ちらり、と時計を見れば、短針がひとつ移動していた。
 全速力で全速力で。かつてないほど、全速力で。
 追いかけて追いかけて。きっと追いつくと、信じて。
 祈って祈って・・・・・・貴方に、もう一度だけ逢いたくて。
 なのに、神様は残酷だ。
 逢いたいと願った彼は・・・私の好きだった、ヒトは、
 定刻の電車に乗って、この町を出て行ってしまった。
 ・・・違う。
 元々この町の人間ではないから『 戻った 』というべきなのかも
 ( でも、この一年間は確かにこの町の人間だった )
 さっきまで、幼馴染の千枝や雪ちゃんが傍にいてくれて、ずっと慰めてくれた。
 陽介やクマくん、一緒に居た一年生までもが、心配そうにしていた。
 置いていかれた子供のように、空を仰いで泣き喚く私を。
 ・・・しばらくして、何かを察してくれたのか。
 がらん・・・とした駅に、一人にしてくれた。
『 ・・・俺、元の町に帰ることになったんだ 』
 と言われた時、私、酷く顔が歪んだよね、きっと。
 こんなに短い恋しか出来ないなら、逢わないほうが良かったのかな、とか。
 一年しかいないってわかってたのに、どうして告白して来たの、とか。
 いっぱい、いっぱい当たって・・・本当にごめんね。
 突然襲い掛かった不安に打ち勝つ勇気の無かった私は、彼をとても傷つけた。
 いなくなるなら、と途端に彼を避け出した。自分を守りたかっただけ、で。
 そんな時、ふと思ったの。私・・・大切なこと、ちゃんと伝えた?
 『 ごめんね 』よりも、たくさんの『 好き 』と『 ありがとう 』を。
 一緒に居た時間は、どんな記憶よりも鮮やかに蘇る。
 キラキラした宝石のように、ココロの奥底で光り輝いてる。
 ・・・ねえ、やっぱり逢いたいよ。逢って、伝えたい。
 この『 出逢い 』に、何よりも感謝しているの。
 それだけが、私の願い、なの。
 いつの間にか、電車が到着したみたい。
 まばらな足音が、座り込んだベンチを通り過ぎていく。
 その足音が遠ざかって、しばらくして・・・ざ、と砂を踏む音がした。
「 ( ・・・誰? ) 」
 誰も、私に気にとめないと思ったのに。俯いていた顔を、少しだけ上げる。
 ・・・見覚えのあるスニーカー。あれ、どこで見た・・・っけ。
 そのまま視線を上げて、大きく目を見開いた。
「 ただいま 」
03:願ったのは奇跡
PERSONA4 「 主人公 」
( そこにあったのは・・・記憶の中でも鮮明だった、笑顔 )
ユグドラシル