その境界を越えてしまったら
 俺を待つのは、白い未来か、黒い未来か




「 わ!見て、凄いよラビ!! 」


 もし、星が瞬く音があったとしたら。
 きっと絶えず響いていて、世界はさぞ煩いだろう。
 ・・・と、思うくらいの、満天の星。
 空気がとても冷たい、冬の日。
 けれど二人きりになれるのは、任務先だけだろうから。
 思い切って、彼女を誘い出してみる。


「 星が綺麗だね 」


 喜んだ様子の彼女を見て、自分の選択が間違っていなかったことを確信する。


「 だな。ちょっと寒いのだけが難点だけど 」
「 ふふ、冬の空が一番綺麗に見えるから、仕方ないよね 」


 淡い色のマフラーに顔を埋めて、クスクスと笑った。
 彼女の唇から漏れる白い吐息も、寒さのせいか桃色に染まった頬も。
 冬風にたなびく髪も、美しくて一瞬たりとも目を離せない。


「 ・・・ラビ? 」


 はた、と彼女と目が合って。
 俺は慌てて視線を逸らす。


「 何でもないさ 」


 ヤバ・・・今、俺ってば見惚れてたさ!?
 自分でもワザとらしいな、と思うけれど、それ以上のことが思いつかなかった。
 彼女は「 そう 」と言ったきり、追求しなかった。


 ・・・それも、彼女の優しさ・・・なんさ


「 あ、オリオン座! 」


 ぴっ!と指差した先に、並んだ三ツ星。
 俺は、彼女の隣で足を止めて、視線を追いかける。


「 オリオンってさ、恋人だったアルテミスに殺されたんだよね? 」
「 そうさ。アルテミスの兄の怒りを買い、殺すよう仕向けられたんさ 」
「 二人は・・・恋に落ちなければ良かったと、後悔しているかしら 」


 猟師だったオリオンは、女神アルテミスに恋をしなければ、死ななかった。






 最初から、出逢わなかったら?
 そうすれば、誰も傷つかずに済んだんさ?






「 ・・・いや、後悔なんかしてないさ 」


 恋を知っているから、世界はこんなに美しい。
 貴女と過ごす時間が、こんなに愛しい。


「 そうね。私もナンセンスだと思う 」


 と、彼女は振り向いて微笑んだ。
 月夜が、彼女の顔を青白く照らしたのに、ほんのりと頬が赤い。








「 出逢って恋に落ちることほど、素敵な奇跡はないもの 」








 胸が・・・・・・きゅぅ、と締め付けられた。
 彼女の微笑みも、言葉も・・・全部、全部、心に刺さって。
 再び背を向けて、歩き出した彼女の肩へと手を伸ばす。
 使命と理性がせめぎあう、このカンジ。
 嫌というほど戦ったけれど・・・今、終止符が打たれようとしている。









 その境界を越えてしまったら
 俺を待つのは、白い未来か、黒い未来か









 ・・・それは、彼女をこの腕で抱き締めてみればわかること







03: ボーダーライン


Air.より








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  01 雨が降ってる   02 過ぎた日の約束は   03 ボーダーライン   04 恋はオレンジ色   05 戦う者へ