その日、アスラン・ザラは不機嫌だった。





























I feel the ever-intensifying affection for you.
Written by 潮崎 とあ 様 [2003.11.13]






























「どうしたんだ…、キラは?」

服に腕を通しながら、彼、アスラン・ザラは眉根を寄せて、呟いた。
何がどうなっているのか、皆目検討がつかない。
予想もつかなかった事態に、頭は酷く混乱している。

予想外の出来事…朝起きたら、隣にいるはずの『彼』がいなかったということ。

聞く人にとってはただ、それだけのことかもしれない。
けれど、彼にとってはとても重要なことで。
いつもだったら、そう、いつもだったら、『彼』は起こされるまでは自分の腕の中で眠っているはずなのだ。

それが、今日という日に限って…いなかった。

偶然…なのかもしれない。
ただ、偶然とも思えなかった。

今日という日、だから、そう思うのかもしれない。
何かが起こる、うれしいような…どこか、こわいような予感が彼を襲った。

「まさか…な」

取り越し苦労だと、自分で自分に言い聞かせるようにひとりごちると、彼は漸く部屋から抜け出した。














今日、それは…アスラン・ザラが17歳となる誕生日。















誕生日、それは特別な日だ。
…と、彼は考える。
確かに前日になるまで気付かなかった。
けれど気付いてしまったら、祝ってもらいたいと思うのが心情だろう。
それがいわゆる恋人、という関係にある人がいるなら、尚のことだと思う。
一番最初に逢いたい、触れたい、声を聞きたい。
なのに、聞けない、触れられない、逢えない…という状況はかなりきつい。
いつもなら、一番に逢えて、触れて、声が聞ける状況にあるというのに。
こういうとき、「もしかしたら、好きだと思われていない」というところに行きつく思考。
そんな自分に苦笑いを浮かべると、アスランは『彼』がいると思われるブリッジの扉をくぐった。

「めずらしいな。お前が此処にいるなんて」

扉の先にいたのは、『彼』ではなく、彼に良く似た金髪の少女の姿だった。
エターナルブリッジというあまりに見かけない場所にいる彼女に、率直に感想をもらした。

「めずらしくて悪いな!ラクスに用事があったんだよ、用事が!」

カガリは率直な物言いにムッと顔を顰めると、ケンカ腰に言うと。

「悪いか!」

最後に一言、大声で言い放った。

「別に誰も悪いなんて言ってないだろう?ただ珍しいといっただけだ」

彼は彼で、自分が逢いたい人に逢えなかったことにがっくりとして、幾分冷めたように告げた。

「そうか。はい、そうですか。ったく、何か機嫌悪いぞ、お前」

彼の思いには気付かなかったようで、彼女はジト目で彼を見つめた。

「機嫌が悪いだなんて心外だな。俺はいたって普通だ。機嫌が悪いだなんて思うのはお前がそう考えるからだよ」

「…そういう態度が、機嫌が悪いって言うんだと思うんだが…」

切って捨てるように、しれっとした態度で返したアスランに、彼女は顔を顰めて、そっぽを向くと、ポツリと洩らした。

「何か言ったか?」

耳敏く、言葉の欠片を拾った彼は、彼女に一瞥もくれずに冷めた瞳で尋ねた。
それに彼女は苦虫を噛み潰したような声音で、返す。

「何も言ってないよ」

ちくちくと続きそうな不毛なやりとりに、漸く沈黙が降りた。
けれど、その沈黙を破るように、のほほんとした穏やかな声が割って入ってきた。

「あらあら、2人がそろっていらっしゃるなんて珍しいですわね」

声に、2人が振り返ると、ふわりとした微笑を湛えた少女が入ってきたところだった。

「「ラクス」」

呼ばれて、にこりと笑って、彼女は珍しく1人でブリッジにいるアスランへと問いかけた。

「カガリさんはともかく、アスランは何かご用でしょうか?」

彼は少し困ったような表情を浮かべて、婉曲に答えを返す。

「用というわけではないのですが…その、キラはこちらに来てはいないかと思いまして」

ラクスは、アスランの言葉に少し眉根を寄せて、言った。

「キラ様…ですか?実は…ミーティアとフリーダムのシステムの間にちょっとした…
 私にはあまりよくわからないのですが、障害がでてしまったようですの」

「障害、ですか?」

「えぇ。それで、障害をクリアできるようにプログラムの設計をしていただくようにお願いしたのです」

彼女はどこか申し訳なさそうに告げると、「困りましたわね?」と困ったように微笑んだ。

「?…そうですか。では、キラはドッグの方、ですね。ありがとうございます」

用は済んだとばかりに、礼をして、すぐさま踵を返した彼に、

「あ…アスラン。キラのことなんだけど…」

カガリは思い出したように声をかけた。

「キラがどうした?」

『キラ』という単語に、ぴくりと耳をそばだてて、足を止めて、彼は問いかけた。

「実はこっちの方でもアストレイのOSと新しいプログラムの調整が入って…
 キラにパイロットへの講習会っていうのを頼んでるんだ」

「講習会?」

どことなく低くなったような声音を、カガリはさして気にした風もなく、続けた。

「そう、講習会。新しいプログラム組んだのがキラで、まぁ、作った人間に教授してもらうのが一番だろう?
 だから、頼んだんだ」

「…頼むな」

うめくに低い声で告げてから、アスランは剣呑な瞳を湛えて、彼女を睨みつけた。

「仕方ないだろう。こっちにはそういうことが出来る人間少ないんだから。
 まぁ、だからそういうことだから、そっちのドックにいなかったら、クサナギにいるかもしれないぞ」

彼の視線を、カガリも睨みつけることで返して、開き直ったように強気に言った。

「…頭に入れておく」

アスランは彼女の様子に、すこしむっとしながらも、一応のヒントを得たことに了解の意を示して。

「では」

今度こそブリッジの扉から出て行った。
















猪突猛進という言葉がピッタリ当てはまる後姿を見送って、ブリッジには。

「あいつ、本当にバカだな」

長く溜息をつく少女と。

「バカはバカでもキラバカ、ですわねv」

どこかうれしそうに声を弾ませる少女の2人が残った。

「…あんな奴のために、今日という日を忙殺するキラの気がしれない…」

弾む声をスルーして、彼女は自分の弟と推測される少年を思って、がっくりと肩を落とした。

「それは、カガリさん。偏に愛のため、ですわvv」

カガリは当然とばかりに0.3秒で返ってきたラクスの言葉に、ちらりと彼女を見ては息を吐き出すと、

「そんな愛…私は、姉として、認めないぞ!」

ぐっと拳を握り締めて、声高に宣言した。
そんなカガリの、どう見てもアスランと為を張るキラバカぶりに、ラクスは一層楽しげに微笑んだ。

「あらあら、困りましたわね。キラ様もアスランも」



















「キラさん、ですか。あぁ、プログラムの方は早々に完成して、
 それからジャスティスとフリーダムのOSの調整をさっきまでされていたんですが」

ドックに入って早々に、オペレーターを捕まえて事情説明を求めると、彼は答えにくそうに言葉を返した。

「そんな状況説明はかまわない。キラは…いるのか?」

あやふやに誤魔化そうとするようにすごんで、突っ込みをいれる。
すると、彼は顔を青くして、一気にまくし立てた。

「あ、その…ですね。今は、いらっしゃいません。
 30分ほど前に、別の仕事が入っているようで、出て行かれました!」

「…そうか。ありがとう」

満足のいく答えに嬉々としてドックを出ようとすると…

「あの!」

オペレーターに大声で呼び止められた。

「何か?」

怜悧に目を細めて、クールビューティーよろしく尋ねる。
と、彼はやや戸惑いがちに口を開いた。

「実はキラさんから伝言を承っておりまして、
『OS調整の具合の確認』と『機体のチェック』を『今日中』に行っていただきたいとのことです」

「今日中?」

「はい。今日中と伺っております。ので、今取り急ぎの用がなければ、早急に行っていただきたいのですが」

「わかった…。今から作業に入る」

おっかなびっくりで様子を伺ってくるオペレーターに、『キラの頼みなら仕方がない』と深々と溜息をこぼすと、頷いて、アスランはジャスティスへと向かった。

















「よかった。出来なかったらどうしようかと、思った…。というか、絶対に寿命が縮まった…」

ジャスティスとの接続がオンライン表示になった画面を眺めて、オペレーターは深く安堵の息をついた。



















漸くエターナルでの作業を終わらせ、アスランはクサナギへとやってくると、早々にミーティングルームへ向かった。
入ると、アサギが驚いたように目を丸くして声をかけてきた。

「…あ、アスランさん!どうなさったんですか?こんなところに」

「キラがこちらで講習をすると聞いていたから、逢いに来たんだが…」

素直に答えると、アサギは顔に手を当てて、はぁと大きく溜息をついた。

「あちゃ〜」

彼女の様子と部屋にいるのはアストレイパイロットであることに気付いてはいたが、確認のためにアスランは聞いた。

「いないのか?」

「いないというより、移動されました」

彼の問いに、今度はジュリが答えを返す。

「移動?」

どこに…と含意を込めて、問いを重ねると、彼女は頷いてから答える。

「はい。新しいプログラムのお陰で、アストレイの機動性と射撃能力がアップしたので、
 そこをどう戦略に行かせるかについてのヒアリングを」

「そうか。では、ブリッジに行けば大丈夫か?」

腕を組んで、一旦考えるポーズをとって、彼は確認する。

「だと、思います」

「ありがとう。じゃあ、俺はここで…」

ジュリの答えに、アスランはくるりと身体を翻したが、そのとき。

「あ、けど…その前に、アスランさん!」

アサギに呼び止められた。

「どうしたんだ?」

首を傾げて、用件を聞く。
すると、アサギは申し訳なさそうに眉を垂れて、切り出した。

「このプログラムの入射角の関数なんですけど、これで合ってますか?」

ここで見捨てるわけにはいかないと、思って、アスランは少し肩を落とすと、彼女の元へと身体を戻した。

「…見るから、まずそのプログラムを見せてくれ…」


















「ちょっと、これはこれで面白いよね〜」

アサギへの教授とプログラムに格闘するアスランを眺めて、マユラはのほほんと言葉を洩らした。

「面白いって…」

マユラの言葉に困ったように突っ込みを入れるジュリは、どこか曖昧な表情を浮かべた。
彼女の様子がいつものことなのか、マユラは「ん〜」と少し考えるように唇に指を当てると。

「何だか追いつ追われつって感じじゃない?」

唐突に、言葉を発した。

「追いつ遮りつつって感じでしょ?」

それにジュリも返して。

「そっか〜」

マユラは納得したように、声を出した。



















アストレイパイロット3人娘への教授が終わって、やっとクサナギブリッジへと足を踏み入れて。

「もしかして、また…いないとか言うんじゃないでしょうね?」

アスランは開口一番、辟易したように言葉を放った。
彼の言葉に、ブリッジにいたレドニル・キサカとエリカ・シモンズはきょとんとする。
2人の雰囲気に気付くことなく、いるはずのキラがいないことに深々と溜息をつく。
すると、キサカが彼に聞いた。

「どうかしたのか、アスラン・ザラ?」

「どうもしないですが…」

調子を尋ねられたのだと思ったアスランは、少し疲れた様子で答えると、違ったのか更に問いが続いた。

「だったら、どうしてここに来る?」

今度の問いに、合点がいって、アスランは理由を答えた。

「キラがここにいると聞きまして」

「あぁ…」

納得したようで、キサカが少し苦笑いを浮かべた。
漸く出来た間に、アスランはすかさず尋ねた。

「で、何処に行ったんです?」

「アークエンジェルよ」

今度はエリカが質問に答える。

「アークエンジェル、ですか?」

どこか予想していた場所、行く前に起こる…災難。

「えぇ、そう。で、行く前に…」

「何でしょう?」

「早いわね」

エリカはアスランの言葉の早さに舌を巻いた。

「もう、何となく予想はしてました」

彼は澄ました、どこか諦めた様子で答えると、キサカが待ってましたとばかりに声を発した。

「では、用件を言おう」

次いで、エリカはゆったりと微笑んで、用件を切り出した。

「プラントの持つ装備に対して、うちの持つ装備でどう対応できるか…なんだけど」
















プラントの技術力についてエリカと議論を交わすアスランを見て、キサカは小さく肩をすくめた。

「本当に…だな」



















「おっす、アスラン。キラか?」

アークエンジェルに入って早々、よく知ったといっても話すようになったのは最近の相手の声にアスランは返した。

「飲み込みが早い奴がいると助かるな」

ならわかるだろうと、言外に告げると、ディアッカは肩をすくめて、不敵な笑みを浮かべた。

「で、今はどこかって…それは、教えられないな」

「ディアッカ」

そんな相手をにらみつけると、彼は一層肩をすくめて、笑みを濃くした。

「お〜、怖い怖い」

アスランはディアッカの様子により冷徹さを増して、彼に迫った。

「茶化すな。…死にたいか?」

「死にたくはないな」

「だったら、教えろ」

さらりと流そうとすれば、即座に返ってくる不穏な空気に、ディアッカは固く苦笑いを浮かべた。

「…もしかして、お前、キラ不足でヤバイ?」

おずおずと尋ねると、その通りだったのか、アスランは用件の回答のみを尋ねた。

「ヤバイヤバクナイは関係ないだろう。とにかく、キラは何処だ?」

絶対に聞き出そうと、彼がディアッカに詰め寄ろうと足を1つ前に出したとき、背後から能天気な声が届いた。

「キラは俺の部屋で俺のベッドの中〜」

明らかにアスランを刺激した言葉に、彼は即座に振り返ると声の主の胸倉を掴んだ。

「って、ほ…本気にするなって!大人のお茶目な冗談だよ、じょ・う・だ・ん!」

アスランの行動と、射るような底冷えする冷たさを感じる視線に、声の主…フラガは降参するように両手を挙げて、焦ったように言葉を紡いだ。

「言っていい冗談と言ってはいけない冗談というのをわきまえられないのですか、フラガさん?」

にっこりと、でも、とても恐ろしいものを含んだ笑みを浮かべ、窘めるように言った後、アスランは掴んでいた手を解いた。

「おっさん、今のは俺でも言えないぜ?」

2人のやりとりを傍観していたディアッカも、ここでやっと言葉を放った。

「そっか〜?」

フラガは彼ににかっと歯を見せて、頭に手をやった。

「殺されないだけマシだと思ったらどうです?」

悪びれたよう様子の欠片もない様子に、アスランはにこりと笑顔を見せた。
背中から湧き上がってくる威圧的な空気を感じて、フラガは逆に尋ね返した。

「というか、殺されたくなければ、キラの居場所を教えろって?」

「えぇ」

教えないなんて許さない…という雰囲気を醸し出して、アスランは今度はフラガへとにじり寄る。

「どうしよっかな〜」

わかっていて、火に油を注ぐように、彼はもったいぶりな態度を取る。
すると、やはりアスランはますます眉根を寄せて、フラガをにらみつけた。
一方はからかい、一方は不機嫌と…段々と悪くなっていく空気に、ディアッカは口を挟んだ。

「おっさん。俺、教えないとアスランに半殺しに3000点な」

一抹の不安に、表情を曇らせている彼に、フラガは伺うように聞く。

「まぢ?」

「まぢ」

固い表情を浮かべるフラガに、ディアッカは即座に頷いてみせた。
ようやくことを悟ったらしい彼らに、アスランは悠然と笑みを浮かべると、口を開いた。

「…漫才はいいから、さっさと教えていただけませんか?」

「う…、あぁ、教えるよ。教えますとも!」

半ばやけくそ状態で、フラガは声を上げる。

「キラは〜、キラはな…」







「帰った!」







最後に出てきた言葉に、アスランはきょとんと目を丸くして、聞いた。

「帰った…ということは、エターナルですか?」

「あぁ。さっきまでこっちでいろいろやってたけど、終わって帰った」

どこかつまらなそうに、ぞんざいに、フラガは言葉を投げた。

「そうか」

アスランは腕を組んで、納得したように声を出した。

「そうだよ。早く帰ってやったらどうよ、誕生日の王子様?」

少し揶揄するように、言葉をかける。
言葉に反応して、アスランはじっと、彼に視線を向けた。

「ディアッカ…」

とてもまっすぐに見つめられ、彼はすこし恐ろしさを感じ、一歩下がって、聞いた。

「何だよ」

「これが全て、今やっとキラと再会できた俺に対してのイザークに逢えないお前からの嫌がらせだったら…わかってるな?」

アスランの言葉と、伝わってくる冷たさに、もう一歩下がると、ディアッカはげんなりしたように言葉を放った。

「わかりたくないね!てか、そんなこと、誰がするか!さっさと帰れよ!」

「…言われなくても、帰る。2人とも…まぁ、ありがとう」

ディアッカの言葉に頷くと、アスランはとりあえずの感謝の言葉とそれ以上の冷たさを残して、姿を消した。






















アスランから開放されて、2人は深すぎるほどに息を吐き、顔を見合わせた。

「まぁ、は余計、だよな〜」

「余計というか、アレは八つ当たりってんだろ?」

そうして、2人は疲れきった表情を浮かべた。



























何だかんだと時間を忙殺されて、漸く戻ってきたエターナル。
早速自分とキラに割り当てられた部屋に戻ろうと歩を進めていると、穏やかなよく知る声に呼び止められた。

「アスラン」

「ラクス…何か?」

呼び止められて、足を止めている時間すらも厭わしくて、眉根を寄せて、アスランは振り向いた。
相手は、彼の様子を意に介した風でもなく、それこそいつもと変わらぬ様子で続けた。

「ちょっと、よろしいですか?」

「いいですが…」

出来ればよろしくない…と言いたいというのが出ていたのだろう、ラクスは小さく苦笑いを見せて、念を押した。

「本当にちょっとですのよ」

にっこりとした笑みと一緒に、

「はい、どうぞv」

言われ、差し出されたのは、何かのカードだった。

「これは…何ですか?」

訝しげに問うと、彼女は微笑んで説明を始めた。

「いつもお2人が使われているお部屋、仮眠室のようなものでしょう?」

「そう…ですね」

「ですから、今日…から明後日にかけて、多分それでは不都合だと思いまして、ご用意させていただきましたの」

「あの、どういう…」

全く要領が得ず、耐え切れずに口を挟むと、ラクスはカードの正体を示した。

「エターナルの中に、キッチン・バスルーム・ダブルベッドに防音・ロック機能完備の部屋がありまして、
 こちらはそのキーです」

「ラクス、話がわからないのですが?」

それでも話が繋がらず、もう一度尋ねると、彼女はキーを渡す経緯を話し出す。

「あら、それもそうですわね。実はこれ、私達全員からのプレゼントですわv」

「プレゼント?」

「はい。今日はアスランのお誕生日でしょう?ですから、何か出来ることはないかと考えまして、結果、これにしましたの」

やはり繋がらず、首をかしげているアスランに、ラクスは最大のヒントを伝えた。

「こちらの部屋に、もっと素敵なプレゼントもご用意しておりますので、お早く行って差し上げてくださいねvv」

彼女の一言で、やっと全てを理解したアスランは、カードキーを受け取ると、嬉々として教えられた部屋へと進んだ。

「はい!ありがとうございます…!」



















通路に消えていくアスランを見送って、ラクスは今日一日を思い返して、感慨深げに一言言った。

「カガリさんには反対されるでしょうけれど、やっぱりらぶらぶが一番、ですわよね」





















はやる心を抑え、漸くたどり着いた部屋の前で、アスランは息を整えると、カードキーを通した。
鍵を開けて、部屋に入る。

すると…

「Happy Birthday!アスラン」

声と共にぎゅっと身体に抱きついてくる人が1人。
それがキラだとは明確で、今日初めて聴く声と触れる温もりに安堵して。

「キラ…」

かみしめるように名前を呼んで、キラの身体に腕を回した。

「いろいろ、動き回ってて、ごめんね?」

アスランに抱きつきながら、上目遣いで見上げてくるキラは言葉を続けた。

「けど、これにはちゃんと、訳があるんだ。聞いて?」

「あぁ、聞かせてくれないか」

キラの言葉に、彼は優しく微笑んで、言葉を待った。
相手は一旦息を吐き出して、話し始める。

「今、から明後日の朝まで…つまり、明日、1日オフを貰えるようにって、思ったんだ」

「それって、もしかして…」

浮かぶ期待に言葉を洩らすと、キラは頷いて、続けた。

「うん。アスランに何をプレゼントしようかなって、考えて、ラクスに相談したんだ。
 それで、ラクスが「僕だったらどうしたい?」って聞いてきて」

少し恥ずかしそうに、視線を外して、彼はゆっくりと言う。

「僕だったら、アスランと一緒に1日2人でいたいなって、思ったんだ。
 そしたら、ラクスがいろんな人に掛け合ってくれて、これだけの仕事できたらって」

「だからあんなに動き回ってたんだ」

確認するようなアスランの声音に、キラはすまなそうに彼を見上げた。

「うん。もしかして…探してくれた?」

「あぁ、キラが行ったところ全部、回った」

「そう、だったの?ごめん、ね」

アスランの答えに、一層しゅんとして、キラは彼を見つめる。
彼はすこし困ったように微笑むと、告げる。

「どうして謝るの?キラは俺のためを思って、そうしてくれたんだろう。うれしいよ。だけど…」

「だけど?」

空いた間に、キラは怪訝そうにアスランを覗き込む。
彼はそれに優しく微笑んで、こつんと額をくっつけた。

「あれだけ動き回ったんだ。キラの身体が心配だよ。疲れてない?」

穏やかに心配を伝えてくる声に、キラはふるふると頭を横に振って、言葉を返す。

「疲れてなんて、ないよ!アスランのためだって思ったら、頑張ろうって思ったし…」

最後は照れて、声にならない言葉にアスランは小さく微笑んで。

「そっか。それだったら、いいんだ」

1つ、言葉を区切って、一等優しく告げた。

「うれしい言葉、ありがとう」

キラはアスランの言葉に弾かれたように、声を上げて、頭を振った。

「うぅん!そんなこと…。朝だって、アスランが寝てる間にいなくなって、ちゃんと一番におめでとうって言えなくて…」

「初めてだよ」

「え?」

きょとんとして、キラはアスランをぼんやりと見つめた。
彼は小さく苦笑いを浮かべて、そっと告げる。

「誕生日おめでとうって、今日最初に言ってくれたのは、キラ、だよ?」

「本当?」

「本当。プレゼントでこの部屋のキーは受け取ったけど、言葉は貰ってない。だから、キラが今日最初で最後、だね」

「そう、なんだ。それはそれで、うれしいけど、ちょっと残念」

言葉の通り、安堵したように、でもどこか複雑そうな表情を浮かべるキラに、アスランは尋ねる。

「?どうして?」

聞かれて、キラはくすりと小さく笑って、答えた。

「皆にもおめでとうって言って、欲しかったな、なんて。ちょっと現金だけど」

つられて、アスランもくすりと笑って、返した。

「…そうかも、ね。けど、俺はキラが祝ってくれるだけで、すごくうれしい」

いい終わって、そっと腕に力を込めて、アスランはキラを抱きしめた。

「うぅん。僕も、アスランの誕生日に一緒にいれることがすごくうれしい」

キラも、彼の言葉と腕の拘束にゆっくりと身をゆだねて、言葉を返す。

「アスラン」

腕の中、少し身じろぎして、キラは決心したように、アスランを真っ直ぐに見つめた。

「アスラン。…あのね…」

「ん?」

不意に変わった彼の様子に、アスランは怪訝そうにキラを見た。
キラはどことなく視線をさまよわせながら、言葉も途切れ途切れに伝えようとする。

「プレゼント…なんだけど、その…嫌だったら、いいんだけど…」

「キラからのプレゼントで嫌なんてもの、ないよ?」

アスランは彼の言葉をやんわりと否定するが、当の本人は小さく頭を振って、返す。

「言ったら、嫌って思うかもしれないから、嫌だったら、そう言って」

不安そうにふるふると瞳を振るわせる相手に、アスランは一応の了解を伝えて、先を求める。

「…わかった。ないだろうけど、そう思ったら、ちゃんと言うから、教えて?」

彼の言葉に、キラは安堵したように1つ息を吐き出すと、言葉を押し出していく。

「あのね。僕からのプレゼント…はね、その、あの…」

段々と紅く染まっていく頬に、アスランはどこか湧き上がる期待に、胸を膨らませた。
キラの唇が音を形作っていく。
アスランはゆっくりとそれを見つめた。






「僕…なんだ。その、僕を、ちゃんと『アスランのもの』にして、下さい…」





「え…、キラ?」

期待が現実に変わった瞬間、呆然として、アスランの時間が止まる。

「嫌、だよね!すっごく、僕の我が侭だよね。あ…と、その別の!別のにするよ!」

『拒絶』だと誤解して、キラは慌てたように言葉を濁す。
それにアスランの時間が動き出して、彼は腕の拘束をこれでもかというくらい強く、抱きしめた。

「バカ」

くすりと笑う。

「ぇ?」

抱きしめてくる腕の強さと、降ってくる言葉にキラは目を丸くして、アスランを見上げた。
アスランは、見上げてくるキラに穏やかに、これ以上ないくらいに甘く告げる。

「これ以上ないくらいうれしいプレゼントだよ、キラ。…本当に、いいの?俺のにして」

耳元で注がれる声に、キラは頬を、耳を…紅く染め上げて、それでも擦り寄るように抱きついて、聞き取れないくらい小さな声で返した。

「…いい。ちゃんと、ぎゅって…して、『アスランの』に…してよ…」

胸に顔をうずめてくるキラに、アスランは蕩けるような表情を浮かべて、確認のように問うた。

「明日、多分此処からずっと出れないと思うけど、いい?」

キラはこくりと頷くと、想いを言葉に変える。

「いいと思わなかったら、此処にいないよ。うぅん。明日、アスランとずっと此処にいる。それが僕の、プレゼント」

そろそろと顔を上げ、少し恥ずかしさに潤んだ瞳で尋ねられる。

「受け取って、くれる?」

「受け取るに決まってるよ」

アスランは、ゆったりと甘く微笑んで、キラの額にそっと口付けを落とした。

「ありがと、アスラン」

「こちらこそ、キラ」

互いに小さく微笑んで、今度はどちらともなく互いの瞳を絡ませて、ゆっくりと顔を寄せた。
2人の唇が重なる少し前、キラはそっと、アスランに言葉を送った。




















「誕生日、改めて、おめでとう。アスラン」

















































Happy birthday,Athrun Zala!!





●お礼の一言●

潮崎 とあ様のサイトFatal fateから頂いてきたアスランバースデイ創作です。
お持ち帰り自由となってる所を図々しくも頂いて参りました。

読んだ時からアスランが!キラが!!
凄くツボでお持ち帰りOKの文字に小躍りしてお持ち帰りして、
あつかましくも転載許可まで頂いてしまいました!(><)

ほんと、こう、何て言うんでしょうか。
アスランがキラ不足で切れかけてる所とか、
アスランの為に頑張っちゃってるキラとか凄く愛しいです!
それに最後のキラのセリフがーーーーー!! (><)
読んだコチラが照れてしまいますーーー!!!
激しくラクスの言葉には同意ですね。はい。
やっぱりラブラブは良いですvv

潮崎 とあ様、素敵な創作をお持ち帰りさせて頂き、転載まで許可頂き本当にありがとうございました!
これからも素敵な創作楽しみにしています!!!(><)
本当にありがとうございました。





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