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お礼SS その9
「もっと、ねぇ……触って下さい……」
「……ルシェラ……だから、もう……やめろって……っく……」
「いい、でしょう? ね」
「ぁ、くぅ……ん……」
「素敵なお声……」
「……発作、起きるぞ……ぅ」
「貴方が触れて下されば平気……ね?……ふふ……」
「あ、っぁ、る、ルシェラ……っ……」
LOLシリーズ 番外 セファン 5歳
美しかった。
綺麗だった。
しかし、何が繰り広げられているのかは分からない。
夜中にふと目が覚めて起き出したまでは良かったが、夜の神殿は薄気味が悪く、セファンは拙い足取りながら兄の部屋に向かった。
神殿には後に見習いとして入る為慣らしとして初めて来たばかりで、兄の他にそう親しい者もなく、また、神殿内の参殿以外に入る事が許される者は少ない為に乳母や従者の類もいない。こんな時には、兄しか寄る辺がなかった。
寝ていては申し訳ないとそっと扉を開け、寝台の辺りが仄明るい事から兄が起きている事にほっとしながらも、立ち尽くすしかなかった。
微笑んで男に口付ける顔は、セファンには見た事もない光を放ってさえ見えた。
二人は扉を僅かに透かせて覗いているセファンには気づかず、仲睦まじく触れ合っている。
何をしているのかは全く分からなかったが、二人とも、温かく濃密な空気を纏わせていた。
声をかけたかったが、何故か声が出ない。
見てはいけないもの、分からないながらそう感じる。
兄は、自分の父親より年嵩の男の腹の上に乗っている。兄の皓い肌が薄明かりの中ながら目に眩しく思うのは、一糸纏わぬ姿だからだろう。
男は困惑した様な、艶めかしい様な、不思議な声を上げながら兄のなすに任せている。
兄の身体がごそごそと動き、男に幾度も口付ける。手が男の身体を這い回り弄んでいた。
まだ幼いセファンにはその行為の意味も内容も全く分からず、しかし邪魔をしてはならない気配だけ感じた。
ただ、目が離せない。
「飲ませて」
熱に浮かされ掠れた幼い声が艶めかしい。
「……………………分かったよ。でも、それでお終いだからな」
男の大きな手がルシェラの頭や髪を優しく撫でる。
ルシェラは大輪の花が綻ぶ様な笑みを見せ、身体を反転させると男の顔を跨ぐ様にしながら男の下腹部に顔を埋めた。
飴でも舐めている様な、ぴちゃぴちゃと湿った音がする。
部屋の空気がより濃くなった気がした。
「ん、っぁは」
ふと、ルシェラが甲高い声を上げる。悲鳴の様でいて、もっと甘い。
セファンはその声に打たれて立ち竦んでしまった。
男の手が、唇が、目の前に晒されたルシェラの臀部や大腿部に優しく触れている。
「あ、っん……もっと……ぉ……」
「……駄目だ、って……ふっ…ぅく……」
いい年をした男の筈が、若々しい美声は少年の様な響きを持っている。
寝台の天蓋から吊り下がる薄紗の向こう、蠢く二人の姿が強く目に焼き付けられる。
「……………………っは……」
息をするのも忘れていた。
苦しくて顔に血が上り、漸く息を吸う。
扉を閉めて、セファンは廊下に座り込んだ。
「……あにうえ……………………」
頭の中で、ルシェラの甘く高い声が響いている。
目を閉じても、美しい姿が網膜に焼き付いていた。
あんなに美しい兄の姿を初めて見た。
勿論常日頃からその美しさを疑う事もなかったが、それが更なる輝きを放っていた。
目を開けても閉じてもその姿が離れない。
あの男にしか一番綺麗な顔を見せない事は何となく分かってはいたが、それにしても…………。
ぷう、と頬を膨らませる。何かは分からないが、ひどく不愉快だった。
兄は、一番美しい顔を自分には見せてくれない。
──ふふ……うふふふ──
楽しげな、幸せそうな兄の笑い声が響く。
セファンは耳を押さえて蹲った。
厭だ。
厭だ。
ここに来て以来父母を見る様に二人を慕ってはいたが、だからと言って、自分を置いてここまで睦まじいのは厭だ。
兄は自分の兄で、他のどんな者のものでもない。
父でもない、母でもない、他人に取られ、連れて行かれてしまう。
そんな焦燥を感じていた。
真っ暗な廊下で膝を抱え、セファンは泣き出してしまった。
そのまま廊下で泣き疲れて眠り込む。
暫くの後、寝付いたルシェラを後に男が部屋を出てくる。
暗闇の中小さく丸まった子供を見て表情が強張ったがこのままにも出来ない。
抱き上げる。
セファンは起きる事はなかったものの、動かされてぐずる様に男の服を掴み顔を擦り寄せる。
男は闇の中でもそれなりに目が利く。眠るセファンの顔を見詰めて、困った様に苦笑した。
頭を支えて髪を撫で、自分の子にする様に額に口づけを一つ落とす。
「…………悪いな」
まだ幼弱なこの子供から、頼るべき肉親を奪っている。それが分からぬではない。こんな所で眠っている意味は、十分に察せられた。
しかし、セファンにもいつか分かる日が来るだろう。
ルシェラに関する事こそが、関わる人間全ての優先するべき事項なのだ。
眠るセファンを部屋に運んで寝台に寝かせ、もう一度額に口づける。
ぎゅっと握られた服の端を無理に取り返す事は憚られて、男は手の力が緩むまで暫くセファンの側についていた。