えー、それでは今日はこれで、という声に顔を上げる。
 予想以上に集まっていた視線にぎょっとするが・・・この視線の先は私、じゃない。






「 眠っている政宗は放っておいて、今日はこれにて解散ってことで 」






 教壇に立った委員長が、ぱん、と拍手し、一同が席を立つ。私もノートを閉じて慌てて鞄にしまう。
 こ、このままじゃ置いていかれちゃう!先週も、先々週も、その前も、その前の前もそうだった!!
 焦燥感に駆られて席を立とうとすると、委員長が足音も立てずに近づいてくる。
 身体を強張らせ、恐る恐る見上げた私へ眼鏡を持ち上げて見せると、その縁が射光を浴びて光った。


「 申し訳ないけどちゃんさ、政宗が起きるまで待ってやって。置いて帰ると怒られるし 」
「 い・・・委員長、あの、どうして私なんでしょう、か・・・ 」
「 それは本人に聞いて。二人きりになれるよう、政宗はわざとこーいう状況作ってるらしいから 」


 付き合わせる俺たちは堪ったもんじゃないけど、と呟いて、委員長は踵を返す。
 その背中を引き止めることも出来ず・・・私は、諦めて元いた席に座る。
 溜め息を吐いて、委員長の言葉を反芻して待つことしばらく・・・僅かに身じろぎする声がした。
 はっと顔を上げて、すぐ隣の席に突っ伏していた彼の顔を覗き込む。


「 政宗先輩、目が醒めましたか? 」
「 ・・・か。委員会は終わったか 」


 はい、と答えると、彼は大して気にした様子もなく、そうか、と呟いて身体を起こす。
 そして欠伸と共に大きく身体を伸ばした。長い前髪をかきあげて、窓から差し込む夕陽へと視線を向ける。
 ふいに振り返ったので、見惚れていた私は反射的に身体ごと顔を背けるが、浮いた手が捕まり引っ張られる。


「 なあに、取って喰ったりしねえから・・・しばらく此処にいろ、な? 」


 政宗先輩に捕まえられた手に、より深く指が絡ませられる。
 かっと頬の熱が上がったのが解った。でも・・・不思議と、振り払う気にはならなかった。
 私は戸惑いながらも、すとん、と政宗先輩の隣の席に腰を下ろす。
 彼は満足そうに片目をより細めて笑う。そしてまた夕陽へと視線を戻した。
 ・・・政宗先輩の横顔、実はすごく好き、だったりする。放課後、物音の少ない空間で私はただ見惚れていた。
 すっと通った鼻筋に薄めの唇。夕陽に照らされた横顔は、雑誌で見るモデルより丹精だ。


「 ( 先輩って凄いモテるって噂があるけど納得・・・でも・・・ ) 」


 首を傾げた私は、向けられていた視線に気づいて再びどきっと身体を固まらせる。
 政宗先輩がこちらを見ていた。オレンジ色の世界の中で、彼の左目だけが煌々と輝いていた。


「 ・・・の考えていることを当ててやろうか 」
「 えっ!? 」
「 そうだな・・・例えば、どうして俺がいつも委員会では寝ているのか、とか 」
「 ええええっ!?ど、どうし、て・・・! 」
「 俺にはお見通しだ。というか、さっき成実に聞いただろう?
  、本当は『 答え 』気づいていたはずだ。俺がお前と二人きりになりたい理由に、な 」


 じゃ、じゃあとっくに起きていたんですか!?という私の質問に答えは返って来なかった。
 椅子から立ち上がり、すぐ傍に立ったままの私を見つめる。
 真剣な眼差しに、自分より背の高い政宗先輩を無言のまま見上げると、彼は自信たっぷり微笑む。


「 ・・・そろそろ理由を知りたいか、 」


 こくり、と緊張に喉が鳴る。睨まれた蛙のように圧倒されていたのに、何故か私は頷いてしまった。
 ふっと頬を緩めた彼が降ってくる。長い前髪が私の顔を覆い、自然と瞳を閉じた。
 ・・・私自身、この瞬間を『 予感 』していたような気がする。
 先輩が二人きりになる状況を作っていたって本当は気づいていた。でも・・・まさかって、思ってた。




 だ、だってそうでしょ!?それが『 答え 』なら、政宗先輩が、私のこと・・・・・・。




「 ( き、期待してもいいってこと、ですか・・・? ) 」
















 ハートならとっくに射られている。彼の、曇りない眼差しに。
















 世界を満たすオレンジの光の中、重なったふたつの影。境界を越えれば、もう後には・・・引き返せない。






となりの政宗先輩



( 教えてやるよ、。もう誰にも邪魔されない時間の中で、俺の心も、魂までもを、全部・・・な )

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