彼の腕に、力がこもる。
 耳元で、くしゃりとシーツの歪んだ音がした。


「 ・・・冗談は、やめて、よ 」
「 冗談なんかじゃ、ないさ 」


 強気な発言も、彼の前では"無"に等しい。


「 どうして、こんなコ、ト・・・するのっ!? 」
「 逃げるだろ?こうでもしないと、さ 」


 きっと睨んでも、彼はヘラリと微笑うだけ。
 押し倒したアタシの身体を、自由になんかしてくれない。


 本当は。
 身体中の血液が、逆流しそう。
 バクバク言ってる心臓が飛び出さないよう、口を閉じているのが精一杯。
 ( 一言でも放ったら、アタシが今、すんごいびびっているのがバレる! )


 ゴクリ。


 アタシの喉の悲鳴。それが合図だった。
 茜色の頭(こうべ)がゆっくりと降りてくる。
 くせっ毛のハズなのに、髪の流れる音が耳を突いた。
 ・・・その一瞬のスキを、彼が見逃すハズはない。


「 好きだ 」


 今、一番聞きたくなかったセリフ。


 でも、一番憧れていたセリフ。


 降ってきた唇を、避けることも拒むことも出来ず。
 アタシは最後の抵抗として、瞳をぎゅ、っと瞑った。








 閉じた瞳の奥に



 この瞬間を夢見ていた、自分がいた・・・・・・






03: 水面下の会話


平日で5つのお題








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  01 青空白い月の下   02 灯火に浮かぶ   03 水面下の会話   04 うねる木々の向こう   05 金色の眩暈