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 本鈴がもう鳴ろうかという頃に、隣の席の阿部くんが、顔の前に片手を上げて頭を下げた。
 
 
 
 
 「 ワリ、教科書忘れたみてえだから、お前の半分見せて 」
 
 
 
 
 阿部くんの性格からして・・・一時間くらい教科書なんかなくても、って言いそうなのに。
 ( まだ席替えしたばかりで、あまり話したこともなかったけど、何となく )
 ・・・でも、もう他のクラスに借りる時間もないもんね。
 
 
 断る理由も見つからなくて、いいよ、と答えた。
 少し机を寄せると、阿部くんも自分の机を積極的にくっつけてきた、
 がつ、とぶつかる音がして、私たちは教室の一番後ろの席で並ぶ。
 教科書を広げて、少し強めに折り目をつけていると、おい、と私を呼んだ。
 
 
 
 
 「 いいよ、そんなに強くつけなくても 」
 「 あ・・・でも、せっかく見せるんだから 」
 「 見ねーよ、教科書なんて・・・全部、口実だから 」
 「 え 」
 
 
 
 
 驚いて顔を上げると、頬を少しだけ染めた彼が・・・にやり、と意地の悪そうな笑みを浮かべていた。
 先生が教室に入ってきて、起立、と号令がかかったので、反射的に。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「 俺が見てたいのは、お前だよ 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 小さく聞こえた言葉に振り返る間もなく、礼、という号令に頭を下げる。
 着席した私に、更に追い討ちをかけるように・・・。
 膝に乗せていた右手に、阿部くんの少しゴツゴツした左手が添えられた。
 ・・・阿部くんは、野球部で捕手をやってるって聞いたことがある。
 ミットを持つ手で、私の手を大切そうに優しく包んだので・・・そのギャップに身体が震えた。
 いつも授業なんか眠たいだけ、と思っていたのに( とてもじゃないけど、眠れない! )
 
 
 
 
 その一時間は、まったく授業が耳に入らなかったのは、お約束。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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 彼女が気になりだしたのは、つい最近のことだ。
 
 
 
 
 午後の授業を子守唄に、教科書の影でスヤスヤと眠っていた彼女。
 俺も眠たくて、頬をついてぼんやりとしていたけれど・・・彼女ほどじゃあ、ない。
 静かだった寝息がピスピスと鼻息に変わり、にやぁーっと蕩けるような笑みを浮かべた。
 思わずぷっと吹き出すと、どうした?阿部、と先生に呼ばれる。
 
 
 
 
 「 いえ・・・すみません 」
 
 
 
 
 こんなやり取りが合っても、彼女は一向に起きようとしない。
 若干厭きれていたが・・・そのうち、寝顔から目が離せなくなった。
 ころころと変わる表情。俺、最近こんなに表情豊かになったことって、あったか?
 
 
 それがきっかけだっただけで、今度は彼女自身に興味が沸いてきて。
 
 
 どこにいても・・・目で追うようになった。
 朝の登下校でも、教室にいても、部活前の一瞬でさえ。
 
 
 
 
 「 ・・・阿部くんって、野球部だっけ? 」
 「 あ?お、おう・・・ 」
 「 これから部活?頑張ってね 」
 
 
 
 
 鞄を担いで席を立った俺に、彼女がいってらっしゃいと手を振る。
 何気ない挨拶だったかもしれない。だけど、その無邪気な笑顔が愛らしくて。
 
 
 
 
 思わず・・・俺も笑顔を零して、彼女に手を振った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 俺の『 満面の笑み 』に周囲が驚いて、次の日から俺を見る目が変わったとか。
 
 
 
 
 
 
01.クラスメートで 
 
 ( 野球部連中に見られたら『 阿部、キモい! 』とか騒ぎそうな笑顔だったらしい )
 茨姫
拍手、有難うございました。貴方の拍手が、私の元気の源です。
 
 01.クラスメートで( おおきく振りかぶって:阿部隆也 )
02.幼なじみで( D.Gray-man:神田ユウ )
 03.初恋の相手で( ときめきメモリアルGS2:佐伯瑛 )
04.今も片想いで( PERSONA3-P:荒垣真次郎 )
 05.実は一回フラれてます( 戦国BASARA:片倉小十郎 )
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