呟き日記 11月
ミゼット

稲嶺智晴
古い車って憧れる。
ミゼットなんか可愛くていいなぁ。
「こんなん乗りたいな」
写真を有働に見せたら
「これ、小さすぎてオレ乗れへんやんか」
と不満そうに言うから
「あ、有働は後ろに乗ったらええ」
当然のように答えたら
「オレは荷物ちゃう」
と拗ねた。
はじめてのラグビー観戦
| 有働雄哉 はじめてラグビーを観戦したんは、 オレにラグビーを教えてくれた姉ちゃんの彼氏の試合やった。 (下記「ラグビーと忘れ得ぬ人」参照) なんかやたら人数が多くてモミクチャになってるし、ルールもよくわからへん。 大学の試合やのに、観戦してるおっちゃんらの野次やウンチクもうるさかった。 目の前ででっかい兄ちゃんたちが真正面からドスッとかバキッとか音をたててぶつかる。 人と人が本気でぶつかるとこんな音がするんや・・・。 それでも兄ちゃんたちは後ろへボールをまわしながら前へ前へと進み トライをしたら、その選手だけが称えられるんやなくて皆で喜びあってた。 ひとりはみんなのために、みんなはひとりのためにって、こういうことかな。 試合中、何人もの選手が担架で運ばれるのを見て、 なんて恐ろしいスポーツやと思ったけど 試合が終わってスタジアムを出るとき、すごく気持ちが爽やかで 「カッコよかった。ボクもあそこで走ってみたい」 と呟いて、姉ちゃんを青くさせたのをおぼえてる。 |
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姉ちゃんとデート

有働雄哉
市内に出る用事があるから、ついでにデートしよう、と一番上の姉ちゃんに誘われた。
どうせ小言ばっかり言われるやろうから、いややなぁ、と思ったけど
新しいジャージを買ってくれるらしいんで、バイトやと思てグッと我慢や。
「ゆうちゃんが恥ずかしくないように、若作りしてきたで」
待ち合わせ場所で姉ちゃんは頬を染めて嬉しそうに笑った。
二人きりで会うと、いつも小言を言いまくる姉ちゃんも
すこし雰囲気が変わって穏やかで優しい。
でも、ジャージを買ってもろうたら一目散に帰ろうと思てた。
もし、こんな場面(女性とデート)をクラスメートに見られて
それが先生に伝わったりしたら、言い訳が面倒やから・・・。
ソワソワするオレを無視して、姉ちゃんは映画みようとか
買い物付き合ってとか繁華街を強引に引きずりまわされた。
「ゆうちゃんと二人きりでデート、初めてやから嬉しかったな〜」
三条にある抹茶の甘味処でしみじみと呟いた姉ちゃん。
「・・・・・・・・」
オレはグッタリ疲れて、返事もせず抹茶ケーキと抹茶パフェ、抹茶あんみつ
をただひたすらモクモク食べる。
「あんな、ゆうちゃん・・・・・お姉ちゃんな・・・・・」
一呼吸おいて、
「来年、結婚すること決まってん」
オレを真っ直ぐ見て言うた。
「え・・・・」
顔を上げて、はじめて姉ちゃんを見る。
「結婚して東京、行くんよ」
「・・・・・・」
おめでとう、という言葉すら出ずにポカンとしてると
「結婚前に可愛い若い男とデートしたかってん。
ゆうちゃん、ええ男やからみんな羨ましそうに振り返って気持ちよかったわぁ」
姉ちゃんは少女のように、あはは、と笑って
「ゆうちゃんに甘いの食べさせたん、他のお姉ちゃんに内緒やで」
と抹茶ぜんざいを一口食べた。
ザクロ

稲嶺智晴
有働に、実家から送ってきたというザクロをひとつもらった。
なんでも実家にザクロの木があって、毎年いっぱい生るらしい。
実はザクロを食べるのは生まれてはじめてや。
昔、「ザクロは人肉の味がする」っていう話をどこかで聞いてから怖い実やと思ってた。
そのいわれは鬼子母神伝説からやって、大人になってから知ったけど、
実が真っ赤なだけに、一粒食べるのにかなりの勇気と時間がかかった。
ドキドキ食べてみると・・・・・・・甘酸っぱくて爽やか。
え?これが人の味?
今度ためしに有働をかじってみよ!(嘘やで)
ラグビーと忘れ得ぬ人


有働雄哉
「雄哉!ラグビーしようや!」
ねぇちゃんの彼氏は大学でラグビーをしてて、会うたびにいつも誘われた。
「ラグビーは男の中の男のスポーツやぞ!グラウンドの格闘技や!」
「で・・・でもボク、体が小さいし、そんな危険なスポーツしたら
絶対ねぇちゃんらに怒られる・・・・」
小学五年のオレは運動神経は良かったけど、ちょっと内気やった。
「雄哉はねぇちゃんらの言うこと聞きすぎる!男やろうが!
それにお前は、これから身体がどんどん大きくなるぞ、絶対!」
ガハハと豪快に笑いながら、オレの背中をバシンと叩いた。
「ONE FOR ALL,ALL FOR ONE!
ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために。
それがラグビーや!どうや、本気でやらへんか!オレが教えたる!」
その日から近くの公園でラグビーの特訓がはじまった。
日が暮れるまでビッシリと。
そうしているうちに近所の子らも仲間に加わって、いつの間にか友達がたくさんできてた。
「雄哉、オレら中学入ったら、ラグビー部つくって、本格的にラグビーしようや!」
「そうやな、ちゃんとしたとこでやりたいな!」
皆で笑って誓いあい、そんなオレらを、ねぇちゃんの彼氏は嬉しそうに見つめてた。
逞しくて底抜けに明るかったねぇちゃんの彼氏は社会人になってすぐ、交通事故で亡くなった。
そのときのメンバーで全国制覇した瞬間を、誰よりも誰よりも誰よりも見てほしかった。
京料理

稲嶺智晴
「稲嶺先生、晩飯いっしょにどうですか?おごります」
放課後の職員室で、いきなり高橋先生が誘ってくれた。
気楽な感じやったからラーメンかそこらへんやろう、
しかもおごりか、おいしいな!と(有働に見つからへんように)
ホイホイついて行ったら、タクシーは西陣にある京料理「萬○」前に到着した。
ここ「○重」は昔よく教授と来た、結構名の知れた町家づくりの老舗料亭や。
「え・・・・高橋先生、おごりって、ここ高いんじゃ・・・」
「はは、いやぁ、給料出たんで奮発してみました」
座敷に腰掛けながら高橋先生は照れ笑い。
「実は今日、オレの誕生日なんです」
「え・・・・ええッ!お、おめでとうございます!」
オレは慌てた。
「あの、誕生日知らなくて、その・・・オレ何も・・・・」
「あ、いや、貴重な時間をさいて稲嶺先生が付き合ってくださっただけで・・・」
高橋先生はすこし恥ずかしそうに頭を掻いた。
「はぁ・・・・オレなんかで良ければなんぼでも・・・・」
いま彼女おらへんて高橋先生言うてたもんな。一人の誕生日はサミシイもんな。
「その・・・あらためて、お誕生日おめでとうございます」
「有難うございます、嬉しいです!」
高橋先生は大袈裟に机に手をついて深々と頭を下げ、
「ビールいきますか?それともお酒で?」
ニカっと目の下にしわをつくった人のいい笑みのまま頭を上げた。
「んじゃ、今日は寒いんで、いきなりお酒から・・・・」
「はい、じゃ、酒でいきましょう!」
さしつさされつ、名物の鯛のあら炊きをつつきながら、学校の他愛のない話などで盛り上がる。
恋愛の駆け引きとか全然ない、こういう同僚との付き合いもいいもんやな、と思った。
運動靴

有働雄哉
「サイズ間違って買うた。多分有働がちょうどやろうから、これやる!」
いきなり先生に運動靴を押し付けられた。
「え・・・・もろてもええん?」
どうやったら2センチもサイズを間違うんやろ。
「べっ・・・別にいらんかったら捨てるけど!」
何故か先生は赤くなった。
「いやっ甘いもん以外で先生が何かくれることってほとんどないから嬉しい!
それにちょうど穴あきかけてたから助かるっ!」
運動靴を大事に胸に抱いた。
オレは昔からお小遣いというものをもろたことがない。
「お金あったら悪いことに使うから、あかへん!」
と姉ちゃんらからとめられてきたからや。
だから年中金がなくて先生をええとこに連れても行けへん。
そら最低限の備品代はもろてるけど、先生の誕生日やクリスマスに
プレゼントできるようにいまは貯めてるんや。
靴に穴があこうが、カバンが破けようが、贅沢は言うてられへん!
穴があきかけてた靴をどうやってくっつけようか考えてたとこやから
先生に靴のサイズを間違ごうてもろて正直助かった!
「そ・・・・それから好みが変わって、まったく使てへんカバンがあるけど・・・いるけ?」
「えッ!そんなにいっぱいもろたら悪いし!しばらく置いといたら、また好きになるかもよ?」
「・・・・・・・そ・・・・・・そうかな・・・・・うん・・・・・」
先生はますます赤くなって下を向いた(10月日記参照)。
甘いもの

稲嶺智晴
オレが甘いもんを苦手になったんは、匂いのせいや。
実家の前に緑の多い公園があって、季節ごとにいろんな花が咲いた。
キンモクセイとクチナシ。
犯人はこいつらや。
こいつらの季節になると、家の中に濃厚な甘い香りが充満して頭が痛くなった。
おまけに母親の趣味がお菓子作りで、いつも台所からケーキや和菓子の甘い匂いがただよってきた。
実家から大学はそれほど遠くないのに、一人暮らしをはじめたんは
この甘い甘すぎる匂いの環境から逃げるためでもあった。
「あ・・・・キンモクセイの香り・・・・・うまそうなにおいやな・・・・・・」
有働が秋の空に向かってクンクンと嗅いだんで、その後頭部をどついたった。