「 どうして・・・どうして私を理解しようとしてくれないのだッ! 」








 悲痛な声は、開いたままの扉の向こうから聞こえた。
 屋上まであと数段、というところで、一瞬・・・足が止まってしまう。
 ふう、と小さな溜め息を一つ吐いて、私は昇りきる。
 彼が閉め損ねた扉を閉めて、金網の向こうへと叫ぶ背中へ、後ろからそっと近づいた。
 振り向かなかったのに、か、と言われた・・・何だ、お見通しだったんだ。


「 はい。これ、姜維の分ね 」
「 ・・・ああ、ありがとう・・・ 」


 買ってきた缶ジュースを渡すと、崩れ落ちるように座り込んだ彼の隣に腰を下ろす。
 屋上の金網に背を預けて、2人で缶ジュースのプルタブを開けて口元へと運ぶ。
 喉を鳴らして飲み干すと、姜維が大きく息を吐き出した。そのまま・・・肩も落ちていく。
 ・・・声をかけることが出来なかった。何を言っても、落ちた肩が元通りになるとは思えなくて。
 彼をどう慰めていいものか迷っていた私に、彼の方から声をかけてきてくれた。


「 は・・・私のことをどう思う? 」
「 へっ!? 」


 ・・・と・・・突然、何も脈絡のない『 言葉 』に声が引っ繰り返る。
 ついでに手の中の缶ジュースも・・・というところで慌てて正気に戻り、零すことは無かった。
 ほっとしたのは良いけれど、彼に再度問い質す勇気もなく、そのまま固まっていた。


「 私は当然のことをしたまでだ。なのに、あんなに意見が分かれるなんて・・・。
  なあ、正直に答えて欲しい。君にとっても私は『 しつこい奴 』だったか!? 」
「 ・・・あー、そういや誰か、姜維にしつこい!って叫んでたもんねぇ・・・ 」
「 ああ・・・ホームルームを何度も潰してまで意見を求めるのはしつこいし、面倒だと 」


 学級委員である姜維が、クラスの意見をまとめて生徒会に報告する役目を担っているのだが。
 思いのほかまとまらず・・・締切日である今日を迎えてしまったのだ。


「 担任の諸葛亮先生もいないし、テスト終わったばかりだしね。ちょっと殺気立ってたんだって 」
「 だが今日が締め切りであることは皆知っていたはずだ!なのに、協力してもらうどころか・・・ 」
「 あははははっ! 」
「 何故笑うのだ、!そ、そこは・・・ 」


 慰めて、欲しいというか・・・と、最後に小さく呟いて真っ赤になった姜維が、膝を抱えて背を丸めた。
 耳まで染まったその『 紅 』に、苦笑交じりの笑顔を浮かべる私。
 缶の淵に口につけると一気にあおる。青い空を仰ぎ、最後の一滴まで飲み干して足元に置いた。
 コンクリートの床に軽い音が鳴ると同時に、私は丸まった姜維の身体を抱き締めた。
 驚いたような彼の震えが伝わったけれど・・・そんなことじゃびくともしないくらい、強く。


「 大丈夫だよ、姜維。心無い言葉を吐く奴もいたけど、最後にはクラスの意見、まとまったじゃない。
  何だかんだで姜維ならまとめられるって思ってるから、皆、頼りになる姜維に甘えているんだよ 」
「 そ・・・そう、だろうか・・・ 」
「 そうだよ! 」


 彼は少しだけ顔を上げて、抱き締めていた私と見つめ合う。
 その距離の近さに戸惑ったのか、すぐに目を逸らしてまた俯いてしまった。
 ・・・っと、まあ、確かに?至近距離過ぎて、これじゃ姜維でなくても照れちゃうよね・・・。
 いくら幼馴染って言っても近すぎたかな、と離れようとした私の腕を強い力が引っ張った。
 小さく悲鳴を上げて振り返ると、真っ赤になったままの姜維が必死の形相で迫ってきた。


「 ・・・も、だろうか!? 」


 何に対して『 も 』なのだろうか・・・??
 きょとんと首を傾げた私に、だから!と歯がゆそうに彼が言った。






「 も、私を頼りにしてくれているだろうか・・・甘えたいと、思ってくれているだろうか! 」












 ・・・ほんと・・・姜維って、真面目で純情というか・・・空気を読まない、というか。
 ( そんなところが愛しくて、もう正直『 幼馴染 』なんかじゃいられないっていうか・・・ )












 にやけそうになるのを必死に堪えて、腕を掴んでいる姜維の手を、両手でぎゅっと握り締めてあげる!


「 もっちろん!姜維のこと、誰より頼りにしてるし、これからも目一杯甘えるから覚悟しておくよーに! 」
「 ・・・ああ!この姜伯約、のためならいつでも力になるからな!! 」


 破顔した姜維が、同じように私の手をぎゅううっと握り返すと、ぱっと立ち上がった。
 生徒会室に行って報告してくる!と飛び出していった彼の顔といったら・・・それはもう満足そうで。
 慌しく階段を駆け下りる音が去り、静寂が訪れると、何だか笑いが込み上げてきた。
 開放された私の笑い声が、誰もいない屋上に響いて・・・ひとしきり笑うと、今度は少し気恥ずかしくなる。




「 いつでも力になる、か・・・ 」















 だったら、ずっと私の傍にいてよね、姜維。


 私の『 となり 』は、貴方の為に空けておくから、さ。















 律儀な彼のことだ。生徒会への報告が終われば、きっと戻ってくるだろう。
 それまでは・・・大いにニヤニヤしながら、彼の帰りを待っているとするかな。






となりの姜維くん



( 万人に嫌われても、、貴女という味方が一人いれば、私は誰よりも強くなれるのだ )

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04.政宗先輩 05.趙雲先生



10.姜維くん

最後までありがとうございました!!