彼女を見送る時ほど、辛いものはない




 溜まった書類の、一番上にある探索部隊からの報告書。
 そして、手元にあるのは・・・・・・。


 コツ、コツ


 小さなノックの音に、ピクリと耳が反応する。
 ・・・それもそのハズ。
 きっと、来る頃だと思っていたんだ。


「 やあ・・・準備は出来たかい? 」
「 はい 」


 こくん、と頷く様は、まだまだ子供だ、と思った。
 手元にある書類を、もう一度確認する。
 彼女の年齢は、僕よりうんと低いのだから、仕方のないことなのだろう。


「 レベルは低くとも、AKUMAであることには変わりない。気をつけてね 」


 報告書によれば、LV.1程度のAKUMAだから、
 入団間もない彼女でも、どうにか太刀打ちできるだろう。


「 コムイさんのご期待に添えるよう、頑張ります! 」


 そのセリフに、僕は苦笑する。






 ・・・期待、か。


 ”期待なんてしていないよ”と言ったら、気を悪くするだろう。
 でも”期待してるよ”と言って、彼女が命を落としてしまったら、と考える。


 いやいや、考えたくない。考えられない。






 ・・・君が、居ない、世界、なんて・・・






「 ・・・コムイさん? 」
「 ん?あ、もう時間かい?? 」
「 はい、そろそろ行かないと・・・ 」
「 ・・・そう、だね。いってらっしゃい! 」


 トランクの柄を握って、彼女が立ち上がった。
 それでは、と踵を返す。黒いスカートが翻った。
 ・・・あ


「 え!? 」


 彼女の驚いた声。でも、一番びっくりしているのは、僕自身。
 右手が・・・・・・翻ったスカートの端を、握っていた。
 メガネがずるり、と傾き、頬が熱くなった。
 遅れて、彼女も顔をトマトのように真っ赤になった。


「 う・・・わ、ゴメンっ!!! 」


 慌てて、僕は掴んでいた裾を離す。
 彼女は恥ずかしそうにスカートを整えて、俯いた。
 ・・・少しの間、沈黙。
 しかし、時計の針は無情にも出発時刻を指そうとしている。


「 ・・・引き止めてゴメン。でももう、時間だから、ね? 」


 ・・・トン


 軽い振動。団服の上からでもわかる、細い腕がそっと背に回る。
 被っていた帽子が、ゆっくりと地面へと舞った。


「 私、必ず帰ってきますから・・・期待してて下さいね 」


 ふわりと漂った彼女の甘い香りに、クラクラする。


「 ・・・うん、期待、してるよ 」


 僕も、彼女の背に両腕を回した。ぎゅ、と抱き締める。
 彼女の腕にも力が入り、僕の胸に顔を埋めた。






 ・・・その顔が、とても幸せそうに見えたので
 僕は、思わず泣いてしまいそうだった










 青空の下・・・僕も、彼女も、微笑んでいる


 彼女の笑顔を護ることこそ、僕の使命










 素敵な未来を夢見て・・・僕らは、今日も戦うんだ






05: 戦う者へ


Air.より








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  01 雨が降ってる   02 過ぎた日の約束は   03 ボーダーライン   04 恋はオレンジ色   05 戦う者へ