彼の涙を・・・初めて見たのは、ある秋の日だった。










 私たちは、大切な人を亡くした。
 心の中で・・・砂の城が崩れていくような錯覚。
 ボロボロと、ボロボロと。
 塊が、掌に降って来て、砂になって、指の隙間から足元に零れていく。


 風花の言うとおりだ。


 肉体的にも、精神的にも・・・頼りにしていた人だったから。
 自分の中で、こんなに波紋を立てるなんて。
 ・・・だからこそ、もっとしっかりするべきだったのだ。






 私以上に、動揺している人が・・・すぐ傍に、いることに。






「 あ、っ! 」
「 ・・・っと、お前か 」


 誰もいない放課後。
 その日一日は飾られている、と校長先生が言っていた祭壇に。
 こっそり彼に逢う為、体育館に入ろうとした時だった。


「 お前も・・・逢いに来たのか 」


 明彦と、入口でぶつかりそうになったのは。
 喜ぶぞ、アイツ。お前のこと、気に入ってたからな。
 ・・・と、少しだけ相好を崩して、微笑んだ。
 曇り一点ない、その爽やかな笑顔が眩しすぎて。
 顔を俯けて、零したのは・・・『 毒 』だった。


「 ・・・明彦は、どうして、そんなに余裕なの? 」


 私は、余裕で、いつでも好戦的な明彦のことが好きだったけれど。
 その日はどうしてか・・・『 大好きなところ 』が『 大嫌い 』だった。
 溜まったイライラをぶつけるように、彼を睨みつけると。
 罵って、そんな貴方が嫌いだといって・・・言葉のナイフを突き立てる。










 ・・・嫌だ。


 どうして、私は、こんなこと、を?




 明彦が・・・彼の死を悼まないハズ、ないのに。
 私なんかよりも、活動部の皆よりも。










 誰より、一番近くにいた存在なのに・・・!!










「 お前も・・・そんな気性の激しい一面があったんだな 」
「 な・・・っ!! 」


 とうの本人は、驚いたような表情をして。
 息の乱れた私を見て、感心したように頷いている。
 彼の心を傷つけたことを、たった今まで後悔していたなのに。
 そのセリフに、もう一度逆上して。
 口を開こうとすると・・・明彦の手が、覆った。


「 そんなに、俺が余裕に見えるか? 」
「 ・・・・・・ 」
「 余裕なんて・・・・・・ない 」


 明彦は、ぽつりと呟いて。
 唇に当てていた手を・・・そのまま、私の背中に回した。
 ぎゅ、っと身体を締め付けた力を感じて。


 私は、ようやく・・・彼に抱き締められているのだと、気付いた・・・。


「 ・・・明、彦っ!? 」
「 頼む・・・・・・少しの間だけで、いいから・・・ 」


 指の先まで力が入って、とても痛かったのだけれど。
 私は、明彦の言うとおり・・・そのまま、抱き締められていた。
 そのうち、少しずつ、小さな啜り泣きが聞こえてきたので。
 彼の背中に、自分の両腕を回して、優しく撫でた。


 しばらくしても・・・明彦は、泣き止まなかった。
 私もその涙につられるように、後から後から、涙が零れてきた。






 祭壇の前で・・・二人抱き合って、犠牲者を悼んだ。






















 ・・・神様。
 神様、お願いです。


 私たちの為に・・・命を失った、全ての人の魂が。
 或るべき場所に還りますよう。安らかな安息がもたらされるよう。






 どうか・・・お力を、お貸し下さい。






















 肩越しに、涙で潤んだ瞳を開けると


 明彦の銀髪が、白い制服の襟元で・・・光を浴びて輝いて、いた










01: ナミダアメ


( キラキラキラ。それが、神様からの返事のように思えたんだ )








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