「 ・・・・・・っ! 」
息を呑んだだけなのに、彼女の耳の良さには恐れ入ってしまう。
窓辺で動かしていた針の手を止めて、慌てたように牀榻の傍へと駆け寄ってくる。
「 徐庶!どうしたの、どこか痛むのッ!? 」
青褪めたが、牀榻の傍らに膝をつくと、寝ていた俺の身体に触れた。
・・・どこが痛いのか確認しているようだったけれど、つい、撫でられているような気がして。
堪えきれずにクスクスと忍び笑いをしてしまう。はっと気づいたが、ぷうと頬を膨らませた。
しまったと思った時にはもう遅い。俺は観念して、ゆっくり身体を起こして彼女に向き合う。
「 悪い、。あまりにくすぐったくて 」
「 もう!私、今すっごく心配したんだよ!? 」
「 うん、わかってる。だから・・・ありがとう 」
にこりと笑うと、膨らませた頬を収縮させて、そのまま牀榻に寝転がる俺の胸にもたれかかってきた。
?と問うが返事はない。俺は黙って抱き締めると、の反応を待った。
・・・やがて腕の中で彼女が、ぼそりと呟く。
「 ごめんね 」
この位置からじゃ、彼女の表情はわからない。でも・・・きっと泣きそうなんだと思う。
ああ、この空いた『 間 』の間に、彼女はまたあの日のことを思い出したんだな、とわかったから。
「 君が謝ることはない 」
「 でも・・・私・・・ 」
「 いいんだ、。俺は自分でこの『 結末 』を選んだのだから 」
何度同じ会話を交わしただろう。それでも、俺たちはこのやりとりを止めない。
「 それでも、それでも、だよ、徐庶・・・本当に・・・ごめんなさい・・・。
あの時、私を庇って怪我なんかしなければ、二度と武器を握れなくなるなんてことなかったのに。
魏で文官としてじゃなくて、劉備様の元で立派な将軍として仕えていられたのに・・・! 」
透明な雫がぽろぽろ零れていく。光に反射したそれは、どんな宝石よりも美しい。
宝石に触れれば、俺の指を伝っていく。俯いて泣くには見られないよう、こっそり指を食んだ。
それだけでは物足りず・・・俺は、彼女の名を呼んで両手で顔を持ち上げる。
唇を寄せる。涙は一滴たりとも逃さず、舌が拭っていく。の戸惑ったような声が上がった。
「 じょ・・・ 」
「 今だけで良い、元直と呼んでくれないか・・・ 」
憂いを含めた俺の笑みに、彼女は困惑した瞳で俺を見つめ返していた。
「 何度も言っているじゃないか、俺はこの現状に満足している。
それに武器は取れなくても筆を持つことは出来る。文官として、一人で働いて生きていける。
だから・・・俺に遠慮することはない。縛られることはない。君はもう、自由になって良いんだ 」
「 そ、んなこと、出来るわけないじゃないっ!貴方の人生を狂わせた私に自由なんて必要ないの。
これは私の意志よ。お願い、邪魔にならないようにするから 」
は縋るように、俺の首へと両腕を回してしがみついてくる。
抗わず、そのまま彼女の身体を抱きとめると、は自分から口付けてきた。
最初は戸惑った『 ふり 』をしていた俺も、諦めた『 ふり 』に切り替えて深く口付ける。
急な展開に、一瞬驚いたようだったが・・・彼女に発言権は、ない。
俺の与える快楽に流されそうなは、その淵で声にならぬ思いを伝えることに必死なのに。
寄せる波のように、俺はそれを飲み込んでいく・・・そう、覆ってしまえば良い。
真実も、嘘も、何もかもすべて・・・。
「 傍にいさせて・・・元直 」
の囁きに、俺は頬が緩むのを止められなかった。
・・・ねえ、。俺は君が隣にいるだけで嬉しいんだ、完璧な自己満足だと言われてもね。
君が好きだ。だから君が望むのなら、何度でも同じやりとりをしても構わないと思ってる。
永遠よりも永く、の気が済むまで。貴女の中に植え込んだ『 悔 』という棘が柔らかくなるまで。
けれど、このやりとりが終わりを迎える時、俺たちの関係も終わりだというなら。
その棘は・・・残念だけど、絶対に抜いてあげない。
これが俺の捧げる『 愛のかたち 』だから。
僕の為と言ってしまえば、優しい君は・・・きっと、受け入れてくれるだろう・・・?
Freak prelude op.3
傷痕は君を縛る役目を果たしてくれるだろうか
( どうしようもなく愛してた、今でも狂いそうなほど愛してる )
capriccio
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