三成、と呟いたが、そのまま息を呑むのが解った。
・・・息を呑んだのは、私も同じだ。
声につられて振り返ったそこには、純白のドレスに身を包んだ彼女の姿。
「 ・・・綺麗だ・・・ 」
と、思わず呟いた口元を抑えるが、零れてしまった言葉は元に戻しようがない。
黄色い声を上げて飛び上がるのを覚悟して、耳を塞ごうとしていたが・・・。
その日ばかりは違っていた。はにかむように微笑んで、ありがとう、と頭を下げるだけだった。
「 ・・・・・・? 」
いつもと違うの反応に、こほん、とひとつ咳払いをして彼女の正面に立った。
「 ありがとう。ねえ三成、本当に私、きれい? 」
「 あ・・・ああ、嘘は言わない。ドレスも、よく似合っている 」
「 嬉しいな。うん・・・ほんと、嬉しい 」
珍しく謙虚なにつられて、私も滅多に言わない素直な台詞を口に出してしまう。
けれど、それに気付いている様子はなかった。からかうこともなく、素直に受け入れている。
これが当然の反応だ思いつつも、予想外の反応に何故か落ち着かない。心の底がむず痒いのだ。
・・・原因は、ドレスを着ているせいだけじゃない。は・・・。
「 不安なのか? 」
そう言うと、彼女の肩が大きく震えた。
そして、参ったなぁ・・・と言ってくしゃりと苦笑い。
「 不安だよ。三成のお嫁さんが、本当に私でよかったのかなって。
今、私が逃げちゃえば、三成はもっと素敵な人と結婚できるかもしれないでしょ? 」
悲しそうな、寂しそうな。
だけどとても純粋なものに見えるのは、彼女の本心から浮かぶ笑みだからだ。
もし、私がいつものように強く言葉を発すれば、彼女は本当に私の腕をすり抜けて行ってしまう予感がした。
だから・・・せめてこんな時は、私も素直になりたいと思う。彼女の気持ちに寄り添いたいと思う。
「 ・・・み、つなり・・・? 」
おずおずと私の背中へ回される腕。
ゆっくりと距離を詰めて、壊れ物を抱くかのように・・・両腕での身体を包み込んだ。
・・・に、傍にいて欲しい。
傍にいろ、と命令するだけではもう満足できない( 離れていった時の孤独に耐えられないからだ )
彼女が居たいと思うような人間に・・・私自身が成らなければならないことは理解している・・・。
「 ・・・私が結婚したいと思うのは、お前だけだ。
どんなにこの広い世界を探しても、お前以上に必要な人間はいない 」
どうすれば、伝わるのだ・・・?
私がこんなに切望していると。この想いを、伝えるには・・・。
「 生涯、お前にふさわしい私で居よう。
私にはお前しか居ないように、ももにとっての唯一になれるよう・・・ど・・・努力、する・・・!! 」
ぽかん、と口を阿呆のように開いた。
しばし、無言のまま見つめられていたので、その気まずさに顔が火照ってきたのだが・・・。
三成の口から努力なんて言葉が聞けるなんて・・・と、何とも無礼千万な台詞が聞こえた。
ぷつりと何かが切れた拍子に怒鳴ろうと、彼女を見やれば。
「 なっ・・・泣くほどのことでもないだろうッ!! 」
「 あはは、ごめんごめん・・・・・・っ、嬉しくて・・・ 」
笑いながらも、安心したのかさめざめと泣くに怒る気も失せて、私はそっと指の腹で涙を拭う。
涙の中、彼女は化粧が落ちるのも厭わずに、ようやく幸せそうに微笑んだ。
・・・何も言わずともわかった。彼女が、今どれだけ私を思ってくれているか、なんて。
「 ありがとう・・・三成 」
心臓が、うるさい。
無意識に彼女へと手を伸ばすと、は静かに瞳を閉じた。
燦々と差し込む陽の光の中、どちらともなく交わしたキスは・・・初めて交わした時のように、甘かった。
ディア ブライド
《式の前編》
( すき、それだけじゃ片付かないこともいっぱい在る。結婚するってその覚悟も含めて、だ )
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