忘れ物はないかな・・・と辺りを見回す。






 片付けてみると、広く感じた。
 アイツをここに招待した時、二人は無理だな、とか思ったのに、さ。
 ・・・最後の一個、この段ボールを運べば終わりだ。
 俺は名残惜し気に、部屋を見渡した。
 少し変わった形をした、自慢の自室だった。
 夜の仕事の関係で、あまり人を招待することはなかったが・・・


「 うわぁ・・・素敵なお部屋だね 」


 彼女がそう言ってくれた時、勇気を出して呼んでよかったと思った。


「 海が一望できるんだね・・・・・・あ 」
「 なんだよ 」
「 瑛が・・・ここで、海を眺めてる姿を見たことがあるの 」


 嬉しそうに微笑む彼女の隣に並ぶ。
 いつ?と俺が尋ねると、彼女は眩しそうに目を細めた。


「 入学式の日 」
「 ・・・マジかよ 」
「 綺麗な男の子だなって思ったんだ。
  まさか、こんな天邪鬼だとは思わなかったけど 」


 すかさずチョップを食らわしたけれど。
 ・・・・・・凄く、嬉しかったんだ。胸が詰まって、言葉にならないくらい。
 あの時、繋いだ手を解いて・・・俺は今日、ここを去るけれど。
 どうか、幸せになって欲しい。彼女を思い出すと、そう願って止まない。










「 どうして・・・どうしてなの!?瑛!! 」










 浜辺で号泣する姿が、忘れられない。
 小さくなったその背中を、抱きしめてやれなかった悔しさも。
 お前を「幸せ」にするのは、誰よりも「俺」でありたかったのに。
























 窓を閉めると、パタンと乾いた音が響いた。
 爺さんの、俺を呼ぶ声がする。
 返事をした俺は段ボールを抱えて・・・






 そのまま、振り返らずに部屋を後にした。
















02: この場所から始まった


( そして、この場所で終わりを迎える )

ing.



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01「 蕾が花開く時 」 02「 この場所から始まった 」
03「 桜散る頃 」 04「 10年後のこの日にまた逢おう 」