腕の中で、感じている温もり。


 何度夢に見たことか・・・いや、夢なんてこと、ないよな?








「 せん、ぱ・・・慎吾、先輩っ!! 」


 夢オチじゃない証拠に、腕の中の生き物がジタバタ暴れている。
 ( 俺の夢ん中じゃ、コイツは黙って俺を受け入れてたぞ )


「 慎吾先輩ったら!! 」
「 ・・・何だよ 」
「 重いんですけど! 」
「 監督のおかげで、いっぱい筋肉ついてっからな 」
「 ついでに、止めて欲しいんですけど! 」
「 無理 」


 会話になってないんですけど・・・と、彼女は溜息を吐く。
 疲れてきたのか、暴れ方がだんだん弱くなってきた。
 そんなアイツの身体を抱いて、瞳を閉じる。


 ・・・柔らかい。野郎とは違う『 女 』の感触( 当然だけど )
 短い髪から香る、汗と、ほのかなシャンプーの匂い。
 首筋に顔を埋めて・・・このまま噛み付いてしまいたい衝動に駆られた。


「 先輩・・・本気で、困る。こんなところ、準太に見られたら 」


 準太。
 その名前に、瞳を開けた。自分でも驚くほど、冷たい炎が宿ってる。


「 いくら慎吾先輩といえど、怒られちゃうんですけど・・・私・・・ 」
「 どういう意味だ? 」
「 ふざけて抱きつく相手が違うと、思います 」
「 じゃー、誰ならいいワケ?? 」
「 ・・・彼氏の、いない、女の子 」


 恥ずかしそうにそう言って、耳たぶが赤く染まる。
 ・・・今、準太のコト考えたのか?
 付き合ってまだ3ヶ月。キスもしていなさそうな、ウブな二人。
 なあ、男女の付き合いなんて、それだけじゃないんだぜ。
 嬉しさも二倍なら、悲しさや寂しさだって二倍だ。
 準太はいい奴だと思う。甘い部分はあるが、頼りがいのある男だ。
 だけど・・・女のコトとなると、からっきし。


「 ・・・それじゃ、ダメなんだ 」
「 えっ? 」
「 俺が今抱き締めたいと思ってるのは、お前だ 」


 こんなコト言って、困るのはわかってる。
 俺と準太の、今まで築いてきた関係が壊れてしまうのもわかってる。
 でも・・・歯止めが、利かない。


「 し・・・慎吾先輩、じょ、冗談はやめ、て、下さい・・・っ 」


 冗談ではない、と悟ったのか。
 彼女はなりふり構わず暴れ出す。俺の胸板を、力の限り、叩いた。
 身体を拘束する腕を解こうとしているが、女の力に揺らぐほどヤワじゃない。
 暴れても無意味なことなのだ・・・次第に、拳の力が緩む。


「 う・・・っ、ふぇ・・・ 」


 小さな嗚咽が聞こえてきた。
 ごめん・・・卑怯だよな。お前、今、準太といて幸せなのにな。
 謝りたい気持ちだけど、ここで謝って、お前の手ぇ離したら。


 ・・・きっと、俺、この瞬間を一生後悔する。








 だから言わせて。


 お前には悪いけど・・・俺自身の、ために。












「 ・・・・・・好きだ 」












03:結びなおせよ、





赤い糸




( 俺の小指の先に繋がっているのは、お前だけだと信じてる )
ユグドラシル

拍手、有難うございました。

01 幸せだよって、笑って、目を閉じた
02 絶対的に君なんです 03 結びなおせよ、赤い糸
04 キスしたふたりのキスのこと