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 木枯らしの吹き荒ぶ夜だった。
 
 食事を終えたティーズをしまうと、そっと闇の中に身を隠す。
 ・・・先の見えない真っ暗な闇なんて、俺の未来そのものだ。
 
 
 
 
 
 
 コツコツ・・・と甲高い靴音が、再び響くのは、
 殺しの場所から数百キロも離れた、とある街の外れ。
 目の前に、明かりのついたレンガ造りの小さな家が一軒。
 鼻をくすぐるシチューの匂いに、昂りが溶けていく。
 ポケットから取り出したビン底眼鏡をかけて、ドアノブを引っ張った。
 
 
 「 あ!おかえりなさい、ティキ 」
 
 
 台所から顔を覗かせたのは、この家の主。
 俺は両手を広げて、最愛のヒトを抱き締めた。
 
 
 「 ただいまー 」
 「 今夜は冷えたでしょ?お仕事お疲れ様 」
 
 
 ・・・彼女は知らない。本当の事実なんて、何一つ。
 でも、知らなくていい。そう思うからこそ、教えていないんだ。
 
 
 
 
 
 
 彼女には、血まみれの『俺』なんて、似合わないから
 彼女には、『純粋』なままでいて欲しいから
 
 
 
 
 
 
 「 ・・・冷たい 」
 
 
 その小さな両手が、ふわりと俺の両頬を包む。
 じんわり伝わる温もりに、冷え切った身体も心も癒されていく。
 俺はその心地よさに・・・瞳を、閉じる。
 
 
 「 ・・・うん、すんごく寒かった 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 絡まった『黒』い糸を、真っ『白』に染め直し、解いていくのは
 彼女の持つ、『優しさ』や『思いやり』で・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 俺が忘れたものを、全部持っている無垢な彼女を、とても愛している
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「 シチュー出来てるよ。温まるから食べて 」
 「 んー・・・でも、その前に食べたいなぁ 」
 「 何を?? 」
 「 オ・マ・エ♪ 」
 
 
 ガン・・・ッ!!!
 
 
 と、鉄製のお玉が脳天直撃。予想外の攻撃に、防ぐ術もなく。
 俺は、痛みに背中を丸めて座り込む。
 
 
 「 痛ってぇー!額がズキズキするーっ!! 」
 「 冗談はやめて、食事の用意手伝ってちょーだい 」
 
 
 セリフとは裏腹に、ちょっとだけ上擦った彼女の声。
 
 
 
 
 
 
 
 
 あれ・・・何気に喜んで、る?
 
 
 
 
 
 
 
 
 俺が後ろから抱きかかえて、ベッドに直行して、朝まで抱いたら
 
 
 シチューが焼き焦げて台無しだ、と俺を攻めるかな
 それとも・・・拗ねた振りをして、顔を真っ赤にするだろうか
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 どちらでも、彼女が愛しいことには変わりがないのだけれど
 
 
 
 
 
 
 
05:
「あー……
 
 
 愛されてるって感じ」
 
 
 ( じゃれ合いも、睦言も、愛を確かめる大事なスパイス )
 
 恋する台詞
 
 
 
 
 
 
 拍手、有難うございました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 01 「幸せになるなら、お前とがいい」
  02 「悪いね、好きな子は虐めたくなる性分で」
 03 「うーんと……じゃあキス10回分で」
  04 「ちょっと黙って目ぇ瞑れ」
 05 「あー……愛されてるって感じ」
 
 
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