ガラリ・・・と大きな音を立てて、扉が開く。
夕焼け色に支配された空間の中に浮かんだ、ひとつの影。
誰もいないと思ったのに。
お互い驚いたのか・・・認識するのに、ちょっとだけ時間がかかった。
「 ・・・? 」
もともと大きな瞳を、更に開いて。
親友の”彼女”であるが、ほっとしたように笑顔になった。
「 あ・・・は、花村くん。どうしたの??もうとっくに帰ったんじゃ・・・ 」
「 途中で忘れ物したのに気付いてさ。こそ、どうしたんだよ? 」
「 うん、英語のノートチェック 」
彼女の隣の席に、山積みされているノート。
・・・ああ、そういや今日、英語の宿題、提出したっけな。
「 その量、お前一人でチェックしてんの? 」
見るからに、結構な量なんだけど。
うちのクラスの分だけじゃないな( じゃなきゃ驚かねーよ )
のヤツ・・・別のクラスの分まで、押し付けられたな。
えへへ、と困ったように笑った彼女・・・ったく、仕方ねーな。
俺はの向かいに腰掛けると、手を伸ばす。
「 ホレ!寄こせ!! 」
「 ・・・ええ!? 」
「 半分っ!そんなスピードじゃ、いつまで経っても終わんねーだろが 」
「 い、い、いいよ!花村く・・・ 」
「 さっさと手ぇ動かす!! 」
「 は・・・はい・・・ 」
ひとクラス分の名簿とノートを受け取る( 2−3って・・・!! )
ノートの表紙に書かれた名前と名簿を照らし合わせて、チェックする。
最初は、唖然としていた彼女だったが・・・ようやく動いた気配。
「 ありがとう 」
とてもとても、小さな呟きだったのに。優しさに満ちた柔らかい声に、奥底が震える。
投げた小石が水面を揺らすように・・・いつもの何倍も『 俺 』ン中に響く。
俺は、聴こえなかったフリをして、黙々と作業を続けた。
( というか・・・顔を上げられなかった、が正しい )
「 花村くんが手伝ってくれて、ホント助かったぁ 」
「 お前ってさ、実はこーいうの苦手だろ 」
「 そうなの!見比べてると、混乱しちゃうんだもん・・・ 」
「 トロっ!! 」
「 ・・・酷い・・・ 」
「 ウソウソ。困ってる女子がいンのに、放っておけるかっつーの。優しいなァ、俺 」
「 うん。でも、前から知ってるよ?花村くんが優しいの 」
そこは『 自分で言う!? 』くらいのを想定していたのに。
さらりと褒められて、自然とペンが止まる。
「 花村くんって、陽気でムードメーカーだけど、周りにいつも気を遣うよね。
困ってる人がいれば手を差し伸べたり、声掛けたり・・・それって、凄いと思う 」
目の前のは『 やっぱり、おうちの商売柄? 』なんて笑ってるけど。
笑えねーよ・・・俺。むしろ、泣きそうだ。
・・・何だよ、見てたんなら、そう言ってくれよ。
別に褒められたくて、努力してたワケじゃねーけど、・・・でも嬉しいんだよ。
『 俺 』を見てくれてたコト
散らばった、色とりどりのビーズの中で、霞んでしまいそうなその一粒を掬ってくれたコト
「 ・・・ 」
「 って、くんに言ったら”そうだね”って頷いてたっけ 」
思い出すようにそう言って、嬉しそうに微笑んだ。
明らかに、俺に見せる笑みとは違う・・・『 微笑み 』。
は・・・に、いつもこんな表情を見せているのか・・・?
途端に、なぜか不快になった俺は、ふと気付いて顔を上げる。
「 ・・・そういや、男子の英語係って・・・だっけ? 」
「 え?あ、うん、そうだよ。今日は用事があるって・・・ 」
「 用事・・・ 」
昼休みに、一階の廊下で見た何気ない光景。
頬を染める海老原。頷いて見せた。
学校のマドンナと、アイツがいつの間に親しくなったのか、俺も知らないけど・・・。
「 苦労してる自分の”彼女”を置いてまで、優先するコトじゃねーよな・・・ 」
「 ・・・・・・あ、ごめん。チェックに夢中で・・・何?? 」
「 いや、何でもねー・・・もう俺、終わるぞ 」
「 嘘っ!?ちょ、ちょっと待ってて 」
彼女は慌てたように、残りのノートチェックに取り掛かる。
「 ふぅ、終了!!ありがとう、花村くんっ!! 」
「 お疲れさん。あとは、職員室に持ってくだけ?? 」
「 そう 」
10分後。とん、とノートを揃えて、席を立つ彼女。
俺も鞄を抱えて、そのノートを半分持ってやった。
「 ・・・俺さ、戻ってきて、正解だったよ 」
「 忘れ物のこと?見つかった?? 」
「 ああ 」
探してたものは、鞄の中に入ってる。
でも・・・もっと大切なものも、ココロん中に見つけたんだ。
( 見つけてしまわなければよかったのに、という後悔と共に )
よかったねぇ、と満足そうに頷く、隣の彼女を見て
俺は・・・曖昧な顔で、笑うんだ
片恋ベクトル
片恋ベクトル
( 俺の方が、もっと幸せにしてやるよって言ったら・・・君はどうする? )
Title:"確かに恋だった"
Material:"MIZUTAMA"
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