「 どう?アレン 」






 彼女はそう言って、くるりと回って見せた。
 遠心力に、彼女を包むスカートが、華麗に弧を描く。
 翻った裾が宙を舞って・・・僕は、すっかり魅せられていた。


「 ・・・似合わない、かな? 」
「 い、いえ!そんなこと・・・!! 」


 ありません・・・と小さく呟いて。
 朱くなった顔を上げて、もう一度、彼女の姿を見つめた。


 ・・・特殊な布地、なんだろうか。
 アイボリーなのに、光の加減で虹色に輝いて見える・・・。
 柔らかそうで、空気に溶け込んでしまいそうだ。
 肩を広く見せた、大胆なデザインなのに。
 スカート丈が、膝よりちょっと長めに仕立ててあるので、
 厭らしくなく・・・むしろ、清楚な印象だ。


「 どうしたんですか、それ 」
「 この前、リナリーと街に降りた時に買ったの 」
「 ・・・オーダーメイドかと思いました 」
「 え? 」
「 とっても似合っていますよ、貴女に 」


 素直な感想を述べると、今度は彼女のほうが俯いてしまった。
 恥ずかしそうに、頬を染めて・・・。
 そんな顔を見たら、僕にも熱が伝染してきた。


「 「 ・・・・・・ 」 」


 部屋に、沈黙が立ち込める。
 僕と彼女は突っ立ったまま・・・床ばかり見つめていた。
 彼女の足の指が、居心地悪そうに、もじ、と動く。その指先まで朱かった。
 可愛いな・・・と思って、溜まらず吹き出す。


「 ・・・ふふ、嬉しいな 」


 それをきっかけに、彼女も微笑んだ。笑顔が零れる。
 途端、部屋を満たしていた空気が、朗らかになっていく。
 花のような笑顔、って・・・こんな顔なんだろうなぁ。










 そう、思ったら・・・。




 ・・・急に、彼女を抱き締めたい衝動に、駆られて。
 僕はさりげない様子を装って、手を伸ばし・・・・・・・・・。










「 あ! 」
「 え! 」


 悪いこと( ・・・は、これからする気はあったけれど )未だ触れてもいないのに。
 彼女の大きな声に、伸ばしかけていた腕を慌てて引っ込める。
 そんなことに全く気づいていない彼女は、ああ、ごめん、と。




 ・・・また、微笑んだ。




「 ラビと神田にも、このワンピース、見せに行く約束だったんだ! 」
「 ・・・2人に?どうして?? 」
「 街での帰り際に逢って、着た姿を見せて欲しいって言ってたから・・・ 」


 ・・・ぴ、くっ。


 コメカミが、白髪に覆われていて、本当に良かった。
 思いっきり引き攣ったのを、彼女に悟れることがなかったから。
 僕は、団服のコートを脱いで、彼女の肩にかける。
 すると、不思議そうな顔で僕を見上げるので・・・極上のスマイルを、向ける。


「 ・・・見せに行くのは、もう少し、後回しにしませんか 」


 え、と声を上げた唇に、人差し指を押し当てる。
 かかっと彼女の頬に、熱が戻ってくる・・・予想、通りだ。
 その様子を満足そうに見つめて、さっき取り下げた腕で、抱き締めた。


「 ね? 」


 彼女は身体を硬くしている。驚きと、照れと、混乱で頭を一杯にして。
 ふと・・・回って見せたワンピース姿が、脳裏をよぎった。






 ・・・ああ、そうか。


 クルクルと表情が変わっていく彼女と、同じなんだ・・・。














 こんなにも強い独占欲が・・・僕の中にあったなんて
 君といると、自分でも驚いてばかりです


 もったいなくて、ラビや神田に見せられません
 可憐なワンピース姿も、困った顔も、驚いた顔も・・・笑った、顔も






 僕の・・・全部、僕だけの、モノです




































 僕は、団服の襟元を引き寄せて


 強張った彼女の首筋に・・・強く、吸い付いた










04: 万華鏡


( 永遠に消えない、僕の、モノっていう、刻印ですから )








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