手を伸ばした先に、アイツがいた。
 真っ赤な顔をして、真っ赤な瞳をして・・・どんだけ泣いたんだよ、お前。
 ボサボサになった髪を梳いてやれば、その手に擦り寄ってくる。
「 ユウ!私が、わかる? 」
「 ・・・ユウって、呼ぶな 」
「 良かった・・・いつものユウだ 」
 てめぇ・・・呼ぶなって・・・。
 二度目の訂正をする前に、ふと自分の状況に気付く。
 伸ばした手に、包帯が巻いてある。腕だけじゃない、肩までずっと、だ。
 ところどころに、紅の斑点がある。血の色。血痕の痕。
 その横で、ぽつ、ぽつ、と水滴が落ちている点滴。
 白いカーテン、白い天井。泣いているアイツ。
「 医療室。3日も眠ったままだったんだよ・・・随分、傷が深かったみたい 」
 察したように彼女がそう言い、ゆっくりと微笑んだ。
 よかった・・・と呟いて、俺の手を握り締めて泣いた。
 ・・・格好悪ィ。
 抱き締めるのは無理でも、せめて頭を撫でてやるとか、手を握り返すとか。
 力の入らない俺の手は、彼女の涙を拭うことすら出来やしない。
「 おい・・・あまり泣くな 」
 だから、せめて。
「 お前が泣くと・・・お、俺まで悲しくなるだろっ!? 」
 日頃言えないような言葉で、彼女を。
「 いつでも、ど、どんな時、でもっ・・・笑顔でいて欲しいんだ 」
 彼女を・・・慰めてやりたいんだ。
「 ・・・ユウ・・・ 」
 彼女の顔が( 情けないほど )力の抜けた表情になって。
 潤んだ瞳から、またパタパタと涙が落ちた・・・。
 ( おかげで三度目の訂正は出来なかった )
 そしてガタン!と椅子から立ち上がると、
「 婦長さーんっ!ユウが、ユウがどっかおかしいんですーっ!! 」
 と、病室を飛び出していってしまった( ・・・てめェ!! )
 ハァ・・・何なんだ、コイツ。
 折角俺が、気を遣ってやったものを・・・っ!!
 怒っているはずなのに、だんだん笑えてくる。口の端が、く、と持ち上がった。
 婦長とアイツが駆け寄ってくる足音がする。
 けれど・・・到着を待つ前に、俺の意識は沈んでいった・・・。
 もう一眠りすれば、体力も身体の傷も、8割は回復するだろう
 起きたら一番に・・・アイツに、制裁を加えないとな
 今、したくても出来なかったことを、実行する
 一発殴って、抱き締めて、それから、それから・・・
 『 ただいま 』のキスを、ひとつぶ
01:幸せだよって、
笑って、目を閉じた
( お前の元へ還りたかった、なんて悔しいから絶対言わないけれど )
ユグドラシル