開いた口が塞がらない。






 ぽかーん、と開けて立ち尽くした私の肩を、叩かれる。
 勢い良く叩かれて、数歩前に出たけれど、それでも目が離せないほど・・・呆気に取られていた。


「 どうよ!?俺様自慢の四国の海は!? 」
「 ・・・・・・すごい、です・・・・・・ 」


 ・・・どうしよう、この『 気持ち 』が当てはまる言葉が見つからない。
 胸の中にある『 気持ち 』が膨れ上がって、溢れてくるのが解る。
 溢れて溢れて・・・零れ落ちたのは、涙だった。
 ぽろり、と落ちたものを見て、隣に立っていた元親様が、ぎょっとした表情で私を見ている。


「 ( や、やだ・・・泣いたりなんか、したら ) 」


 優しい元親様のことだ、心配、されちゃう・・・!
 予想通り、というか・・・泣き出した私の両肩を、掴まれて前後に揺さぶられる。


「 お、おい!どうした!?俺、何かしたか?何か嫌なことでもあったか!? 」
「 ち・・・違うんです、あ、あの、もと、ちかっ、様・・・ 」
「 何だ!?何でも聞いてやる、言ってみろっ!! 」
「 き・・・・・・きぼち、わるひ・・・・・・ 」


 ただでさえ、初めての航海なのに。更に揺さぶられて・・・三半規管が耐えられなくなったみたい。
 青白い表情で、その場に尻餅をつくように座り込んだ私に合わせて、元親さまも膝を付いた。
 ・・・目線が近くなった彼に、首を伸ばす。
 触れたものの感触を確かめるように・・・元親さまは、自分の唇を撫でた。
 が、直ぐさま真っ赤になった。


「 な、ななっ・・・・・・! 」
「 私、元親さまのお嫁さんになってよかった 」






 貴方の元に嫁がなければ、この感動はなかったから。だから、今・・・幸せなんです。
 張り裂けそうな胸の内の『 気持ち 』をお見せすることは出来ないから。


 伝えたいこと、だけ、を伝えたのだけれど・・・。






 彼の瞳には平然とした私が写っていたけれど、対象的に動揺を隠せない様子の元親さま。
 ちっ、これだから天然気質は・・・とかなんとか呟いていたけれど、
 遠くから響いたアニキコールに( 嫁いだばかりの頃はびっくりしたけど )腰を上げた。


 「 馬鹿野郎!冷やかすんじゃねえや! 」


 と一喝すると、座ったままの私を抱き上げた。


「 きゃっ! 」
「 お前が喜んでくれたのなら・・・その、俺も、嬉しいぜ 」
「 は・・・はいっ!! 」


 笑顔になれば、元親さまも、頬を染めたまま・・・ゆっくりと微笑んだ。










「 野郎どもォ、面舵いっぱい! 」










 突然の甲板の揺れにしがみつく。




 元親さまやみんなの笑い声が、広い海を賑わした。












貴方に溺れる



02.昼( 長曾我部元親 )

( 元親様と一緒に、どこまでもこの海の上を疾れたら、素敵ですね )
( おうよ!お前が望む場所まで、この西海の鬼が連れて行ってやらぁ!! )
泪と砂糖水

拍手、有難うございました。貴方の拍手が、私の元気の源です。

01.朝( 毛利元就 )02.昼( 長曾我部元親 )03.午後( 徳川家康 )
04.夕刻( 風魔小太郎 )05.夜( 石田三成 )



10.Morning( ? )