名前を読んだら、起こしてしまいそうだった




 ソファの上で、いつの間にか眠ってしまった彼女。


「 仕方ないわね 」


 と、呟いた自分は、どこか嬉しそうだと思った。
 幸せそうに瞳を閉じている彼女は、キスを待つお姫様のよう。


 ・・・こんな無防備な彼女の姿を拝めるのは、きっと私だけ。


 親友の特権ってやつね、と呟いて、部屋の奥へと向かう。
 寒そうに丸まった彼女の肩に、取り出したブランケットをかけた。


「 ・・・何かしら 」


 胸に抱えたモノ。
 ふと目に付いて、どうしてもそれを見たくなった。
 そ・・・っと、腕の隙間を縫って、指先で引きずり出す。


 それは、一枚の写真。
 セピア色の、小さな少女たち。
 はにかんだ顔は、今も面影を残している。
 そして、今でも変わらない・・・私たちの関係。


「 変わってしまったのは、私、だけ・・・ 」






 ・・・私の、気持ちだけ






 どうして、気づいてしまったのかしら
 気づかないで済むのなら、一生気づかないほうが良かった
 こんな苦しい想いに、悩むことなんてなかったのに






「 ん・・・ 」


 ビクリ!と肩が震えた。
 寝返りを打った彼女は、まだ夢の世界を彷徨っている。
 私は苦笑して、ブランケットを掛け直す。


 ふと触れた、彼女の髪。
 一本一本が、細い糸のようだった。
 大切なモノを愛でるように、そっと撫でる。
 さらり・・・と音が零れた。


 指先は、そのまま頬に触れる。
 ちょっと前に悩んでいたニキビの跡が、残っていた。
 ストレス解消よ!と叫んで、夜中にジェリーさんを起こしてまで
 甘いものばかり食べていた時があったっけ。


「 もう、触っちゃダメだって言ったのに・・・ 」


 赤くなったそれに、触れるのを避けようといて。
 ふと、胸が高鳴ったのがわかった。




 唇。




 愛も、呪いも、すべてを紡ぐ。
 柔らかくて、クリームのように魅惑的だった。
 侵すことの出来ない領域に、踏み込んでしまった気がして。
 私は、手を引っ込めようとしたのに・・・指が、離れない。


「 ・・・・・・・・・ 」


 ・・・一瞬だけ。
 それで、全てが終わるから。幸い、彼女は夢の世界だ。
 心のどこかで、警鐘が響く。






 貴女に完全に、完璧に、固執してしまう前に
 どうか、この手で終わらせたいの


 だから・・・このまま・・・




 ・・・もう少しだけ、眠っていて




 幼い頃と同じ、可愛い寝顔に見惚れながら
 貴女色に染まる前に、別れを告げよう










 今度は、絶対・・・” 叶う ”恋でありますように







04: 恋はオレンジ色


Air.より








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  01 雨が降ってる   02 過ぎた日の約束は   03 ボーダーライン   04 恋はオレンジ色   05 戦う者へ