俺、少し前まで笑顔・・・苦手、だったんだ。
どうやって笑うのかなんて、誰にも教えてもらわなかったし。
どんな風にいつも笑っているのか・・・自分自身でも想像できなかった。
だから、笑顔のモデルができなくて、カメラマンを困らせた。
雑誌の見出しには” 孤高の存在 ”なんて大きく書かれて
色んな誤解を生んで・・・たくさんたくさん、嫌な想いをした。
精巧に作られた、人形なんだ・・・と。
( それは、とても傷ついた言葉だったんだ )
そんな時、だ。
教会の前で・・・お前に、再会したのは・・・。
どすん、と背中を襲った衝撃に、俺は振り返る。
同じ色の制服に包まれた、自分よりひと回り小さい、女の子。
痛そうに腰を擦っている姿に、思わず手を差し伸べた。
「 あ、同じ学年だったんだ。ご、ごめんね 」
「 ・・・いや 」
俺を年上だと思って、慌てて謝ってきたよな・・・お前。
飾らない、明るい照れ笑いに、俺もつられて笑った。
・・・そうしたら、急に・・・
目の前の彼女が、思い出の中の少女だ、と気付いた瞬間・・・。
心を覆っていたものが・・・剥がれたんだ。
雪溶けのように、目に写る景色が色づいていく。
無くしたパズルのピースを、ひとつずつ、ひとつずつ拾っていくように
別れた時間から、今までの空白の時間を、『 毎日 』が埋めていく。
「 葉月くん 」
俺を呼ぶ声が、俺を変えていく。
お前は初めて会った時より、昨日より・・・日に日に綺麗になっていくんだな。
・・・そうだな。俺も、変わらないとな。
お前の隣に・・・堂々と立っていられるような『 俺 』でありたい。
「 珪クン、最近、何かいいことあった? 」
そう、聞かれる機会が増えた。レンズの向こうから、俺に笑いかけている。
カメラマンは、やっぱり被写体をよく見ているな、と感心した。
だから・・・俺は自信を持って、頷く。
「 ・・・ありました。とっても、いいこと 」
・・・おかげで『 笑顔 』で撮る写真が増えたよ。
マネージャーが喜んでた。営業の幅が広がった、って・・・そうなのか?
答えは、とても簡単だった、って気付いたから。
カメラの先にお前がいると思って、微笑む。
俺の笑顔のコツは、これだけ。
・・・でもこれが、俺にとっての最高、なんだ。
「 いいの?珪くん。私が撮影にお邪魔しても・・・ 」
「 ああ・・・マネージャーとカメラマンが、是非にって 」
・・・今日の撮影は、きっと大成功だろう。
初めての海外雑誌撮影という試みで、
スタッフもマネージャーも、みんな必要以上に緊張しているが、
その撮影の見学に、彼女が、実際にカメラの前に立っているというのだ。
きっと・・・ちょっとだけソワソワしたように、腰を浮かせて
高潮した頬で、俺の姿を見ているであろう彼女を想像して・・・吹き出す。
「 え、何笑ってるの?珪くん 」
「 ・・・いや、何でも 」
行こうか、という俺の声に、彼女が頷く。
そして・・・あの時と同じように。
俺の掌に、彼女の掌が、重なる。
俺、幸せだ
昔願った通り、お前の傍にいられることが
気持ち、伝わるといいな・・・この写真で
本当の俺の、最高の笑顔を・・・・・・・・・君に
05:
DOLLY
( 君がおかげで、俺はこうして存在して、立っていられるんだ )
拍手、有難うございました。
01 ナミダアメ
02 灼熱の華
03 楽園(エデン)で逢いましょう
04 万華鏡
05 DOLLY
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