秋茜
written by 悠衣様 
 
  しゃくっ!しゃくっ!しゃくっ!…ぱす。
「あ。ハズレだ」
「ハズレ?」
「そっ! ハズレ」

笑う太一の足元には、濃いきつね色に染まった落ち葉。
太一は、その道に沿って植えられた、広げた手のひらのような大きな葉の木がなんていう名前なのかなんて、知らなかった。
ただ、毎年秋には、軽快な音を立てるその落ち葉を踏みしめて歩くのが、幼い頃から好きだった。
わざと落ち葉のある場所を選んで歩く太一に、ヤマトが不思議そうに声をかける。

「…楽しいか?」
「ああ。何か、気持ちいーじゃん」

ヤマトもやってみるか?
と言おうとした瞬間に、踏み出そうとしたその一歩先をヤマトの足が踏みしめる。

しゃくっ!
「あーー! そこ、オレが踏もうと思ってたのに…」

悔しそうにする太一を見て笑いをこらえながら、ヤマトは「…確かに楽しいな」と言った。
嬉しそうに落ち葉を踏む太一のちょっと後ろに、ヤマトが続く。
不意に風が吹き、二人の髪を揺らして去っていった。
それにあわせるようにぴたり、と足を止めてしまった太一に、声をかけようとすると、くるっと振り向いて少し微笑む。

「・・太一?」
「今日さ、国語の授業で習ったんだ。“秋風が立つ”ってコトバ。意味知ってるか?」
「いや」
「…恋人が心変わりする事を“飽きる”に引っ掛けてそう言ったんだって、昔は。風流だよなぁ、昔の人って」
「……」

戸惑ったように眉を寄せるヤマトをよそに、太一は再び前を向いてゆっくりと歩き出した。

「…なんてな。オレ、らしくもなく感傷的?やっぱ秋だからかな」

ヤマトは少し早足になって、くすくす笑う太一の隣に並んだ。

「ヤマト」
「何だ?」
「…何でもない」

さっきよりも強い風が、落ち葉を舞い散らせてゆく。

「太一」
「何だよ?」
「…何でもない」
同じような会話が、繰り返された。
しばらく無言で歩いた後、ふと思いついたように太一は囁いた。

「…ヤマト、キスしよっか」

不意をつかれて軽く目を見開いたヤマトは、それでもすぐにからかうように言葉を返した。

「何だよ、突然。それも秋だからか?」
「さあな」

外気によってほんのり冷えた唇が重ねられ、すぐに離れる。
二度目に触れ合った時、離れる前にヤマトは両腕を太一の背中に回して、隙間もないほど強く抱きしめた。

「…痛ぇよ、ヤマト…」

吐息と一緒に吐き出された言葉は、弱々しくて、でも確かな熱を持っていて。

「…それなら」

何がそれならなんだろう、と自分でも思いながらヤマトは太一の瞳を覗き込んだ。

「…二人一緒に、冬眠しようか。春が、来るまで」

秋風が立つ前に。

「ああ…いいぜ」

秋がきて、冬がきて、そしたら必ず春がくるから。
一瞬の間のあと、心底嬉しそうに太一は笑った。


□■□


再び仲良く並んで歩く道で、ふと後ろを見た太一がなにかに気付いたように空を見て、

「ヤマト!後ろ見ろよ、すっげー綺麗な黄昏色!!」

その言葉に振り向けば、かすかに覗く青空と、溶かしたバターみたいに所々白くかすんだ金色と、鮮やかな茜色のグラデーション。

「ヤマトみてぇ…」

あの、青と金が。
まぶしそうに目を細めてつぶやいて、それから太一はいたずらっぽい笑みを浮かべてヤマトを呼んだ。

「ヤマト」
「何だ?」
「冬眠するならさ…」
「?」
「やっぱあれだろ!」
「あれ?」
「食いだめだよ、く・い・だ・め!」
「はぁ?」
「ちゃんと栄養を蓄えてからじゃねぇと、冬眠中に“餓死”だぜ?」
「…って、まさか…」
「今は食欲の秋だしな! 今日のヤマトん家の夕飯、栗ご飯な! オレ、食いにいくから」
「何勝手に決めてるんだよ!」
「いいじゃねーかよ! ヤマトの愛情手作り栗ご飯食いたいな〜〜」

甘えるように覗き込むのは、確信犯。勝てるはずもない戦いに挑む気などないヤマトは苦笑をこぼした。

「…わかったよ」
「やった! ヤマト、愛してるぜvv」
「ばーか」

いかにもしょうがない、という口調。
それだけでは、赤く染まった顔をごまかすことはできなかったけれど。

「太一」
「何だよ?」
「蓄えるのは、栄養だけでいいのか?」
「??」

ヤマトのささやかなお返し。

「例えば……とかは?」

これからの冬を乗り切るためには、必要だろ? 何処か不敵に笑うヤマトに、やられた…とはにかんだようにつぶやいた太一。

「…じゃあ、それももらっとく」
「太一も俺にくれよ」
「わかったよ!ヤマトが“餓死”すると困るからな!」
「じゃ、帰るか」
「だな」

秋風が、街の通りを抜けてゆく。
だけど。
二人の間には、もう隙間なんてこれっぽっちもなかったから…
優しく髪を揺らしただけ、ただ、それだけだった。




●END●





●カイの一言●

悠衣様の携帯HP『空の飛び方』の2度目キリ番を踏んでゲットさせて頂きました!
ヤマ太秋の1コマです!(>▽<)
なんだかほんのりもの哀しくって、でもはんわかラブで!
私の中の秋のイメージにぴったりでした!!
秋ってなんだか寂しい感じしますよね。

悠衣様素敵なお話、本当に有り難うございました。




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