本鈴がもう鳴ろうかという頃に、隣の席の阿部くんが、顔の前に片手を上げて頭を下げた。
「 ワリ、教科書忘れたみてえだから、お前の半分見せて 」
阿部くんの性格からして・・・一時間くらい教科書なんかなくても、って言いそうなのに。
( まだ席替えしたばかりで、あまり話したこともなかったけど、何となく )
・・・でも、もう他のクラスに借りる時間もないもんね。
断る理由も見つからなくて、いいよ、と答えた。
少し机を寄せると、阿部くんも自分の机を積極的にくっつけてきた、
がつ、とぶつかる音がして、私たちは教室の一番後ろの席で並ぶ。
教科書を広げて、少し強めに折り目をつけていると、おい、と私を呼んだ。
「 いいよ、そんなに強くつけなくても 」
「 あ・・・でも、せっかく見せるんだから 」
「 見ねーよ、教科書なんて・・・全部、口実だから 」
「 え 」
驚いて顔を上げると、頬を少しだけ染めた彼が・・・にやり、と意地の悪そうな笑みを浮かべていた。
先生が教室に入ってきて、起立、と号令がかかったので、反射的に。
「 俺が見てたいのは、お前だよ 」
小さく聞こえた言葉に振り返る間もなく、礼、という号令に頭を下げる。
着席した私に、更に追い討ちをかけるように・・・。
膝に乗せていた右手に、阿部くんの少しゴツゴツした左手が添えられた。
・・・阿部くんは、野球部で捕手をやってるって聞いたことがある。
ミットを持つ手で、私の手を大切そうに優しく包んだので・・・そのギャップに身体が震えた。
いつも授業なんか眠たいだけ、と思っていたのに( とてもじゃないけど、眠れない! )
その一時間は、まったく授業が耳に入らなかったのは、お約束。
* * * * * * * * * *
彼女が気になりだしたのは、つい最近のことだ。
午後の授業を子守唄に、教科書の影でスヤスヤと眠っていた彼女。
俺も眠たくて、頬をついてぼんやりとしていたけれど・・・彼女ほどじゃあ、ない。
静かだった寝息がピスピスと鼻息に変わり、にやぁーっと蕩けるような笑みを浮かべた。
思わずぷっと吹き出すと、どうした?阿部、と先生に呼ばれる。
「 いえ・・・すみません 」
こんなやり取りが合っても、彼女は一向に起きようとしない。
若干厭きれていたが・・・そのうち、寝顔から目が離せなくなった。
ころころと変わる表情。俺、最近こんなに表情豊かになったことって、あったか?
それがきっかけだっただけで、今度は彼女自身に興味が沸いてきて。
どこにいても・・・目で追うようになった。
朝の登下校でも、教室にいても、部活前の一瞬でさえ。
「 ・・・阿部くんって、野球部だっけ? 」
「 あ?お、おう・・・ 」
「 これから部活?頑張ってね 」
鞄を担いで席を立った俺に、彼女がいってらっしゃいと手を振る。
何気ない挨拶だったかもしれない。だけど、その無邪気な笑顔が愛らしくて。
思わず・・・俺も笑顔を零して、彼女に手を振った。
俺の『 満面の笑み 』に周囲が驚いて、次の日から俺を見る目が変わったとか。
01.クラスメートで
( 野球部連中に見られたら『 阿部、キモい! 』とか騒ぎそうな笑顔だったらしい )
茨姫
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01.クラスメートで( おおきく振りかぶって:阿部隆也 )
02.幼なじみで( D.Gray-man:神田ユウ )
03.初恋の相手で( ときめきメモリアルGS2:佐伯瑛 )
04.今も片想いで( PERSONA3-P:荒垣真次郎 )
05.実は一回フラれてます( 戦国BASARA:片倉小十郎 )
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