「 ・・・・・・・・・ん・・・・・・・・・ 」








 ( 視界に広がる、真紅の海
   音、何かが壊れる、軋んで倒れる、異臭、モノの焼ける匂い
   熱気、咽喉が焼ける、息が出来ない、苦しい、熱い )








「 ・・・・・・あ・・・つ、い・・・ 」










 ( 何、これ。燃えてる、の?どうして、私、火の中にいるの?
   お母さん、お父さん、みんな、どこ?
   どうして、どうして、こんな、こんなこと、に? )










「 いや・・・熱い、だ・・・れ・・・か・・・ 」










 ( ここから抜け出したいのに、手足が動かない
   目の前の炎に萎縮したように、震えが止まらない
   もう、時機に、私も飲み込まれてしまうというのに )










「 だ、れか、誰かっ、嫌、あ、熱い、嫌ああぁぁぁっっ!!! 」
「 っ!!! 」


 視界に広がった・・・・・・こん、じき。
 ブルーアイズに綺麗に映し出された、酷い顔の、自分。


「 !俺がわかるか!? 」


 もう一度名前を呼ばれて、私は『 彼 』を見つめる。
 淡い光を放つ金色の髪。いつもとは違う、淡色の寝間着に身を包んで。
 私の肩を、力強く揺さぶる腕。


「 ・・・・・・カ・・・イ、ル? 」
「 よかった・・・すみません、王子。お騒がせしました 」


 いや・・・と、闇の中から聞き覚えのある声が響く。
 それが、主君のものだとわかって、私は恥ずかしくなる。
 お世話係として、王子の部屋近くに控えていたのというのに。
 悪夢にうなされて、逆に迷惑をかけてしまうなんて・・・!!
 青くなって俯いた私に「 、ゆっくり休んでね 」と王子が言う。
 そして、そのまま退出した後姿に、頭を下げることしか出来なかった・・・。


「 だいじょーぶ。こんなことで、王子は怒る人じゃないよ 」
「 で、でも・・・お城を追い出されたり、しちゃったら・・・ 」


 ・・・もう、行くあてなど無いのに。


 そう言う前に、カイルは私の唇に指を立てた。
 びっくりした顔をした私に、パチンとウィンクをひとつ。
 そして、そのままボスン、とベッドに腰掛けた。


「 おいで 」
「 カ、イ・・・ 」
「 ちゃん、おいでよ 」


 にこ、と屈託なく微笑んで。
 ゆっくりと彼の隣に腰をかけると、長い腕が私の身体を引き寄せた。
 馴染みのある体温に、緊張が少しずつ解けていくのがわかる。
 ほ・・・と一息吐いたところへ、カイルの言葉が降って来た。


「 王子が血相抱えて、俺の部屋に飛び込んできたんだよー 」
「 明日、朝一番に王子にちゃんと謝らなきゃ 」
「 ちゃんがうなされてる、って聞いて、心配したよー・・・俺も 」
「 カイル・・・ありがとうね 」
「 随分と、悪い夢を見ていたみたいだね 」
「 ・・・うん 」
「 あの時・・・の? 」
「 ・・・・・・うん 」






 レルカー。
 それは、私とカイルの故郷で、夢に見た『 街 』。
 街が全焼・・・という最悪の事態にはならなかったものの。
 ザハークという名の女王騎士に焼かれた街の一角に、私は住んでいた。
 寸でのところで、彼に助けられ、そのまま手を引かれるようにココに身を置いている。






「 随分・・・前のことなのに・・・ 」
「 うん 」
「 こうやって時々、夢に見ちゃうの・・・忘れるな、って言われてるみたい 」
「 ・・・誰に? 」
「 誰・・・だろう、ね 」


 自嘲気味に笑って・・・途端、涙が零れた。
 カイルの垂れ目も、さらに悲しそうに目尻を下げて、私を優しく抱き締める。


「 ちゃん、好きだよ 」


 彼は、言葉を続ける。


「 君の悲しみは、俺の悲しみでもあるんだよ。それを忘れないで 」
「 うん 」
「 全部、抱え込もうとしないで。俺にもわけて 」
「 うん 」
「 俺も、時々ちゃんにわけちゃうかもしれないけどさ 」
「 うん・・・ふふっ 」


 ちょっぴり笑うと、カイルも少しだけ嬉しそうに微笑んで、軽くキスを送った。
 二度、三度と小鳥がついばむようなキスをして。




「 ・・・・・・愛してる 」




 カイルが、再び告白して・・・深く、唇を重ねた。










 たくさんのモノが焼失して、たくさんの人が亡くなった
 それは、私の罪でも、カイルの罪でもないのに




 私だけ・・・『 幸せ 』になっては、いけない気分になる




 誰かが夢で叫び続ける、どうして生き残ったのか、と
 生き残ったのは、どうして・・・私、なんだろう・・・








 私が生き残ったことに『 意味 』があるのだろうか








 君の『 迷い 』なんかお見通しだよ、と
 熱い吐息が混じりあう中で、彼は諭すように私に囁く








「 ちゃん・・・ずっと、俺の、傍にいてね 」
















 その答えが見つかれば、きっと・・・・・・


















夜はまだ明けない



( 抱き締める貴方の中に見つけたのなら、私にも未来が見えるだろうか )






Title:"W2tE"
Material:"七ツ森"