自分が何をもらったら嬉しいのか、真剣に考えてみた。
いや、俺はいつだって『 真剣 』だ・・・彼女の為なら。
「 ちょ、ちょちょちょ!若!!何を手に取ってるの!? 」
「 鐙(あぶみ)だが 」
「 ・・・その、何か問題でも?って表情、やめてよ。問題あるから止めているんじゃないのさ 」
馬岱は大袈裟なほど溜め息を吐くと、馬超の手の中から取り上げる。
行商に鐙を返すと、彼の首元を掴んでその場から離れた。
人込みから少しだけ外れたところに連れてくると、頭を掻いた馬岱が、あのさあ若、と声を上げた。
「 今日はさ、何の為に市場まで買い物に来たんだっけ? 」
「 への贈り物を買う為だ。先の戦の勝利も日々支えてくれる彼女在ってこそ、だからな 」
「 うんうん、その気持ちは大事だよね。だからこそちゃんに喜んでもらう物を贈りたいよね 」
「 そうだな!となると、やはりあの鐙は候補から外せな・・・ 」
「 そこは外そうよ、若! 」
あー!と頭を抱えた馬岱を、きょとんと馬超が見つめる。
何故悩むのだ?という表情をした従兄の表情をちらりと盗み見て、本気で泣きたくなる。
聞きたいのはこちらだよ、どうして若はこんなに疎いんだ・・・!
長年一緒にいた馬岱は、実直なところが馬超のいいところだと知っている。
恋人であるもそんな彼を愛している。だけどよくも悪くも、真っ直ぐすぎるのだ。
もう少しだけ他人の立場になって考えてみるということを、どうして思いつかないのか・・・。
「 ( これじゃあ、ちゃんも大変だろうな・・・今度、俺からも謝っておかなきゃ ) 」
深い溜め息を吐いた馬岱を置いて、馬超は踵を返す。
歩き出した馬超の背を、若、何処に行くんだい!?と慌てた馬岱が追いかけた。
「 贈り物を探しに、だ。いい馬具が揃うのは市が開いている間だけだからな 」
「 あのさ・・・ちゃんは女性なんだからさ、 」
答えは自分で見つけて欲しかったが、仕方ない。
諦めた馬岱は帽子を被りなおして、えーっとと市を物色する。
選んだ店の前に従兄を連れてきて、馬岱はそれを手に乗せた。
「 髪飾りとか、女性物の帯とかがいいんじゃないかな? 」
彼の手には、瑪瑙の石がはめ込まれた美しい髪飾りが乗っていた。
馬超は髪飾りと、従弟の顔を見比べる・・・始終、無言で。
無言が続けば続くほど、ハラハラと見守る方は気が気じゃない・・・機嫌とを損ねてしまった、か?
だが彼は、ふむ、小さく頷くと、徐に財布を取り出す。この行動に呆然となったのは馬岱だ。
店主の感謝の言葉に、馬超は片手を上げて答える。
またもやふいに歩き出し、その場を去ろうとした彼を追いかける。
「 わ、若・・・? 」
「 お前の言う通りだ、岱。に似合いそうな髪飾りだ。これならあいつも喜んでくれるだろう 」
そう言った彼は、陽射しに髪飾りを翳す。
光を受け、きらりと存在感を示すように輝いたそれを見つめた馬超の顔には、満足そうな表情。
端から見ていた馬岱をも惚れ惚れさせるような・・・ほんと、こういうところは敵わない。
だから・・・溜め息を苦笑に変えて、馬岱は微笑んだ。
距離を縮め、隣に並んだ従兄弟は・・・愛しいあの子への贈り物を探して、今日も市場を練り歩く。
「 それで、な、岱。やはりさっきの鐙も喜ぶだろうと俺は思うのだが・・・ 」
「 いい加減諦めなよ、若っ!! 」
It can't be helped
しかたがないよ!
( だってきみに世界で一番、しあわせでいてほしいんだ )
capriccio
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