目の前を舞っている白は、
鳥ではなく、真っ白なシーツ。
仰ぐ。
雲ひとつ無い空。強く、そして優しく、地上を照らす偉大なる太陽。
今、この瞬間が・・・戦争の合間のひと時だなんて・・・忘れてしまいそうだ。
「 ん、しょ・・・うん、しょ 」
砂利を踏みしめる靴の音と、小さく聞こえる彼女の声。
俺は、足早に階段へと駆け寄った。
「 ・・・ゲオルグ様! 」
「 俺が持とう 」
「 い、いえ!私の仕事ですから・・・ 」
「 いいじゃないか、貸してみろ 」
彼女が抱えていた重い籐の籠を奪って、残りの階段を上った。
・・・こんなにも大量の洗濯物を抱えて、
急な階段を何往復もするのは、さぞ大変だったろうに。
再び目に入った、空の青とはためくシーツの白。
竹竿の下にドスン、と下ろすと、遅れてきた彼女が息を切らせて走ってきた。
「 すみませんでした、ゲオルグ様! 」
「 いや、気にする程のことじゃない 」
「 ・・・有難う、ございます 」
・・・そう、この笑顔が見たかったんだ。
嬉しそうに微笑んだ彼女を見て、俺も満足そうに笑みを返す。
吹き抜けた風が、一層シーツをたなびかせた。
最後まで手伝う、と言うと、彼女は大きく拒否したが、やがて俺の根気に負けたらしい。
湿ったシーツをピン!と大きく伸ばして、そっと竹竿にかけた。
「 この天気なら、あっという間に乾くだろうな 」
竹竿にかけたシーツを、洗濯バサミで丁寧に止める。
「 ふふ、そうですね。お日様の光をいっぱい浴びたシーツで、ぐっすり眠れそうです 」
・・・20枚も干しただろうか。
ようやく最後の一枚を干し終えた頃には、額にうっすら汗を浮かんでいた。
溜息と共に、地べたへドスンと腰を下ろす。
・・・シーツを干すのも、楽じゃないな・・・
ふ、と視界を覆った黒い影。手渡されたのは、小さな水筒。
シュンミンちゃんから貰った、美味しいドリンクなんです、と彼女が笑った。
俺はお礼を言いながら受け取って、口に含んだ。
「 ・・・美味い! 」
同じ水筒を持った彼女が、隣に座った。
喉を鳴らして、水筒の中身を飲んでいる。
いつも大人びた彼女の姿とは、まるで逆で、そんな一面も可愛らしかった。
思わず、クツクツと笑ってしまったが、彼女は恥ずかしそうにはにかんだ。
「 ・・・静か、ですね 」
「 ああ・・・全くだ 」
戦争の最中なのに、喧騒のかけらもない。
穏やかな時間。それを、こうして・・・二人で共有できる俺は、幸せだ。
「 一年前・・・こんな静かな時間を過ごせるとは、思わなかったよ 」
「 ゲオルグ様は、当時も戦火の中にいらっしゃったのですか? 」
「 ・・・ああ 」
空は青い。雲は白い。
鉄の匂いの中で、そんな当たり前のことすら忘れていた日々。
閉じた瞳に映ったのは、遠い過去。それを打ち消すように。
「 私も・・・こんな日々が、訪れるとは思っていませんでした 」
バサ・・・!
シーツの舞う中で、彼女が呟いた。
太陽宮を出たことを後悔しているのか、と尋ねようとすると、
空を映した瞳が、ゆっくり俺の視線と交わる。
「 今、幸せです。ゲオルグ様 」
花開いた彼女の笑顔に、今度は俺が照れる番で。
照れ隠しに・・・身体を支えていた手を、彼女のそれに重ねた。
太陽の熱を受けてか、その掌はとても熱かった。
「 俺も・・・・・・幸せだよ、今 」
「 ・・・はい、ゲオルグ、様・・・ 」
この熱が落ち着いたら、いつもの”俺”に戻るから・・・
今だけはこうして・・・
やっと掴んだ幸せに、身を委ねさせて・・・
04:
If...
シリアス5のお題
拍手、有難うございました。
01 空も飛べるはず
02 窓辺
03 嵐の夜
04 If...
05 刻印
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