「 先輩のことが、好きです 」








 開いた口が塞がらない。青天の霹靂、とはまさにこのこと。
 大量のタオルを入れていた洗濯カゴが、ボスンと転落して辺りにタオルが散らばった。
 聞き返せばよかったのかもしれない。え、もう一回言って?みたいな。


 ・・・でも、それが冗談でないことは、瞳を見れば・・・わかる。


 わ、私だって、実は・・・負けないくらい、利央のこと好き、なんだからねっ!?
 夏の大会が終わって、桐青の野球部では新キャプテンが立ち上がったり、
 目まぐるしく移り往く日々に、告白している暇なんてないって思ってた。


 だって・・・告白して、ふ、フラレ・・・たら、どうしたらいい?


 利央は、これでもチームにとって大切な捕手だ。
 どう考えたって、去るべき者は私。
 でも、私はこの野球部が大好きだったし、マネージャーとして、
 選手である利央を支えたいという願いもあった・・・・・・






 ・・・・・・・・・な・の・に!!!( コイツはっ )






「 ( 立場が微妙になるとか考えてないはず )・・・利央、あ、あの、 」
「 先輩は、俺のこと嫌いっすか? 」
「 ( え )いや、そうじゃなくって・・・! 」
「 俺・・・俺は・・・先輩と逢った時から 」
「 ちょ、っ!! 」


 じり、と熱弁を振るいながら、一歩ずつ距離を縮めてくる利央。
 い・・・いつものヘタレキャラは、どこへいったのよ!?


「 先輩、ちゃんと聞いて 」
「 や・・・来ないで、っ 」


 そんな真剣な言葉で


「 俺さ、ずっとずっと、ずーっと・・・ 」


 そんな真剣な表情で


「 り・・・お・・・ 」




 そんな・・・真剣な眼差し、で。












「 ・・・先輩のことが、好き 」












 私を、みない、で






 背中に硬いものが当たり、そこで行き止まりなのを知った。
 利央の真っ直ぐな視線に追い詰められて、とうとう・・・腰が落ちた。
 とすん、と音を立てて、地面に座り込む。両手で顔を覆いながら。


 ・・・でも、耳も首筋まで真っ赤なのはわかる。
 全てを覆えない手のひらの小ささを、呪った。


 上手くはぐらかせるような度胸があれば、この告白をなかったことにして、
 いつものように冗談で誤魔化せたのかも知れない、のに。


「 ( 好きな人の告白を流しちゃうほど・・・強くないよ ) 」
「 ・・・先輩 」
「 ( 立場とか、関係とか、そんなんどうだっていい、だって、私は、利央、が ) 」
「 せーんぱぁい・・・もしかして、本気で嫌だった、とか? 」
「 い・・・嫌じゃ、ないっ!! 」


 がばっと頭を上げた先に、利央の顎があって、見事にクリーンヒット&ダブルK.O。
 私はつむじを押さえ、彼は部室の床にひっくり返った。
 3分くらい、お互い痛みで動けなかったけれど・・・突然、っ!


「 よかった〜っ、嫌じゃないって言ってくれて!! 」


 涙目の私に抱きついて、痛みの残るつむじに頬擦り。
 『 ドキドキ 』よりも『 ズキズキ 』の方が勝った私は、苦し紛れに・・・


「 ・・・好き、とも言ってないけれど・・・ 」
「 いーや!先輩は俺のコトが好きっす!!絶対!! 」
「 ・・・・・・( 間違ってはいないけれど、その自信はどこから? ) 」
「 で、先輩・・・無言ってコトは、勝手にしちゃうけれど、いっすか? 」
「 ・・・は、何・・・ 」
「 沈黙は肯定とみなす、ってよく言うっしょ? 」


   途端、何の了承もなしに、利央の唇が私の唇に吸い付いた。
 これにはさすがに驚いて( 声が出なかった・・・! )
 有無を言わさないキスに、今度は『 ズキズキ 』が『 クラクラ 』に変わる。






 ( もしかして・・・これから、ワガママ利央に押されっぱなしなのかな、私・・・ )
















 なんて甘い未来を想像したら、自然と頬が緩んできて


 柔らかい唇の感触に身を委ねて・・・・・・そのまま、瞳を閉じた
















04: Beloved Bastard


( 隣に利央がいてくれるのなら、そんな未来もありなのかな・・・ね、どう思う? )

回遊魚



拍手、有難うございました。



01「 星の瞬く間だけ 」 02「 今日も明日もあさっても 」
03「 Beloved Bastard 」