女装4/阿井視点 俺は風呂場に向かって駆けだした。 硝子の引き戸を開き、閉める。しかし逃げられると思った瞬間、彼の腕が隙間に挟まった。 「いって」 更にもう片方の手が添えられ、引き戸があっという間にこじ開けられる。尚も戸にしがみついている俺の躯を、彼が抱き上げる。 「わあ!いやだ!」 駄々を捏ねる子供を運ぶように、彼は俺をベッドに運んだ。下ろされると同時にまた逃げようとする俺にのしかかり、押さえつける。 「ふふふ。観念しろ、阿井」 体育会で鍛え上げられている彼にとっては、赤子の手をひねるようなものだった。胸元で結ばれていたシルクのリボンが抜かれた。後ろ手にねじ上げられた腕がリボンで縛り上げられる。ますますヤバくなってきた状況に、俺はまた悲鳴を上げる。 「ばかっ! なんなんだよ、これは! 解けよ、変態!」 「ふはははは。誰が解くか。さて、ご開帳〜」 俺の膝の上に座った彼が、そろそろとスカートをまくりあげた。俺はもがいたが、後ろ手に縛られ足も封じられてしまった状態では、抵抗のしようがない。俺は上半身を俯せ、揃えた膝を横に倒した格好で喘ぐ。膝の辺りまであったスカートが徐々に上に上がっていく。太股にすうすう風があたる。 「おお」 彼が、溜息とも呻き声ともつかぬ声を上げた。 俺はきつく目を閉じた。ノーパンで来た方が、まだマシだった。なんで俺は言われるままこんなものをはいてきてしまったのだろう。新幹線の中で脱いでしまえば良かった。 奈賀がプレゼントしてくれたパンツは、彼の注文通り真っ赤な紐パンだった。シルクで毒々しいほどにてらてら光っている。しかもものすごく、浅い。お尻の割れ目まで出てしまいそうだ。 「なんつーの? 紺のセーラー服に赤が映えて、素晴らしいな!」 馬鹿馬鹿しい論評に罵り返す気力もない。さすがあの奈賀と親友だっただけの事はある。 スカートは完全にまくりあげられ、腰の辺りまで冷たい空気が撫でている。最悪だ。 次いで彼は俺の肩に手をかけ、仰向けにひっくり返そうとしはじめた。 俺はのたうち、必死に抵抗した。 だって、本気でヤバい。 さっきも言ったように、そのパンツはとても浅く出来ていた。多分女性がはいても臍の下半分くらいは隠れない。で、まずいことに俺には女性にはないモノが前についている。それに表面積を更に食われるせいで、浅いパンツはますます浅く生え際まで見えそうな案配で、しかも変な風に盛り上がってて、なんというか、とても珍妙な光景になってしまっているのだ。 絶対に、見られたくない。 しかしやはり俺の抵抗は彼には通用しなかった。ころりと転がされ、俺はせめてと顔をねじ曲げ枕に顔を埋めた。 しばらく彼は黙っていた。 期待と違う仕上がりに、がっかりしているのだろうか。鼻の奥がツンと痛くなる。 泣きそうなのを懸命にこらえていると、何かが俺に触れた。 温かいものが。俺の、赤いシルクで覆われたアレに。 俺は息を呑んだ。それから枕から顔を上げ、そこを見下ろした。 彼が、俺の足の付け根に屈み込んでいた。身じろぎする俺をちらりと見上げ、これ見よがしに舌を伸ばす。 俺の、アレに。 つやつやと光るシルクの上を舌が這った。 何かが、頭のてっぺんまで走り抜けた。俺は腹筋を使って起きあがろうとした。彼は俺の腰骨のあたりに手を添え、俺のアレに食らいついた。唇が俺を優しく挟み込み、舌が下着越しにやわやわと嬲る。唾液が布を濡らしている。溶けそうな快感に俺は力をなくし、再びベッドに崩れ落ちた。 「あ……あ……!」 「阿井、最高」 掌が、俺の足を撫でている。セクシャルな愛撫に、俺はたまらず首を振る。 気持ちいい。 なんてやらしいコトするんだこの変態って罵りたいのに、俺の唇は動かない。それどころか緩い愛撫にもっと、なんてねだりそうになっている。 彼の手が、俺の足を掴んだ。膝を押し開かれる。恥ずかしい器官を彼の目に晒す姿勢。やだ、という言葉が反射的に漏れたけれど、俺の躯にはすでに力が入っていなかった。 彼は広げさせた俺の腿の内側にもキスをした。俺のすごく敏感な場所。思わずびくんと躯が揺れる。 足の付け根から膝にかけて、丹念な愛撫が加えられる。 「あ……やっ……、そんなトコ、……だめ、だったら……」 こう言う時、自分は淫乱なのかなって思う。ダメだって思っているのに、前がむくむく膨らんでしまう。恥ずかしいって思っているのに、膝を閉じられない。躯のあちこちがじんじん疼いて彼を欲しがる。いやらしいことをして欲しくって、おかしくなりそう。 肌にあたる彼の息が荒い。そんな事すらたまらなくて、俺は身を捩った。 「阿井」 彼が俺の名前を呼んでくれている。足を撫でていた指先が、足の付け根を多う赤い布をずらし滑り込んでくる。疼いている後ろの入り口を擽られ、思わず腰が反った。 「あ……っ!」 「気持ちい? こっちも可愛がってやるな?」 ずぷり、と指が後ろに突き入れられた。久しぶりの刺激にぎゅ、とそれを締め付けてしまう。だめだと思うのに、力を抜くことができない。締め上げられながらも、彼の指が動く。俺の中を拓いていく。 ああ。 俺は腰を揺すった。 腕が使えないから、思うように動けない。焦れったさが蓄積されていく。 「や……やだ……もう……っ許して……」 譫言のように意味のない言葉が口をついて出てくる。彼がセーラーカラーの襟元に、宥めるようなキスをくれる。そこも感じるけれど、唇に、して欲しい。いつもなら両手を伸ばし、彼の頭を引き寄せれば済むことだけど、それができないのがもどかしてたまらない。 充分俺の中が柔らかくなると、彼は俺を引き起こした。軽々と俺の腰を支え、座っている自分の腰を跨がせる。めくりあげられていたプリーツスカートが落ち、俺の下半身を覆い隠した。 「ちょっ…無理。無理だよ、そんなの。せめて、手を解いてくれなきゃ」 すっかり感じいってしまっている俺の腰ははなはだ心許ない。だが彼はこういう時、とても強情だ。 「大丈夫。俺が支えるから!」 「あっ」 先走りでぬめる彼の先端が、尻を突く。中腰で固まってしまった俺のほっぺたにキスをし、彼は改めて俺のスカートをめくった。 たくし上げられたスカートの襞で、直接は見えなかったけれど、腰骨の上にある、赤いシルクの蝶結びがするりと解けたのが分かった。もう片方は結んだままだ。そのせいで紐パンは俺の片方の太股から垂れ下がっている。 中途半端な格好だ。脱いでしまっているより、余程恥ずかしい。でもそれはすぐにプリーツスカートで覆い隠された。 彼が手探りで俺の入り口を確かめ、自分のモノをあてがった。 「ほら、此処にあるの、わかるだろ? あとは腰を落とせば自然に入るから大丈夫! はい、力を抜いてー」 「む、無理っ」 ゆっくり腰を落として行けるような筋肉は、今の俺にはない。どこもかしこもぐずぐずになってしまっている。それに手を使えないからバランスを取りにくい。 なかなか腰を落とそうとしない俺に焦れた彼が、俺の腰を掴んだ。 最悪だった。 なんというか、ダメなポイントが俺の腰にはあるのだ。きゅっと押されるだけで、すこんと力が抜けちゃうような、そんな場所。よりによって彼の指がダイレクトにソコにはまる。思わぬ刺激に、俺は息を呑んだ。 「〜〜〜っ」 彼はちっとも支えてなんてくれなかった。俺は自分の体重で彼を根本まで一気に呑み込んでしまった。 痛くて、苦しかった。 しかも中の弱い場所までごりごりと抉られた。息が止まるような衝撃に、俺は悶絶した。目元に涙がにじむ。 「……うっ」 「あ、悪い悪い」 彼が慌てて俺を抱き、頭にキスをする。 ふざけんなっ。そんな事で誤魔化されるかっ。 口も利けないほど頭に来た。でも、彼は全然気付かない。 「な、ちょっと動いて」 なんて、言ってくる。 「いやだ!」 俺は断固として拒否したけれど、彼の手がスカートの下に侵入してきた。俺のアレをきゅ、と握る。俺の腰がびくんと揺れる。 なんて卑怯な! 俺は彼を罵ろうとした。もうやらないと怒鳴って、抜こうと思った。しかし足にはちっとも力がはいらず、抗議は甘く途切れ途切れだった。 「ばかっ。い、いやだって……い、言っている、のに……ぃ……あうっ」 これじゃ逆に、誘っているみたいじゃないか! 彼の緩い刺激を追うように、腰が動いてしまう。動くと中のイイところが刺激されて、更に腰が揺れる。そうなるともう止まらない。更なる快楽を求め、腰を回すようにして彼を貪ってしまう。 俺のばか! 「よーしよし、上手だぞ、阿井…」 彼がうっとりとした声をあげる。俺を苛めていた手が放れる。そして俺は、困ったことに気が付いた。 制服特有の、しっかりした生地で出来たプリーツスカートは重力に従い、俺の腰を覆うように広がっている。服装だけ見れば、ただ彼の腰の上に座っているだけだと見えなくもない普通の姿だ。 でも今俺は彼を呑み込んでものすごく興奮している。男だから当然興奮するとアレが上を向いてしまう。 俺が腰をくねらせるたび、その、先端がプリーツスカートに擦れた。手が使えればちょっと持ち上げれば済むことなのだけど、未だ縛られたままの俺には、それができない。 目の粗い重たい生地はざりざりと俺の一番敏感な場所を擦り、快感と苦痛を俺に与えた。 「あ、あ……ああ、だ、め……これじゃ、すぐ、イっちゃ……っ」 俺はたまらずに首を振った。 でも腰の動きは止められない。彼のアレと先っちょの摩擦のせいで、もうどうしようもない所まできてしまっているからだ。内部がびくびく痙攣し始めている。擦られる露出した粘膜が痛い。 そこでようやく彼が俺の変調に気付いた。 「どした、阿井。ん?」 「スカートが……っ」 俺は半泣きで訴える。 「スカートが?なに?」 「いた……い。先が……っ、擦れて……っ」 「ええ?」 彼は不思議そうに首を傾げたが、すぐに気が付いて俺のスカートをめくり上げてくれた。スカートの中に籠もっていたむれた空気の代わりに冷たい空気が俺の下半身を包む。 「あー、そうか。可哀想に。此処が擦れちゃったんだな?」 「……うあ、触っちゃ……ダ、メ……っ」 「よしよし。じゃあ、な。もう擦れないように、これ銜えてな」 「ん……っ」 絶頂間近で、俺の頭はもう真っ白だった。彼に促されるままスカートの裾を噛み締める。お陰でアレが擦れる、気が狂いそうな苦痛と快感はなくなった。 だけど。 スカートをめくり上げたせいで、俺の下腹部は露わになった。 充血し先走りで濡れているアレも、太股にまとわりついている紐パンも、快楽を求める淫らな動きも、全部見えてしまう。 しかもスカートが落ちないよう押さえているのは、俺の口だ。まるで俺が露出狂で、好んで彼に見せているようだ。 理性が残っていたら、絶対嫌がる格好だ。 彼にはそれが分かっていた。分かっていて、やらせた。そして俺の意識が飛んでいるのを良い事に、思う存分鑑賞した。 その事に俺が気が付いたのは、翌朝だった。 名案だったろ?と得意げな彼を、俺は着替えの入ったバッグで散々に殴った。 end 2006.4/8 |