その場に立ち尽くし、ぼんやりと背後を振り返る彼女。




「 どうしたんだい、 」




 そう尋ねた声に反応して、こちらへと顔を向けた彼女は、何とも形容しがたい表情をしていた。
 つられて怪訝そうな顔をした自分を見て、慌てたように彼女は何でもないのと手を振った。

「 なんか、さ・・・実感湧かなくて。想像はしていたけど、本当にあっさりだなって 」
「 ・・・うん、まあ、そうだね 」

 言われてみればそうかもしれない。
 後ろを振り返ると、同じように婚姻届を出したカップルらしき男女がいた。
 職員がおめでとうございます、と言うと、二人が頭を下げた。つい先ほど私たちがそうしたように。
 珍しくない光景なのだろう。他の誰も振り向かないし、声をかけるでもない。

 婚姻届を提出する。そして受理される。

 ここに至るまで色々あったと思うのに、結婚なんて、書類一枚で成立してしまうのが現実だった。
 今しがた『 結婚 』したばかりのは、昔から結婚願望が強く、随分この日を夢を見ていたらしいから。

「 ( 確かにショックを受ける気持ちは、さすがの私にもわかる ) 」

 自分の胸にさえぽっかり空洞が空いた気分だから、彼女は尚更だろう・・・。












 役所を出ると、まだ日は高かった。
 今日はお互い休みをとったから、平日のこんな時間に二人でいるのは不思議な感じがする。
 10分前までの高揚感はなく、帰り際は何だか寂しい・・・。
 自然と溜息を吐いてしまうと、いきなりが私の前に回りこんできた。
 興奮しているのか、少し頬を染めて、勢い良く私との距離を詰めてきた彼女の様子に・・・面を食らう。

「 あのっ、あのね、姜維!!私、いい奥さんになるから!! 」

 瞬きを繰り返す私の様子に気づいてか、今度はバツが悪そうに小さな声で呟いた。

「 あ・・・私、特に可愛くもないし、取り柄もないけど・・・姜維が誇れるような奥さんになるから!
  料理もお掃除も頑張るし、姜維に迷惑かけることはしないって誓うし、それから・・・ 」
「 ・・・・・・ 」
「 だから・・・だから、そ、その・・・これからも、よろしくね・・・? 」

 彼女は申し訳なさそうに肩を竦める・・・どうして、そんな風に縮こまっているのだろう。

「 ( ああ、もしかして・・・さっきの、溜息・・・ ) 」

 閃きに顔を上げると、彼女と目が合う。すると、視線を逸らして更に小さく丸まってしまった。
 ・・・の目には、私が後悔しているように見えたのだろうか。
 だとしたら、それは大きな勘違い。彼女以上の人はいない。
 私が隣にいて欲しいと願うのは、目の前にいる『  』だけなのに。

「 ( でも・・・そう見えてしまったというなら、私の落ち度だ ) 」

 人一倍、結婚願望の強い彼女こそ、本当は心底落胆しているはずだ。
 そんな彼女に気を遣わせるなんて・・・私こそ『 夫失格 』かもしれないな。

「  」

 でもだからこそ、失敗しては2人で手に手を取って立ち上がろう。
 今はまだ、『 夫婦 』として未熟で当たり前。
 私とは、夫婦となった今日、これまでとは別の新たな関係を築いていくのだから。

 胸元で握りしめていた彼女の手を取り、そっと自分の両手で包み込む。
 小さな手はすっぽりと私の中に収まった。姜維・・・との緊張した声が、私を呼ぶ。






「 私だって同じだ。自慢できるのは・・・貴女を想うこの気持ちだけだ。他は何もない。
  でも、を生涯幸せにすることだけは約束するよ。だから・・・私の方こそ、よろしく 」






 自然と微笑みが浮かんだのが解った。

 も、笑う。さっきとは違って、今度は幸せな気持ちが伝染したかのように・・・。
















 嬉しそうに頷いた彼女の手を繋ぎながら。
 いつでも『 伝染できる 』距離にいられるよう・・・そっと心の奥で祈るのだった。


ディア ブライド

《入籍編》

( 貴方への想い以外、何もない。だから、今日ここから築いていこう・・・思い出も、絆も )

title:fynch

拍手、有難うございました。貴方の拍手が、私の元気の源です。

01.真田幸村 02.風魔小太郎 03.姜維
04.石田三成 05.陸遜



10.?( secret )

10回拍手を押すと表示されます( 途中はお話が繰り返されます )