泣きじゃくる私の頭を、そっと撫でる掌。
私は・・・この手を知っている。
誰よりも大きくて、誰よりも強くて、誰よりも優しいヒト。
まるで正義のヒーローみたいに、ピンチの時にはいつも私の傍にいてくれた。
どうしたんだ、とか。泣くなよ、とか。
言葉は少なかったけれど、代わりにいっぱい頭を撫でてくれた。
( 誰よりも、愛してる )
美鶴も、明彦も、ゆかりちゃんやずんぺーくんも、私の大切な仲間だ。
月日を追うごとに私の『 大切 』は増えていったけれど、彼ほど『 大切 』なヒトはいない。
( 誰よりも、愛してる )
私の『 大切 』を、護るチカラ。
自身に目覚めたペルソナは、その為にある力だと思っていたのに。
護れぬまま・・・悲劇に、奪われた、てのひら。
ああ、そうだ・・・・・・シン、ジ・・・
( 誰よりも、深く、愛してる )
「 ・・・ん、 」
薄く目を開けると、お日様の位置がさっきより少し低い。
まだ夕焼けにはならないけど、ちょっとだけ遠くの空が赤い。
うたた寝・・・していたみたい。
身体を起こすと、耳元にひやりと冷たい感触。
指先で拭うと、夢の中で流したはずの涙だった。
( あのまま、あの温もりにしがみついていたかったのに )
現実を思い出した途端に、夢から覚めちゃうなんて、ね。
ずっと、あの夢の中で、あの掌を感じて・・・シンジの傍にいられたら、よかったのに。
「 そう、思うでしょ? 」
ねえ、と問いかけても返事が返ってくることは、ない。
閉じたままの瞳。少しだけ開いた口元を覆うように、マスクをつけられて。
ベッドに放り出された両腕には、たくさんの管がついていた。
彼の右手に触れる・・・温かいけれど、指先だけは冷えている。
無気力な掌をとって、体勢を低くした自分の頭にとん、と乗せた。
「 頭・・・また、撫でて欲しいな・・・シンジに 」
あんな夢を見たのは、それだけシンジに逢いたくて堪らない、ってコトなんだよ。
この手で、ちょっと乱暴に撫でられた後、の。
ちらりと見上げた時に覗く、貴方の笑顔が・・・本当に、好きだったから。
「 ・・・・・・・・・シン、ジ 」
口ずさむだけで、その場に崩れて落ちてしまいそう。
憶い出しいけれど、憶い出したくない。そんな葛藤に、ずっと苦しんでる。
( だって、彼を『 過去 』にはしたくない )
・・・でもね、私、泣かないって決めたの
だって、シンジは生きてる。此処にいるもの。此処で、寝ているだけだもの
泣かない。泣かない。絶対諦めない・・・だから、貴方も諦めないで
『 生きる 』ってことを・・・さ
( ・・・でも、夢の中で泣いちゃうのくらいは、許してね )
「 ・・・・・・・・・ 」
「 シンジ・・・? 」
動いていないはずなのに、何かを感じて、私は立ち上がる。
彼が、呼んでいる気がして。枕元に駆け寄った。
つ・・・と、それはスローモーションのように。
彼の右目から・・・ひとしずくの、涙が、零れた・・・。
「 ・・・シンジ・・・ 」
・・・夢、でも、見ているの・・・?
ねえ・・・もしかして、その夢に私は、いる?
シンジが見ている夢は、さっきの私の夢と、どこかで繋がっていたかもね。
そんな『 奇跡 』を・・・信じてみたくなる
「 ・・・そうだったら、嬉しいな 」
夢で逢えれば、今はそれでもいい。
・・・またいつか、私の頭を撫でてくれるよね。
いつもように、口の端をちょっとだけ吊り上げてさ。
よく我慢したな、にしちゃよく耐えたほうだろ・・・って。
それから・・・
『 もう、泣いていいぞ 』・・・って
( 誰よりも、深く、それは深く・・・貴方だけを、愛してる )
胸の中に、彼との『 未来 』を見つけた瞬間、
私の『 意識 』の中で・・・・・・『 何か 』が、弾けた・・・・・・
あめ、のち、ひかり
( この新たな『 目覚め 』は貴方がくれたんだね・・・ありがとう、シンジ )
Title:"ユグドラシル"
Material:"NOION"