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お礼SS その7
「おじさま、お花をどうぞ」
「おじさま、お茶はいかが?」
「シルーナ、はしたないぞ」
「よいでないか。愛らしいものだ。ありがたく貰うぞ、シルヴィーナ殿」
「お父さまは、おじさまがおきらいなの?」
「そうではないが……こら」
LOLシリーズ 番外 セファン 25歳
ひらりと衣服の裾を翻しセファンの膝に上がる娘に、咎める声を上げる。
差し出した花を髪に飾って貰いながら、娘、シルヴィーナは父親に向け、事もあろうに顔を顰めてみせる。
表情も雰囲気の全ても、弾けんばかりの生気と瑞々しさに溢れている。
顔立ちは益々美しく、並の美少女とは完全に趣を異にしていた。
育つにつれ見覚えのある顔立ちになっていく娘に、父ギルティエスは戦々恐々としていた。
出来るならセファンになど一切会わせたくもない。
しかし公に国を訪れられてはそうも行かなかった。
病だと言えば見舞いだと押し入られるし、他国に旅行だと言えば厳しく何処だと問いつめられる。
結局、シルヴィーナと会う時には必ずギルティエスが同伴する事を条件に、会わせるしかなかった。
ギルティエス以外は誰も、セファンの狙いがシルヴィーナに定まっているとは知らない。
ただ、親友とその娘を慈しんでいるだけだと思っていた。
見目もよく、大きく、優しく、何時でもたくさんの土産を携えて来てくれるセファンに、シルヴィーナは直ぐ様懐いた。
幼いながら、強く望まれている事を理解しているのだろう。来訪の度に、花も霞む程の笑みを十八も年上の男に向ける。
どれだけ年若くとも、女は女だった。
送られた布で作った豪奢な衣服を纏い、宝飾品を身につけてセファンを迎える。
セファンとしても、懐いてくれるに越した事はない。兄に似た面差しが華やかな微笑みを送ってくれるだけで眼福である。
ギルティエス一人が、苦々しい顔でそれを見守っているしかなかった。
シルヴィーナは幼い頃からの躾や教育の所為か、少しばかり大人びた少女だった。
同年代の子供達より発育も良い様で、セファンにとっては最早十分に思えた。事実婚はともかく、婚約や形だけの婚姻であれば許される筈だと思う。
漆黒の艶やかな髪に淡雪の様な肌。きらきらと生の喜びに満ちて輝く黒い瞳。兄ルシェラとは正反対でありながら、顔立ちの類似がそれを打ち消していく。
王女としての自信に満ち溢れている。愛されるべき自分への無意識の自負がそうさせているのだろう。
男に愛されていた兄も、同じ程の自信と自尊心を放っていた。
「シルヴィーナ殿、私に菓子を食べさせて貰えるかな?」
「まあ、おじさまったら、赤ちゃんみたい」
にっこり笑って側の皿から茶請けの焼き菓子を一つ取り、セファンの口元まで運ぶ。
セファンはそれを一口に頬張り、微かに甘みの残るシルヴィーナの指先をちろりと舐めた。
「離れろ!!」
我慢ならず、ギルティエスは娘を無理矢理後ろから抱き去った。
シルヴィーナは直ぐに暴れ、弾みで床に落ちる。
「きゃぁっ」
驚いて悲鳴を上げるが、毛足の長い絨毯が緩衝材となり、痛みは起こらない。
「もう! お父さまったら」
立ち上がって衣服の皺を整え、頬を膨らませる。どの仕草も愛くるしいの一言に尽きた。
「シルヴィーナ殿、こちらへ」
苦笑しながら、セファンはシルヴィーナを手招きする。父親が引き留めようと伸ばした腕を擦り抜け、シルヴィーナは椅子に座るセファンの後ろに立って肩越しに抱きついた。
「これを差し上げよう」
小さな箱が取り出される。
布を張り美しく飾ったその小箱を開けると、中には台座があり、小さな小さな指輪が入っていた。
小さいながら作りはしっかりとしており、白金の台座に填められた上質の緑玉の奥にティーアの紋章が見える。
細工の細やかさから言っても、五古国の王侯でもない限り作らせる事は困難だろう。
「お手を」
「はい」
素直に手を伸ばす。
右の中指に、それは填められた。
「よく似合う」
取ったままの指先に、セファンは軽く口付けた。
「ありがとうございます、おじさま!」
ぎゅっと抱きついて、シルヴィーナもセファンの頬に口付ける。
遠慮など知らない。あらゆるものを与えられる事はシルヴィーナにとって疑うにも値しない事であり、それは誰の目から見ても当然のものだった。シルヴィーナには全てが許されている。
その傲慢な程の自信とそれに裏打ちされた表情は人を引きつけて止まぬ輝きを放つ。
セファンの兄も、傍らに愛する男が居る限りには、その様に振る舞っていた。
目を細め、その似た輝きを愛でる。
「一度、私の国にも遊びに来て貰いたいな」
「ええ、ぜったい。ねぇ、お父さま! わたくしは、おじさまのお后になるのでしょう?」
疑ってもいない一言に、ギルティエスははっとした。
「……確定的でない事を口にするものではない。…………そのうちに、ティーアを訪問する事は、考えてみよう……」
それだけを応えるのがやっとだ。
震える父の声に、シルヴィーナは首を傾げた。
「お父さま……やっぱり、おじさまのことがおきらいなの?」
セファンに頬を寄せながら様子のおかしい父を伺う。
絶望を隠せないその表情を見て、セファンは暗い笑みを浮かべた。
まだ幼く柔らかい髪に、これ見よがしに口付ける。シルヴィーナは擽ったそうに軽く身を竦め、笑う。
仲良く寄り添う二人を見ていられず、ギルティエスは顔を背けた。