背中に回された腕は、意外にもがっしりしていた。


「 や・・・離して 」


 細い細い、可愛い可愛いと持て囃(はや)す度に、彼は否定していたけれど。
 ・・・腹を立てるのも、もっとも、かもしれない。


 けれど


「 アレンくん、離して 」


 今度ははっきりと。
 合わせた頬の筋肉が、動かしにくかった。


 彼の腕は私を捉えていたけれど、
 私の腕を彼の背中に回すワケにはいかない。


「 離しません 」


 そう言い放った貴方は、アタシの知っている貴方ではない。
 彼の肩越しに、真昼の月が見えた。


 まるで、現実味が無かった。
 何もかもが夢のよう、で・・・・・・


 ・・・夢であれば、と願った。


「 アレン・・・く、ん・・・ 」
「 お願いです。今だけ・・・・・・アレン、と、呼んで下さい 」


 憧れていた貴方は、アタシの「モノ」にはならない。


 あの娘を裏切るのは、嫌だ。
 貴方を受け止められないのも、嫌だ。
 ・・・でも、一番
 本気でこの腕を拒絶することの出来ない、自分が嫌だ。


 ふわり


 自分のものではないような"感覚"。
 うつろな瞳で、"それ"を見つめた。




 空に浮かぶ月を掴もうとしたのか
 見かけよりも広い彼の背中に回されたものなのか




 もう・・・アタシには、わからない・・・・・・










「 アレン 」










 声に出してしまった瞬間


 アタシの中で、何かが壊れてしまった





01: 青空白い月の下


平日で5つのお題








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  01 青空白い月の下   02 灯火に浮かぶ   03 水面下の会話   04 うねる木々の向こう   05 金色の眩暈