「「 あ 」」










 ・・・と、言ったきり、二人とも黙ってしまった。
 巷では風邪が流行っているとかで、うちの寮でも美鶴先輩と( 軟弱な )ずんぺーが倒れた。
 ( 軟弱な )ずんぺーはおいといて。美鶴先輩は、タルタロス探索の主力メンバーだ。
 『 今週の土日は、探索を控える 』というリーダーの言葉通り、待機しているワケなん、だけど。


「 真田先輩は、何しているんですか、こんなところで 」
「 それは俺の台詞だ。お前こそ、こんな時間にどうした 」
「 ・・・んー、たまには遠くから眺めてみようかと思って 」


 タルタロスを。


 風が吹くこの寮の屋上から、白亜の建物・・・私たちの学校が見える。
 12時までもうすぐ。その時刻を迎えれば、世界は一変する。
 何度起こっても、未だに慣れなくて、毎晩身体を震わせてしまう。


「 もう、どのくらいになる? 」
「 S.E.E.Sに入って、ですか? 」
「 ああ 」
「 半年、くらいですね。真田先輩に助けてもらってから 」


 影時間の存在をその身で体験した時、震えていた私を救ってくれたのは、彼だった。
 ・・・あの時の、先輩の背中を、瞬時に思い出すことが出来る。
 ( その背中について行ける能力が自分の中にあると知った時、誇りに思った )
 そうか、と先輩は呟いて、近くに置いてあった缶を口元へと持っていった。
 なかなか見ないジュースの缶だな、と思って、よく見ると・・・。


「 ・・・先輩、それ、もしかして・・・ 」
「 美鶴には言うなよ。こういうことに煩いからな、あいつは 」
「 どーしよっかなー。真田先輩がお酒飲んでたって知ったら、怒りますよね、そりゃ 」
「 だから、言うなと言ってるんだろ 」
「 せ・ん・ぱ・いっ!!こーいうのは『 ギブアンドテイク 』ですっ!! 」
「 な・・・なん、だよ 」
「 ふっふっふ・・・『 はがくれラーメン一週間 』で手を打ちます! 」


 ぱちん、とウィンクまでしてみせると、真田先輩が一瞬きょとん、とした顔をした。
 ( ・・・あ、真田先輩にしては、珍しい表情 )
 そして、るみるいつもの・・・表情を通り越して、ちょっと意地悪そうな笑みを浮かべた。


「 ほう・・・この俺に『 条件 』を突きつけるとは、お前も偉くなったもんだな 」
「 さ、真田せんぱ・・・ 」
「 少しでも油断すると、すぐ生意気になるのはお前の悪いクセだ、このっ! 」
「 きゃーきゃーきゃーっ!!! 」


 真田先輩のおしおきの手をかいくぐって、屋上を跳ねる。
 運動部の主将に、帰宅部の私なんかが、当然敵うはずがなくて。


「 ひゃ、あっ! 」


 右肩を掴まれて、そのまま引き寄せられる。
 彼の胸に飛び込んだと思ったら、そのまま二人で、バランスを崩した。




 石畳にぶつかるっ!・・・はずなのに、あれ・・・痛くない・・・。








「 ・・・大丈夫か? 」








 耳元で呟く声がして、顔を上げると。
 目の前に・・・真田先輩の、端正な顔立ちがあった( う、わ )
 

「 せ、んぱ・・・い 」
「 悪い、ふざけ過ぎたな 」


 そう言って、に、と笑った先輩の顔が間近に合って、顔が熱くなるのがわかった。
 あっ、やばい!せ・・・先輩に抱きかかえられてるとかコレ!夢じゃない、よね!?
 さっきの威勢は、どこへやら。
 すっかり大人しくなった私の名前を、先輩が、呼んだ。


















「 ( ・・・・・・あ ) 」


















 ・・・カチリ、とどこかで音がした。




 世界は、動き出す。夜空の星は、光彩色の奥へと消えていく。
 けれど・・・私は、その『 瞬間 』を見ることは出来なかった。
















 目の前に広がったのは、彼の、銀の髪の色






 背筋が震えたのは・・・きっと、タルタロスのせいじゃ、ない
















01: 星の瞬く間だけ


( 一瞬の、夢のような・・・ううん、夢だったらこんなにハッキリ覚えていない、キスの感触、なんて )

回遊魚



拍手、有難うございました。



01「 星の瞬く間だけ 」 02「 今日も明日もあさっても 」
03「 Beloved Bastard 」