呟き日記 8月



タオル





稲嶺智晴


合宿前日、有働が突然

「タオルが欲しい」

と言うた。
そんなんも買えへんのかと500円を渡そうとすると

「ちがうちがう、新しいのが欲しいのとちゃうねん」

有働はすこし赤面して

「…えっと、先生が使ってるタオル一枚もらっていい?」

洗面所を指差した。

「ええけど…合宿所で雑巾がけでもすんの?」

「うん…まぁ、そんなとこ」



翌日、有働はニコニコ笑って菅平に行った。

菅平脱走

有働雄哉

菅平合宿での皆の合言葉は
「明日こそ脱走しよう」

さらに先輩らはラグビー部に代々伝わる脱走ルートを大切に持っているらしい。

そうやって逃げ道を確保しつつ、慰め合い、足を引っ張り合いながら、誰も脱走せず毎年最後までやりきる。
(実際は皆、足がガクガクで脱走する体力がないだけや

※菅平=ラグビーの夏合宿のメッカ




守破離(しゅはり)




稲嶺智晴

「もしかしてオレのラグビーはここまでかな、て思うときがあるねん」
有働がため息をついて呟いた。
生意気にもスランプってやつらしい。
実際、試合には相変わらず有働の活躍で勝ってるし、本人の内面の問題やから
放っておこかとも考えたけど、あんまりウジウジ悩んでるんで、
「あんな、有働。守・破・離って言葉知ってるか?」
ちょっと構ってやることにした。

「しゅ は り?」
「武道とか伝統芸能とか「道」のつくものによく使われる世阿弥の教えやから、
 ラグビーにはどうかと思うけど、何事も極めるには、守・破・離の三段階があってな、
 はじめは指導者に学んだことを、ひたすら忠実に守って、
 
次にその型を破る。
 最後に指導者から離れて独自の「道」を行くってことなんやけど・・・・」
理解してるのかどうかはわからへんけど、有働は神妙にうんうんと頷いてる。
「有働はまだ守の段階やろ。破っても離れてもおらんくせに、
 オレのラグビーはここまでか〜なんて、生意気な言葉吐くんとちゃうで」


有働はなぐさめてもらえるんやと勘違いしてたみたいで、一瞬キョトンとし、
それからすこし顔を赤らめて
「うん・・・・そっか、そやな・・・・」
腕組みして、何度も何度も頷いた。
「しゅ は り・・・・、おぼえとく!先生、有難う!」
よくわからんけど、有働なりに納得はしたみたいやから、
「勉強に関しては守も破も越えて、いきなり離やからな〜、有働は!」
最後はイヤミでしめといた。


合宿

有働雄哉

先生、お元気ですか。

オレは菅平に合宿に来て一週間になります。
朝から晩までトレーニングに練習試合。
ラグビー漬けの毎日です。
打ち身や激しいコンタクトでぶっ倒れるのはしょっちゅうで、ヤカンの魔法の水をかけてはヤケクソで治してます。

それより辛いのが取材というやつで、今日のテレビ局の取材はラグビーに関係ない、答えに困ることばかり聞かれました。
週末の夜のスポーツニュースで放送されますが
「頑張ります」
「気合いです」
をアホみたいに繰り返してるので、もし見たら笑ってください。

先生、早く会いたいです。
次会えるのは、もしかして二学期はじまってからかな。
先生が教室に入ってくるまで、オレきっとドキドキ緊張すると思います。
昼休みに良かったら、体育準備室に来てください。
思いっきり抱きしめたいです!

先生を一人にさせてたら生活がめちゃくちゃになるから心配です。
くれぐれも夏バテには気をつけてください。

大好きです。

長野県菅平にて 有働雄哉


ナス牛とキュウリ馬

稲嶺智晴

キュウリ馬に乗ってお精霊さんが帰ってきはるんやで」
「おしょうらいさんてなに?」
「お母さんが死んだ人の魂ていうてた」
「おばけがくるの?」
「死んだおばあちゃんや。ほんで大文字の送り火のときナス牛でまた行かはるねんて」
「ふぅん・・・・ほんだらこんなん滑って落ちそうやし、ボクのプラモの飛行機乗ったらええのに」
「ハルちゃんは優しいなぁ」



地蔵盆



稲嶺智晴

マンションを出たら、町内の名前が入ったテントを張って地蔵盆をやってた。
子供の頃、お地蔵さんを囲んでお菓子をもらったりゲームをしたり映画をみたりして楽しかったなぁ。
でも大文字の送り火や楽しい地蔵盆が終わったら、
いよいよ新学期がはじまるから、ちょっとさみしくて切ない気持ちになった。
そんなことを思い出しながら、しばらく遊ぶ子供たちをみていたら、おばさんが寄ってきて
「これ、あまったからお兄ちゃんにあげるわ」
と、お菓子の詰め合わせをくれた。
(・・・・・・・きっと多分、まだ学生やと思われてるな・・・・)
オレは甘いのが苦手やから、これは有働にやろうと思う(甘いモンは泣いて喜ぶはず)。



ダンベル



有働雄哉

ダンベルは毎日欠かさへん。
幼い頃からずっとやから癖みたいなもんで、やらんと気持ち悪い。
そのことを先生に言うたら
「オレも鍛える!肉体改造計画やッ!」
と騒ぐので、小学校のときによく使ってたオレにはもう軽すぎるダンベルをあげた。
先生はそれで毎晩鍛えるらしい(どうせ三日坊主やと思う)。



柔道着



稲嶺智晴

幼い頃よく兄貴らとプロレスゴッコをした。
オレは三人兄弟の末っ子やから、いつもボロボロに負けて悔し泣き。
強くなりたいと思って、小学二年から五年まで柔道場に通った。
力は弱いけど、そのぶん技は身について、兄貴らと五分五分に戦えるぐらいになった。
中学受験のために柔道を渋々やめなあかんかったけど、
全日本柔道選手権大会やオリンピックをみると、また帯を締めて畳に立ちたいとウズウズする。



五条坂の陶器市



有働雄哉

用事で京阪五条駅を降りたら、京都の夏の風物詩「五条坂の陶器市」をやってた。
いつも先生には飯をご馳走になってるから・・・・・・・・・・いや・・・・・・・・・・・・・・・・
先生は家事がまったくできひんから、材料を買ってもらってオレが料理本を見ながら作ってるんやけど、
まぁ一応、感謝の意味を込めて、作家モノの渋い茶碗をオレと先生分購入。
(最終日やし値切ったら、なんとオネーサンが半額にしてくれた!)

「し・・・新婚さんみたいやんか!」
て言いながら先生は「困り嬉し顔」で真っ赤になった。
それから当然のように大きくて黒い方でご飯を食べはじめた。
(薄茶色の方、先生をイメージして買ったのに・・・・・・)



蚊遣りぶた



稲嶺智晴

暑いッッッ!!!(イライライライラ)



RUGBY SHOES



有働雄哉

体は小さかったけど、幼いころからスポーツ(水泳以外)は得意やった。
オレが小学校5年生やったかな、大学でラグビーをしてる姉ちゃんの彼氏に
はじめてラグビーを教えてもらった時、衝撃が走った。
球技は一番得意やのに、ラグビーボールはあちこちに跳ねて、
全然自分の思い通りにいかへん(誰かさんと同じや)。
ラグビーに夢中になったオレは中学に入学してラグビー部をつくった。
(はじめうちの中学にはなかったんや)
本格的にラグビーをはじめた途端、自分でも驚くほど体が大きくなって
おまけにオレが主将になった年は大きな大会で立て続けに優勝した。
寝てもさめてもラグビーラグビー・・・・・ラグビー漬けの三年間。
オレなんかがラグビーの名門、伏水高校に特待生で入れると聞いた時は
ビビったけど、ラグビーしてたから先生とも出会えたし、本当に良かったなぁ。