” 手、繋がない主義だから ”


 そう言ったのは、自分でも恐ろしいほど恥ずかしかったから。
 ・・・彼女が、そっと俺の掌に指を伸ばす。
 ほっそりとしている、白い指。
 綺麗に切りそろえられた、健康的な色の爪。
 

 つ、と触れた瞬間。
 まるで氷に閉ざされた世界が、突然春を迎えるように。
 身体中の血が駆け巡る。物凄い速さで。


 ふと目に入った、カップルの姿。
 仲良さそうに、二人並んで歩いていた。
 自然に、ごく自然に絡んだ二つの腕に。




 ・・・俺らも、他から見ればカップルに見えるのか・・・?




 伸ばしかけた手が、ゆっくりと・・・ポケットに戻る。
 その仕草に、彼女がとても傷ついた表情を見せた。
 咄嗟に後悔したけれど。
 あの時は・・・それ以上どうしようもなかったんだ。










 ・・・この気持ちが何なのかわからない、俺には・・・・・・










 そして、一ヵ月後の今日。


 もう何度目かわからない、彼女のお誘い。
 絶対・・・嫌われたと思って・・・俺、落ち込んでたのに。
 何だよ、鈍感なヤツ!


 タンスの奥からとっておきの服を出して、鏡の自分に当てた。
 いつも以上に時間をかけたヘアセットの最終チェック。


 なんだかんだで、振り回されてるな・・・俺。
 でも、そんな”自分”を、嫌いじゃなかった。
 ・・・何だか、くすぐったい。
 彼女に逢えるのが、嬉しくて、堪らなくて。


 もう一度・・・
 あの瞬間を迎えることがあったら、と考える。
 触れたら折れてしまいそうな、手を。
 ・・・今度こそ、そっと握って。






 あんなに辛い・・・胸の痛みは、もう嫌なんだ






「 ああっ!!もう・・・っ!ヤメヤメ!! 」


 似合わないんだよ!俺には!
 とにかく!そろそろ駅に向かわないと間に合わない。
 俺は、秋空の下へと飛び出した。








 ・・・どうか
 今度こそ、ありのままの幸せを・・・


 この俺の小さな掌に、受け止められますように





04:芽生えた心は


浮かんで消えて



chirpyより








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  01 アイスのように溶けてしまいたかった   02 赤い糸の上はわたれない
  03 生まれ変わって裸足で跳んで   04 芽生えた心は浮かんで消えて   05 君の毒に虜になって