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そいつを殺したのには、珍しく理由があった。
 
 
 
 昨日、偶然に見てしまったんだ。
 幸せそうに微笑みあう二人。繋いだ掌。
 たった今殺した男の肩に、頬寄せる・・・彼女の姿を。
 
 
 
 
 
 
 
 
 許せなかった、殺してやりたいと思った
 
 
 だから殺した( 快楽が味わいたくて殺ったんじゃない )
 だから殺した( むしろ彼女は大きな悲しみに暮れるだろう )
 だから殺した( その痛みさえ彼女が俺に与えるものなら受け取ろう )
 
 
 
 
 
 
 
 
 山の上は、ただでさえ空気が薄いのに。
 俺の目の前に広がる花畑へ、一直線に駆けて来る彼女。
 その愛らしい姿を、まぶしそうに瞳を細めて見守る。
 
 
 「 こんにちは 」
 
 
 胸を宥めて、乱れた呼吸を必死に落ち着けようとしている。
 邪気の無い笑顔に、シルクハットを軽く上げてみせた。
 
 
 「 こんにちは 」
 「 ・・・あの、失礼ですがお一人ですか? 」
 「 ん、どうして? 」
 
 
 だって・・・と、困惑した表情で辺りを見回す。
 色とりどりの花が咲き乱れる、彼女の足元に。
 
 
 「 此処で、待ち合わせでもしてたの? 」
 「 そう、なんです。大事な話があるって・・・ 」
 
 
 
 
 
 
 ・・・君の尋ね人がいることも、知らず・・・
 
 
 
 
 
 
 「 あの、見ませんでした?これと似たような服を着ているんですが 」
 
 
 両肩を摘んで、エクソシストの証たるコートを指し示す。
 胸の十字架・・・ローズクロイツっていうんだったな。
 
 
 「 ・・・いや、残念ながら 」
 
 
 その十字架は、男を守れず血に染まったよ。
 思わず、”黒”い自分が出てくる衝動が止められない。
 クツクツと声を殺して笑うと、不思議そうな顔の彼女。
 
 
 ・・・そんな彼女に、ひとつだけ、聞いてみたかったんだ。
 
 
 「 その彼、見つからなかったらどうすんの? 」
 「 え? 」
 「 知らないうちに、この世から消えちゃってるかもしれないじゃん 」
 
 
 
 
 君の前から、俺が消した。
 
 
 
 
 「 探します 」
 「 は? 」
 「 見つかるまで、探します 」
 
 
 微笑んだ瞳の、強い光。
 その光は、足元の濃い影をなぎ払い、死者を天国へと導く。
 別れを悲観するようなはかない少女では、ない。
 事態を受け入れ、立ち向かう強さを持つ彼女は、まさしくエクソシスト。
 ほとばしるオーラに、惹かれる。物凄い速さで。
 
 
 「 ・・・参ったな 」
 
 
 その光を消すのが、俺の楽しみであり、快楽であり。
 心の奥底から溢れる、破壊衝動。ノアの血の性。
 君を想う心と、傷つけたい心は紙一重。
 俺の中で・・・様々な思いが複雑に絡み合い、渦巻くけれど・・・。
 
 
 それでも、こんなに貴女を求めている。
 身を滅ぼすとわかっていても、誘蛾灯に惹かれる、一匹の蛾のように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ・・・決めた
 
 
 俺の、全てを、捧げる、相手
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 止められない早鐘を聞きながら
 
 
 
 
 俺は、去ろうとする彼女の背中に呼びかける
 
 
 
 
 
 
 
 
05:俺を予約してみない?
 
 
 ( 永遠に来ない待ち人より、俺を見てよ )
 
 1141より
 
 拍手、有難うございました。
 
 
 01 一人前に恋してる 02 俺だって男なんだよ 03 こども扱いのキスはやめて
 
 04 早くおとなになりたい 05 俺を予約してみない?
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