「 ・・・・・・・・・だよ、忘れないでね 」
長い廊下の曲がり角。聞こえたのは愛しい人の声で、思わず足を止める。
応えた声にも当然聞き覚えがある・・・三成だ。他にも何事かを喋っているらしく、会話は途切れない。
この廊下を曲がれば、すぐに見つかってしまうだろう。
いや、見つかって悪いことなどひとつもないのだが、わしの足は一歩も動かなかった。
・・・それどころか、時折聞こえる笑い声に、自分の中の温度がすっと下がっていくような感覚・・・。
「 いってらっしゃい、三成!! 」
大きなの声に我に返った。砂利を踏んでその場を去って行く足音。
凍っていた心臓が突然動き出し、大きな鼓動に慌てて胸に手を当てた。
正直、口から飛び出てしまうのではないかと心配になる・・・そのくらい煩かったのだ。
「 ・・・あれ、家康? 」
わしが曲がるはずだった曲がり角から、落ち着く間もないままが現れる。
隠れるように廊下の端に立っていたわしを、きょとんとした瞳で見上げた彼女は首を傾げていた。
「 そんなところでどうしたの?? 」
「 い、いや、どうもしないが・・・それより!こそどうしたのだ?三成の声がしたが 」
上手い言い訳を考えることが出来ず、ここは誤魔化すことにした。
三成の名を出すと、ああ!と呟いたが少し頬を赤くした。
「 三成がね、今から秀吉様の遣いで京都まで出かけるっていうから、お土産お願いしちゃったんだ。
仕事の一環なのに申し訳ないなとは思うんだけど、どうしても食べてみたいお菓子があって・・・ 」
はそのまま、三成が今回受けた命の内容や、秀吉様の采配について語った。
頬は興奮と共に染まっていき、自分も三成について行きたかったなあ・・・と溜め息を零す。
・・・わしは、聞けば聞くほど『 錯覚 』に陥っていく。
「 でね、三成も最初は嫌がってたんだけど、さっきようやく頷いてくれたの!あの三成が、よ!! 」
わしの中で、彼女の口から出る『 三成 』という単語に反応した時に、舞う火の粉。
雪が降り積もっていくように・・・燻りを宿したまま、心の奥底に堕ちて行く・・・堕ちて、そして。
「 ・・・お前の前から、三成を消してしまえればいいのに 」
動いていたの口がふと止まり、それと同時に我に返る。
( も・・・もしかして、今の台詞、わしが、言った、の、か・・・? )
青褪めるよりも早く、彼女がぷっと吹き出して大きな声で笑い出した。
腹を抱えて笑うに同調するかのように、自分の頬もひくり、と惹きつったように動いた。
内心恐ろしかった・・・この笑いの意味は何だ。笑った後に、わしは何を言われるのだろう。
「 どうしたの、家康。らしくない 」
口元に手を当てて慄いていたわしに、はあっけらかんと言葉を放る。
「 大丈夫だよ!三成がお菓子を持ち帰ってきたら、家康にもちゃーんと分けてあげるから!
そんなにヤキモチやかなくても、3人で仲良く一緒に食べよっ!ね、約束 」
「 ・・・わしは、ヤキモチなんか・・・ 」
「 あ、半兵衛さまに呼ばれているんだった。ごめんね家康、またねー!! 」
煮え切らないわしの言い分など聞かずに、は急に廊下を走り出した。
軍師見習いの彼女が慌しいのはいつものこと、いつものこと、だが・・・。
「 ( ヤキモチな、もんか ) 」
そんな、生易しいものではない。
むしろ『 そんなもの 』であれば、わしは喜んだろう。
取り残されたわしの胸に抱く気持ちは、それしきの軽さであれば殺意など沸かない。
だけど・・・を手に入れるには、もうそれしか道がないように思えてしまうのだ。
わし以外の男について楽しげに話すお前を見ていると、他の道が見えないのだ。
わしは、世界を変える。
誰でもないお前を・・・、お前だけを手に入れるためだけに。
お前に『 関わる 』全ての者を排除して、わししか見えないようにしてやろう。
そう思ったら急に心が楽になっていく・・・答えが見つかれば、あとは早かった。
忠勝、と呼べばどこからともなく現れた彼の背に乗る。ぐんと加速し、雲の間を一点突き抜けた。
目指すは三成・・・まずは、お前からだ。のために世を変える、最初の礎となれ。
・・・なあに、お前のようにを慕う者全てが、すぐに後を追うから寂しくなんかないだろう?
Freak prelude op.3
誰かと笑い合うその日常も壊してあげるよ
( どうしようもなく愛してた、今でも狂いそうなほど愛してる )
capriccio
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