チャイムが鳴って、8分。
昼休み直前の授業だってことも手伝って、黒板には大量の英字。
あの先生、絶対ワザとだ。まとめながらだから、どうしても遅くなるに決まって・・・
「 おーい 」
「 ・・・・・・ 」
「 ねえ、そこの 」
「 ・・・・・・ 」
「 少し茶髪のボブカットの黄色いフレームの眼鏡をかけたお嬢さーん 」
・・・あまりに具体的なアタシ像だったので、とうとう顔を上げた。
( 別に無視してたわけじゃないけど )
そこには、同学年とは違う雰囲気をまとった男の人が一人立っていて。
私と目が合うと、にかっと笑った( ・・・え、なに? )
「 準太、いる? 」
「 準・・・え、と・・・・・・ 」
「 高瀬 準太 」
そういや、クラスメイトの高瀬くんは、そんな名前だったっけ。
別のクラスの野球部員( 4番だって有名な )青木くんも、そう呼んでたような。
・・・てことは、この人も、野球部?
私はノートをとる手を休めて、クラスを見渡す。
「 あ、ちょっと待っててくだ「 その前にさ 」
「 え? 」
「 唐突だけどさ、このクラスで君だけ?黄色いフレームの眼鏡をかけた子って? 」
「 ・・・・・・はぁ、多分 」
言われるがままに、クラスメイトの顔を思い出してみる。
眼鏡っ子は何人かいるけど、大抵は、茶色とか赤とか?
私は形が気に入ったから、これにしただけで・・・って、この質問に何の意味があるんだろう?
訝しげに首を傾げた私を見ながら、その先輩らしき人はぷっと吹き出して、肩を揺らした。
「 ハハッ!わかった、サンキュな 」
「 ・・・じゃ、呼んできます 」
「 お願いしますよ、サン 」
あれ、私の名前・・・教えたっけ??
と、思ったけれど、先輩( らしき人 )に問い返す度胸もなく、先に高瀬くんを探すことに専念する。
女の子ほどじゃないけど、男の子にだって幾つかのグループがある。
私は注意深く、彼らの中から「 彼 」を探す。
「 ( あ・・・いた ) 」
窓辺で笑っているのは・・・輝きを隠せない、原石のようなヒト
「 高瀬くん 」
私の呼び掛けに、笑い声をぴたりと止めて。
少し強張ったような、緊張した面持ちで私を見た。
「 なっ・・・何? 」
「 高瀬くんにお客さん。ドアのところに 」
おおーい、じゅーんたくぅーん!
間延びした先輩( らしき人 )の声に、彼はかっと顔を赤くして俯いた。
私は高瀬くんより身長が低かったので、首元まで染まるのをまじまじと見ていたら、
高瀬くんと目がぱっちり合ってしまった( あ )
恥ずかしそうな、バツの悪い表情。
・・・こんな高瀬くんは、初めて。いつも人懐っこい笑顔しか見たことなかったから。
彼はプルプルと二、三回頭を降って、ドアに向かってダッシュ!
続いて、口論するような声が聞こえた。
涙を流さんばかりに笑った後の先輩( らしき人 ) が、自分の席に戻った私に
「 またな、ちゃん 」
と、告げた。私は、反射的に頭を下げる( あ、また名前・・・それも、下の、も? )
そのまま片手を上げて、小さくなる背中を見ながら。
昼休みのざわめきに取り残されたように、私と高瀬くんは・・・ぽつんと、立ち尽くす。
もう目で追っていた背中はとうに消えてしまったのに、二人とも遠くを見つめて、動けずにいる。
・・・・・・う、沈黙が重い、かも・・・・・・。
何故、彼が隣にいるだけで、自分がこんなに緊張しているのかわからないけれど。
ごくり、と喉の音が聞こえてしまう前に、退散しな、きゃ。
耐え切れずに、そそくさと座ろうとした私を、彼が呼び止めた。
「 慎吾サン、に、何か言った!? 」
「 慎吾サン? 」
「 今の。野球部の先輩 」
「 ( やっぱり先輩だったんだ )・・・ううん、特に 」
何も・・・と言うと、安堵の混ざったため息が零れた。
座り込んでしまうのでは思うくらい、深く大きいものだったけど。
「 そっか・・・呼びに来てくれて、ありがとな 」
顔を上げたのは『 いつもの彼 』だった。
笑顔を湛えた澄んだ瞳に見つめられて、胸がドキドキ・・・・・・って、え?何、コレ。
「 このノート・・・は、まだ黒板写してんの? 」
「 う、うん。まとめながらだと結構大変で・・・ 」
「 俺、一ヵ所わからないままのところがあるんだよな。に聞いてもいいか? 」
「 わっ・・・私で良ければっ!( うわー、いきなり何緊張してんのよ、私! ) 」
( なぜか )急にぎこちなくなった私を見て、高瀬くんは声を上げて笑いながら
更に、私の心臓を絞めるようなことを・・・・・・口にした
「 って、可愛いのな 」
愛とか恋とか言う言葉で
説明できたらよかった
( 今、この瞬間から『 いつもの毎日 』じゃなくなっちゃう! )
Title:"LOVE BIRD"