彼女がケガをしたと聞いたのは、6限が終わったあたりだった。






 すれ違った利央が、廊下を走っているのなんか珍しくねーけどさ。
 その顔が青ざめていたので、思わず引き止めた。
 2人で保健室に行けば、脚を捻ったという彼女に、彼氏である準太が寄り添って立っていた。


「 準太は、部活あんだろうが。俺はもう引退してっから、一日くらい休んでもいいし 」
「 でも・・・ 」
「 私は大丈夫だよ。準太は、ちゃんと部活出て。慎吾さんに送ってもらうから 」


 ね?と下から準太を見上げる彼女に、頷いてみせる。彼女が満足げに微笑む。


 ・・・もう、何度見たかわからねぇほどの、やりとり。
 その度に胸が疼くのは、何故だろう。
 彼女が好きだから、とかじゃない。準太と一緒にいる時のコイツは、心底幸せそうだ。
 それをハタから見ているのが、俺は好きだった。


 そんな・・・取りとめもないことを考えていた時だった。


「 ね、慎吾さん、見て下さい 」


 自転車の後部で俺の背にしがみついてたはずの彼女の指が、つ、と伸びた。
 開けた山の合間に見えた夕陽の、最後の燃焼。
 やがてくる夜の帳に逆らえないけれど、それでも諦めきれない、といわんばかり、の。


「 綺麗、だな 」


 いつもなら、練習している時間ですもんね、と彼女が笑った。
 そして・・・消えてしまいそうな声で、呟いた。




「 ここの夕陽・・・いつか、準太にも見せてあげたいな・・・ 」










 ・・・・・・ああ、そうか。




 彼女には準太が必要で。準太には彼女が必要で。
 肩を寄せ合う、二人のシルエットに・・・俺は、憧れていたんだ。
 彼らが『 夜 』ならば、俺は今にも沈みそうなあの『 夕陽 』。
 俺が、どんな女と付き合っても手に出来なかったものを、こいつらは持っているから。










「 ・・・ちょっと飛ばすぜ、しっかり掴まってろ 」


 彼女の唇から小さな悲鳴が聞こえたが、俺は構わずペダルを踏んだ。
 さっきとは打って変わって、自転車が揺れるもんだから・・・少し怖くなったのかも。
 背後の彼女が、俺の腰にぎゅっと力を込めてしがみついた。
 日に焼けているけれど、相変わらず細い両腕。
 何となく、その手に自分のを重ねると、彼女の手が一瞬、ピクン!と震えた。
 振動が、まるで俺のナカにまで届いたように・・・俺の心臓も一緒になって、震えた。










 夕陽に照らされたシルエットは、俺が憧れていた、そのものだった。










02: さながら恋人みたいに



( 準太のものだとわかっていても、新しく生まれた感情をセーブできるほど器用じゃなくて )

31D/サイダー



拍手、有難うございました。



01 思いのほか強く手を握るから、いつものように笑えなかった( 戦国BASARA:真田幸村 )
02 さながら恋人みたいに( おおきく振りかぶって:島崎慎吾 )
03 僕は君を見るたびに、あの夜のことを思い出すのだろうか( D.Gray-man:アレン・ウォーカー )