静かな教室には、みんなのペンの疾る音が響いている。
その中で・・・カチ、カチ、とプラスティックの箸の音がこっそり私の耳を刺激する。
「 ( んもう・・・また ) 」
ノートの手を動く手を止めて、ちらりと視線を向けると・・・となりの幸村くんも私を見ていた。
ちら、とこちらを伺っているけれど、箸を持つ手は止まらない。
時折、先生を盗み見ながら、私、そしてお弁当箱へと視線を往復させる彼。
呆れて物も言えない代わりに、わざと大袈裟に溜め息を吐いてやった。
大きく目を見開いて傷ついた表情を浮かべる彼に隠れて舌を出したところで、チャイムが鳴った。
今日はここまで、という先生の声に、ノートを閉じてペンを仕舞う。
・・・と同時に幸村くんがお弁当箱の蓋を閉じる音がした。満足そうな笑顔が、私の苛立ちを増幅させる。
「 あのさ、幸村くん。食べるのはいいけれど、もうちょっと静かにして。気が散る 」
「 そ、それはすまぬ、殿。これでもこっそり頑張ってはみたのだが・・・っ! 」
「 ( こっそり頑張って、食べてみた、ってことか・・・ ) 」
佐助の手作り弁当はやはり最高に旨いので、手が止まらないのだぁああ!と力説していたが。
私がじと目になって睨んでいたのが効いたのか、やがて声を潜めると、そのまま小さくなった。
項垂れた幸村くんが、あ、あの・・・と呟いて、頭を下げる。
「 ・・・すまぬ、殿・・・ 」
「 ん、わかればよろしい 」
こくり、と納得したように頷いて、私は自分の席に腰を下ろす。
そして机の脇にかけてあった鞄の中から取り出したのは、ピンク色の風呂敷に包まれた自分のお弁当。
幸村くんの清々しいほどの食べっぷり見てたら・・・じゃないけど、私もお腹空いちゃった。
少しだけ頬が緩んで、うきうきしながらお弁当の包みを開・・・こうとする手が、ふいに止まる。
「 ・・・・・・・・・ 」
・・・さっきじと目で睨んで怯んだ時、あんなに簡単に許してあげるんじゃなかった。
そうじゃなきゃ・・・幸村くんが、何でこんなに瞳を輝かせて私を覗き込んでくるのかわかんないっ!
「 ・・・あ、こ、これはすまない殿!某は、決してそなたの弁当が羨ましいなどと・・・! 」
「 あ、そ。とりあえずその涎、拭いたらどうかな 」
「 ・・う・・・うむ・・・ 」
制服の袖で口元を拭った幸村くんは、私の冷たい言動など気にせず、目を輝かせて覗き込んでくる。
じ、と見つめてくる視線が、本当に無邪気だから・・・何だか私の方が恥ずかしくなってくるじゃない。
( そんなことないってわかってるけど、見つめられてるっていうか・・・! )
「 殿のお弁当は、とても美味そうな弁当でござるな 」
「 そう?どこにでもあるような、至って一般的なお弁当だと思・・・ 」
「 そんなことはござらぬッ!と、て、も!美味そうでござるぁああああッ!! 」
「 ゆっ・・・ゆゆゆ幸村くんっ!目立ってる、目立ってるってばっ!! 」
同じように昼食を食べようとしているクラスメイトたちの視線を感じて、慌てて幸村くんの口を押さえる。
何でもない!というように、集まった視線に笑顔を返し、彼の首根っこを引っ張って強制的に着席させた。
「 わ、わかった!そこまで褒めてくれるなら、今度幸村くんにもお弁当作ってくるよ 」
と言うと、え、と彼が顔を上げる。
「 殿は、自分で作っておるのか?? 」
「 うん。でも夕飯の残りを自分で詰めてるだけだよ。それでも、いい? 」
申し訳なさそうに尋ねたが、幸村くんはこくこくこくこく!と何度も首を上下に振った。
顔を上げた彼は瞳を潤ませ、嬉しそうに笑った。その不意な笑顔に、自分でも驚くほど・・・心臓が、跳ねた。
「 ああ、もちろん!すごく楽しみでござるっ!! 」
う、うん・・・と戸惑ったような私の返事は、彼に届いたのだろうか。
頬を赤らめる私は、無意識に視線を外そうとするけれど、幸村くんの真っ直ぐな瞳はそれを許さない。
こ・・・んなの卑怯、だ。私、彼のこと『 そんな風に 』思ったことなんて今まで一度も無かったのに。
「 ( これじゃまるで、恋、してるみたいじゃない・・・! ) 」
とりあえず、明日のお弁当を喜んでくれて、またこの笑顔見れたら嬉しい・・・かな。
となりの幸村くん
( 某だって、そなたはこんな風に笑うのか、と気づいたら・・・弁当より、殿が気になるのだ・・・ )
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