指輪の裏に刻印やメッセージをお入れできますか、いかがいたしますか?




 そう尋ねてきた店員に、は驚いた顔をして、次に俺を見上げた。
 小太郎さん、どうしよう・・・と呟くが、彼女の中にある『 好奇心 』を見逃さない。
 こくり、と頷いて見せると、瞳を輝かせたは、お願いします、と瞳を輝かせて告げる。
 席を外した店員を見送って、カバンから携帯を取り出すと、さっそくとばかりに調べ始めた。

「 うーん、どういうのがいいかな・・・色んなパターンがあるみたいなんです 」

 ほら、と見せてくれた携帯電話を一緒に覗き込む。
 入籍した日付を入れたり、お互いへの思いや誓いを刻むのがセオリーらしい。
 ひと通り調べて吐いた溜息は、人気の少ない店内の片隅にそっと響いた。
 
「 これだけあると迷っちゃいますね。小太郎さんは、どんなのがいいですか? 」
「 ・・・・・・・・・ 」

 彼女の問いかけに、考えるように天井を見上げた。
 日付でもいいが、個人的には何かメッセージ性のあるものが良い。

「 ( 俺は・・・彼女に『 声 』を送れないから ) 」

 名を呼ぶこともできず、辛い時に慰めることも励ますこともできないから。
 せめて・・・彼女のために立てた誓いだけは、忘れずにいてくれたら嬉しい、と思う。
 を見て、ぱく・・・と口を動かせば、唇を読み取った彼女はにっこり笑ってくれた。

「 はい、私もメッセージがいいと思っていました!あとはどんなメッセージにするかですよね 」

 そう言った刹那、俺は携帯の画面をスクロールしていたの手を取る。
 え、あっ、あの小太郎さんっ!?という、慌てたような声は敢えて無視して。
 の、細く長い指をスクロールさせて・・・そこに辿り着いた。
 顔の熱が下りてきたのか、熱を孕んできた指先を開放してやると、今度は自分で指差す。
 彼女はあわあわと動揺していた様子だったが、ようやく俺の仕草に気付いて、一緒に画面を覗き込んだ。

「 I'LL BE WITH YOU FOREVER (ずっとあなたと一緒です) ・・・? 」

 声に出して読むと、そっと俺を見上げたのを確認して、こくりと頷く。

「 ( 、俺は・・・君への愛を、そこに誓わなくてもいいと思ったんだ。
    なぜなら俺の気持ちは、不変的なものじゃない。
    今日よりも明日、明日より明後日、日々膨らんでいくから。その都度、君に伝えたい ) 」

 俺は声を持たないから。その分、その時伝えられる言葉すべてで、に誓いたい。
 だから、そこに刻みたいと思うのは『 愛 』じゃなくて・・・。

「 ( 辛い時も嬉しい時も、は決して一人じゃないということ。俺が傍にいるということ。
    俺が死んだ後は、風になっての傍にいる。最期の時まで・・・絶対、傍にいるから ) 」




 それが、俺の愛。寂しがり屋で、少し涙もろいところのある彼女に、俺ができること。




 口の端を持ち上げて見せると、の眉が一瞬八の時に歪むが・・・涙は堪えたようだ。
 うん・・・と納得した様子で頷くと、彼女も俺に微笑んでみせる。

「 すみません、メッセージが決まったのでお願いできますか? 」

 手元のベルを鳴らすと、奥から顔を出した店員に声をかける。
 少々お待ちください、と再度引っ込んだ隙に、彼女が俺へと向き合った。

「 私も・・・小太郎さんの傍にいます。小太郎さんが風になったら、私も風になって寄り添いたい。
  貴方を『 想う 』こと・・・それだけは絶対に止めないって、私も小太郎さんに誓いたいから 」




 今は・・・こうして温度を感じられる距離にあっても、いつか必ず離れてしまう時が来る。
 死が分かち合うその日まで。俺は彼女の、は俺の傍にいる。

 指輪に刻んだメッセージの通り、ずっとずっと、いつまでも・・・。












 は、膝に置いてあった俺の手に自分のを重ねる。俺はその手を、ぎゅ、と握り返した。


ディア ブライド

《指輪選び編》

( こうして結ばれることは、偶然なんかじゃない。だから指輪に、魂に、この想いを刻み込もう )

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