神田は、私の彼氏を殺した男だ。
 AKUMAと成り果てた姿に、躊躇うことなく六幻を突き立てる。
 浄化の光の中で、彼は最期の微笑みを私に残して去った。
 ( それは、今でも決して忘れられない光景 )
「 どうして、彼を斬ったのよ!! 」
 それまでAKUMAなんかとは無縁の世界に居た私は、神田を責めた。
 人殺し!アンタの心なんて、氷のように冷たいんだわ!私の彼を返してよ!!
 ・・・と、( 今、言ったら絶対私の方が殺されるような )暴言を吐き、
 胸元に咲いたローズクロイツを思い切り叩いた。
 辛かったと、思う。
 何にも知らないとはいえ、無条件で他人に責められるのは。
 ・・・それでも、神田は耐えた。そして、私を抱き締めた。
「 ・・・・・・ 」
 言い訳も、謝罪もなかった。
 ただひたすら、胸の中に暴れる私を抱きこんだ。
 力いっぱい怒って、子供のように泣きじゃくって、疲れて眠り込んでしまうまで、
 何も言わずに根気良く、私に付き合ってくれた。
 ・・・去り際に、「 もう泣くな 」と捨て台詞を残して。
 偶然は、突然、訪れた。
 私は、イノセンスに選ばれた。
 黒服に身を包んだ人たちが、私に手を差し伸べる。
 ” お前の居場所は、もうここではないのだよ ”
 ” これからは戦場に身を置き、神の使徒となって戦うのだよ ”
 身辺は目まぐるしく変化し、あの時なじった十字架を、私も胸に抱いた。
 二度と逢うことはないだろうと思っていたヒトとの、再会。
 神田は、最高のエクソシストだった。
 強くて、美しい。私は次第に、彼に尊敬の念を抱く。
 辛い過去は、たくさんの仲間の愛が洗い流してくれた。
 触れ合うごとに、驚くほど、自分の中の何かが変わっていくのを感じた。
 教団は、私の” 故郷(ホーム) ”となった。
 ( それは、今でも決して変わらない想い )
 ・・・なのに
「 こここここ来ないで! 」
 私は、神田を尊敬している。
「 お前はニワトリか、あ? 」
「 ニ、ニワトリとは失礼な・・・、っ!とにかく近寄らないで!! 」
 バッと振り上げた手は、長い指に掴まった。
 しまった!と思った時にはもう遅い!!( 罠だ )
 そのまま身体を倒し、拳はクリーム色の壁に固定された。
「 か・・・ 」
 ギリ、ッ・・・!
 細いクセに、見た目以上に筋肉がついている腕に抗うことも出来ない。
 痛さに歪んだ私の頬に、そっと手が伸びた。
 恐ろしいほど・・・・・・優しい手つきに、身体が震えた。
「 ・・・もう、いいだろう? 」
「 は!?何が?? 」
「 2年経った。お前が想っていた・・・AKUMAを斬ってから 」
 空へと昇る、光の柱。
 中から現れた、あの時の神田の姿と・・・
 窓の日差しを背に受けた・・・目の前の神田が重なる。
 少しだけ苦しそうな表情で、私の瞳に自分を映した。
「 お前が・・・俺を憎んでいるのもわかってる 」
 私は、神田を尊敬している。
 あの時のことも、もう一欠けらだって怨んでいない。
「  」
 だから
 これ以上、”私”に踏み込んでこないで
「 ・・・・・・わりィ、な 」
 くっ、と口の端を持ち上げて。
 神田が ( 私の前で初めて )微笑んだ。
 わ、やっぱり・・・・・・綺麗
 なーんて、見惚れていたのがまずかったんだと思う ( ま、た罠に! )
 一瞬で芽生えた恋心は、まるで・・・・・・
林
檎 が