわりと、美少女から搾りだされた濃い蜜液が溢れ出してくる。
(記憶の中の自分に感じてしまうなんて……)
 記憶再現のため、亜美の意識は過去の己の自慰行為で辱められたようなものである。
 妖魔が記憶再現で戻した時間――それは彼女が最も知られたくない、”息抜きオナニー”の時間であった。
 快楽に潤んだ亜美の瞳に映ったのは、両手で顔を覆い、「あんなことさせないで!」と泣きながら訴える加奈の姿だ。
(……加奈さんにも見られてしまったのね)
 おそらく妖魔は、自慰に熱中する自分を加奈に見せつけたのだろう。
 加奈に軽蔑されても仕方がない……亜美は快感に躰をひくつかせ、失意の表情でそう思った。
「亜美ちゃんのイキっぷり良かったぜぇ」
「本当はレイプされたいんだろ? なぁ? うひひ」
 壁顔たちは記憶再現の終わった亜美を、いやらしい言葉でなぶった。

 


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