喧騒。刃と刃のぶつかり合う音。血の匂い。


 幻だったらいいのに。


 きっときっと、朝になれば。
 いつものようにニワトリが鳴いて。
 厨房から薪の煙が立ち、朝食の匂いが鼻をくすぐる。
 いつものようにアタシは掃除道具を持って、扉をノックする。
 低く、落ち着いた声が返ってきて・・・。


 窓辺の光の中に・・・あのヒトの姿を見つけるのだ。


「 部屋の隅まで探せ!!一人たりとも逃すな!! 」


 ドアを蹴破る音がして、怒号が響いた。
 激しい靴音。時機にここも見つかってしまう・・・!


 怖い・・・・・・っ・・・こんなの、嫌だ!!


 ・・・泣き出しそうになった時。
 急に、周囲の「音」が消えていることに気づいた。


「 ・・・ハァ・・・もう、逃げた、か・・・・・・? 」
「 ゲオルグ様っ!! 」


 掠れた、小さな呟きだったけれど
 アタシがその声を聞き逃すはずが無い。


 窓辺の光は無かったが、ランタンの淡い光を道標に
 ・・・あのヒトを見つけた。


「 やっぱり・・・隠れるなら、ココだろうと思っていた 」
「 ・・・ゲオルグ様に教わった、隠れ場所ですから 」
「 ハハ、いい場所だろう。お前さんにしか教えていないからな 」


 こんな時なのに、嬉しくなってしまうアタシはどうかしている。
 ああ、愛しい。
 戦乱の中、もしかしたら二度と逢えないかもしれない。
 それでも、このヒトが好きだ。


「 俺は王子と国を出る。お前さんは逃げろ 」


 あのヒトはそう言って、アタシの手にランタンを握らせた。
 微塵も力の無いアタシには、
 一緒に連れて行って欲しいと告げる勇気も、別れを告げる勇気も無かった。


 闇に消えようとしたあのヒトは、気づいたように振り返り、
 泣くのを必死に堪えているアタシの前に、つ、と立った。


「 もし・・・もう一度逢えたなら、"様"を付けるのはやめてくれ 」


 むず痒いんだ、と照れたように笑うと、今度こそ闇に消えた。






 ・・・泣くのは後だ。
 何が何でも、生き延びなければ。
 あのヒトがくれた希望が、アタシのココロに火を灯す。











 ランタンの光を道標に


 アタシは、暗闇の中を全速力で疾った





02: 灯火に浮かぶ


平日で5つのお題








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  01 青空白い月の下   02 灯火に浮かぶ   03 水面下の会話   04 うねる木々の向こう   05 金色の眩暈